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アガサ・クリスティー 読書感想文

ブラックコーヒー(小説版)

この作品は1930年に始公演されたアガサクリスティの戯曲を1977年にチャールズ.オズボーンが小説化した作品です。場面が食事室、読書室、そして庭で話が進むため、他の話と比べて違和感あります。それと、細かい心理描写がなく、会話と人物の動作で話が進むため、やはり舞台で観てみたいものです。

冒頭のポアロが朝、チョコレートを飲むシーンは小説にのみ描かれているらしいです。甘いチョコレートをおいしそうに飲むポアロと題名にある苦いブラックコーヒーとのギャップが逆に印象深いです。

登場人物もジャップ警部、ジョージとヘイスティングズ大尉と役者が勢ぞろい。

ヘイスティングズは今回ちゃっかりモテ男の役どころを演じていて、これも他の作品には見られないので楽しませてくれました。

サー.クロードが皆を呼んで、苦いコーヒーを飲みながら、「この中には私の手紙を盗んだ人がいる」と宣言するシーン、そしてコーヒーの中にヒオスシンという毒薬を入れるシーン、コーヒーカップを入れ替えするシーンやら、コーヒーが常に舞台の中心にあります。

誰が毒を入れたのか、薬を手のひらに入れたのが誰か、文章から想像するのも読書の楽しみですが、目で見るのも臨場感があるでしょうね、きっと。

女スパイ、セルマ.ゲーツの娘ルシアがどんな顔のどんなイメージの女性なのか、そしてイタリア人医師のドクター.カレリはどんな容貌をしているのかも気になるところです。

私は今まで戯曲の本はなんとなく読みづらいと思えて敬遠してきましたが、この本をきっかけに戯曲集も読んでみようと思いました。

機会があれば舞台も観てみたいものです。

舞台配置図

登場人物

サー.クロード.エイモリー 科学者、アポッツ.クレイヴ

リチャード クロードの息子

ルシア リチャードの妻

キャロライン クロードの妹

バーバラ クロードの姪

エドワード.レイナー クロードの秘書

ドクター.カレリ イタリア人医師

エドナ バーバラの姉

ケネス.グレアム 医師

ジョンソン 警官

ジャップ 警部

セルマ.ゲーツ スパイで美女、娘1人あり

2022.3.21記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

ポアロとグリーンショアの阿房宮

ポアロの長編作「死者のあやまち」の原型となる中編小説で諸事情からお蔵入りとなり、近年になって発表された幻の作品です。

冒頭の前書き解説でこの作品の由来を知りましたが、アガサがこの庭園を深く愛していた事、この場所が他の作品「五匹の子豚」のシーンにも使われた事など書かれていてより一層この作品を理解できました。

長編の「死者のあやまち」を先に読んでいたので内容的には当然中編の方は省略された場面、人物描写も多く、読みごたえとしては長編にはかなわないですが、コンパクトにまとめられていて、これだけでも楽しめる作品だと思います。

私としては中編から長編の順で読んでみたかったなというのが本音ですが。

どちらの作品でもアガサの庭園に対する深い思いが感じられます。

2022.4.25記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

戯曲集ねずみとり、検察側の証人

ねずみとり

場所 マンクスウェル山荘

登場人物

 モリー.ロールストン

 ジャイルズ

 ミセス.ボイル

 メトカーフ大佐

 ミス.ケースウェル

 クリストファー.レン

 バラビチーニ氏

 トロッター刑事

 ミセス.モーリーン.ライアン

 夫、ジョン.スタニング

 殺された女 モーリーン.スタニング

 ロングリッジ農場主

 コリガン家3人兄弟男2女1人

初演 1952年ロンドン ウェストエンド、アンバサダーズシアター

検察側の証人

登場人物

 ウィルフリッド.ロバーツ卿 勅撰弁護士

 グリータ ウィルフリッドのタイピスト

 カーター ウィルフリッドの首席秘書

 メイヒュー 事務弁護士

 レナード.ボウル 被告、叔母ベットシー

 エミリー.フレンチ 金持ちの女性

 ローマイン レナードの妻

 ジャネット,マッケンジー フレンチの家政婦

 ロバート.ハーン 警部

 ウェインライト 判事

 マイアーズ 勅撰検事

 バートン 検事

 ワイアット 警察医

 ランデル 部長刑事

 トーマス.クレッグ 法医学研究所研究員

感想

1925年に発表され、短編集「死の猟犬」に収録されているが1953年に戯曲化された作品。

人気の高い作品だが戯曲集なので敬遠していましたが、読み残っている作品もほぼなくなったのと、たまたま手に入ったので読んでみましたが、最後のどんでん返しに驚きました。短編と結末が違いますが読んで良かった。さすがクリスティ。是非劇を観てみたいです。

舞台配置図

2022.12.30記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

茶色の服の男

1924年に発表されたこの作品はアガサクリスティの長編4作目で、ポアロシリーズにも登場するレイス大佐がここでも描かれています。

この作品の魅力は何といっても底抜けに明るい主人公アンと、その脇をかためる個性豊かなサブキャラにあると思います。

父親の遺産全額はたいてアフリカ行きの船に乗り込み、途中出会う人々との交流が楽しく、話の展開もスピーディーで読んでて飽きさせません。一応殺人の謎を追うミステリーではありますが、南アフリカ航海記か旅行記読んでる気分にさせる、なんとも冒険心あふれる楽しい作品です。脇役キャラも個性派ぞろいです。

サー.ユースタス氏は後の「チムニーズ館の秘密」に登場するケイタラム卿を思わせる、部下に「よきにはからえ」と言うようなくえない人物で、悪役だけど憎めない人。

人相の悪いパジェットは意外に小心で顔に似ず?家庭的な真面目男。

ハリー.レイバーンはセックスアピール満点の二枚目男で、シューザンは愛すべきレディでアンの良き友人。堅物のイメージのあったレイス大佐はなんとアンにプロポーズしてるし。彼も生の男だったんだなと実感しました。

何かと暗い事件やロシアのウクライナとの戦争が行われている昨今、こういう明るい物語は現実を忘れさせてくれます。

結構ボリュームがあって、話が冗長かなと思う箇所もあったりはしましたが、その分長い時間楽しく読ませてもらえました。

あと、表紙のデザインが他のアガサの本と違って漫画の表紙で違和感がありました。

これはあとがき解説に書かれていましたが、漫画家の谷口ジローさんの作との事でした。

アガサクリスティの読書感想を書き始めて一旦今回で1つの区切りとします。

とりあえず、戯曲集の何冊かを除いて全作読破しての感想と言えば、やっぱりクリスティの作品は面白いです。

読み始めた最初の頃の作品の感想は書いてないですが、時間ができたら少しずつ読み直して感想も書いてみたいと思います。

つたない文章でもここまで読んで下さってありがとうございます。

登場人物

アン.ベディングフェルド 女流冒険家、父旧石器時代研究者

マダム.ナーディナ ロシア人舞踏家

大佐 犯罪組織の首領

フレミング氏 父の弁護士

セルギウス.パヴロヴィッチ伯爵 ナーディナの知り合い

ネズビー卿 【デイリー.パジェット】新聞社主

サー.ユースタス.ぺドラー ミル.ハウスの所有者、下院議員

L.B.カートン 地下鉄で死んだ男

キャロライン.ジェームズ夫人 ミル.ハウスの管理人、ユースタスの料理人、夫は庭師

デ.カスティーナ夫人 ミル.ハウスデ殺された婦人の名

メドウズ警部 捜査課

ガイ.パジェット ユースタスの秘書

オーガスタス.ミルレイ ユースタスの友人

ジャーヴィス ユースタスの執事

ハリー.レイバーン ユースタスの新しい秘書

(シューザン)クラレンス.ブイア令夫人 社交界の花形

エドワード.チチェスター師 宣教師

リーヴズ 労働党員

サー.ローレンス,アーズリー 南アフリカ鉱山王

レイス大佐 アーズリーの近親者、諜報局員

ジョン.アーズリー ダイヤ見つけた二人、サー.ローレンスの息子

ハリー.ルーカス ダイヤ見つけた二人

キルモーデン.キャッスル 南アフリカへの航海船

谷口ジロー 孤独のグルメ、坊っちゃんの作の漫画家 

2022.7.10記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

モノグラム殺人事件

この作品は、アガサクリスティ亡き後2014年にソフィー.ハナによって書かれたクリスティ社公認のエルキュール.ポアロ続編第1作目です。

いわゆるポアロのパスティーシュとして興味を覚えて読みはじめました。時代背景は1920年代を想定しているとの事でしたが、いくつかの点でアガサの書くポアロ作品との違和感がありました。

まずポアロですが自信家なのは今までどおりでしたが、ユーモラスさはなく、かなりの皮肉屋。特に相棒のキャッチプール君に対してはきつい口調で「君を一人前の刑事にするために、、」とか言ってたりする。(ヘイスティングズに対しては死んでも言わなかっただろう、、)新相棒キャッチプール君は心にトラウマをかかえていて、死体に弱くてもプライドは高いからめんどくさい性格。何かにつけて趣味のクロスワードパズルに当てはめようとするところが鼻につきました。比べてはいけないけれどヘイスティングズの天然で陽気なところが懐かしく思えます。

それ以外のキャラクターに対しても謎解きが複雑だったせいか感情移入する人がいなかったです。特にジェニーに対しては親近感が全く持てないどころか逆に嫌悪感を抱いた程です。数少ない好人物のマーガレットにすらキャッチプール君に対しても「明日、明日」とか回りくどい言い方が鼻についてあまり好印象を持てなかったです。

全体的に他の方々の感想にもありましたが、回りくどい表現(いちいち被害者3人の名前を全てフルネームで呼ぶなど)が多く、会話も詰問口調で(特にポアロとキャッチプール君とのやりとり)すらすらと読み進められなかったのは確かです。

作品自体としてはアガサを思わせる登場人物の出し方、メイドや使用人が重要な役どころを演じる事、最後にはロマンスが芽生えることなどはまずまず良かったです。

謎解きはかなり複雑でおどろおどろしい描写もあり、読後のすっきり感は味わえず、モヤモヤしたものが心に残りました。

作風も翻訳のせいか堅苦しくすらすら読み進められなかったですね。

作者ソフィー.ハナは1971年生まれのイギリスの詩人、小説家。

ミステリ.ウォーターハウス&ザイラーシリーズ第1作「Little Face」が有名で、アガサクリスティの大ファンでスリラー小説が得意。

複雑な謎解きは彼女の特徴らしいです。

続編第2作「閉じられた棺」が発表されていますがそれを読むか読まないか、気持ちは今のところ五分五分です。

登場人物 

ジェニー.ホッブズ 謎の女

エドワード.キャッチプール スコットランドヤードの刑事

ユーフィーミア(フィー).スプリング プレザントコーヒー館のウェイトレス

ブランチ.アンズワーズ ポアロの下宿のオーナー

ルカ.ラザリ ブロクサムホテル支配人

ハリェット.シッペル 被害者121号

アイダ.グランズベリー 被害者317号

リチャード.ニーガス 被害者238号

、デヴォン、窓開いてた

ジョージ ハリェットの夫

上の3人グレートホリング村

ジョン.グッド フロント係

トーマス.ブリッグネル フロント見習い

ヘンリー.ニーガス リチャードの弟

ラファル.ボバク ウェイター

サミュエル.キッド 目撃者、ボイラー係

スタンレー.ビア 巡査

ヴィクター.ミーキン キングズ.ヘッド.インのオーナー

ウォルター.ストークリー ホリング村の老人

フランシス.マリア.アイヴ パトリックの妻、ウォルター老人の娘

パトリック.ジェームズ.アイヴpij 教区司祭

マーガレット.アーニスト 後任司祭(チャールズ)の妻

アンブローズ.フラワーデイ 医師

ナンシー.デュケイン 肖像画家、メイド タビサ、夫ウィリアム校長

セント.ジョン.ウォレス 貴族、画家、バセットハウンド

ルイーザ.ウォレス ジョンの妻、メイド ドーカス

アルビーナス.ジョンソン ナンシーの父

*パスティーシュ=模倣

2022.6.17記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

スリーピング.マーダー

1976年に刊行されたこの作品は、マープルシリーズ最後の作品として1943年に執筆され、アガサクリスティの死後に出版される契約となっていたものです。これも前年の作品「五匹の子豚」と同じく回想の殺人がテーマとなっています。

イングランドに到着して新居を探すグェンダ。見つけた家に彼女が感じる概視感。庭にあったはずの階段、塗りつぶされたドア、見覚えのある壁紙等にある予感を感じさせてくれます。決定的だった演劇のセリフ「女の顔をおおえ。目がくらむ、彼女は若くして死んだ」を聴いて卒倒したグェンダはその家に昔殺人があったことを確信しますが、相談したマープルに危険だから昔の事件をあばき出すのはやめろと忠告されます。が、そうはいかず2人は推理に乗り出します。

この2人の推理にオブザーバーみたいな役まわりをするマープルですが、2人の推理は若いだけあって決めつけが強くて読んでてハラハラしました。マープルは共通の友人やうわさ話や店での世間話などばばあならではの情報を仕入れる手口はお見事(これは若者にはできない)2人の男としての推理、女からの推理の違いも読んでて面白いし。

ヘレンとつながりのある3人の男のうちの1人に犯人は絞られましたが、土壇場になって猿の前足の意味がわかって推理は見事に外れましたがね。

昔住んでいた家に再び住む事になったのはヘレンの執念、運命を感じました。

この作品が執筆されたのはマープルシリーズ3作目の「動く指」の頃なのでマープルもまだ若い元気な頃で、スプレー缶持って階段をかけ上るような行動力あふれる姿が見られて嬉しかったです。

これで長編、短編合わせて全てのマープルシリーズ読破しました。

改めてマープルシリーズには花や草木、庭園といった自然の描写が多く、その中で生きる市井の人々の生活感あふれる物語だと実感しています。

ふと隣を見るとマープルが静かに座っていて人々の動きを暖かく鋭い目で見ていそうなそんな気分にさせられそうてす。最後に私なりのベスト作を挙げてみたいと思います。

マープル作品ベスト5

1 鏡は横にひび割れて。

 子を持てない女の悲しみ。     マープルの周囲の女性像が魅力的    

2 パディントン発4時50分     ルーシー.アイルズバロウ活躍。冒頭の汽車のシーンが印象的。料理も

3 ポケットにライ麦を

  怒りに燃えるマープルの姿が頼もしい

4 書斎の死体

  マープルの友人バントリー夫妻が好印象、トリックが見事 

5 動く指

 マープルの出番は少ないが兄妹のロマンスに満ちあふれている珠玉の作品

登場人物

グェンダ.リード ニュージーランドから来た新妻

ジャイルズ グェンダの夫

ヘングレーブ夫人 ヒルサイド荘の前の住人

コッカー夫人 家政婦

レイモンド.ウェスト ミス.マープルの甥

ジョーン レイモンドの妻、画家

フォスター 庭師

ケルヴィン.ハリディ グェンダの父

ヘレン.スペンラブ.ケネディ ケルヴィンの後妻

ジェィムズ.ケネディ ヘレンの兄、医師

ベンローズ 精神科医

ウォルター.フェーン 弁護士、昔ヘレンを追いかけてインドへ行った

イーディス.パジェット ハリディ家の元料理人

リリィ.キンブル ハリディ家の元小間使い、夫ジム

レオニー ハリディ家のスイス人の子守り女

リチャード.アースキン 退役少佐、色男、アンステル館、妻ジャネット

ジャッキー.アフリック 元事務員、バス会社の経営者

妻フェーン マープルと共通の友人あり

マープルの友人たち バントリー大佐、ドリー、ヘイドック

2022.4.14記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

カーテン

この作品は、1975年アガサクリスティの死後に発表されたエルキュール.ポアロ最後の作品です。実際に書かれたのはずっと前、第二次世界大戦の頃で、そのせいもあってか全体的に暗く寂寥感ただよう作品となっています。読書感想としては「すばらしい」の一言。あまりの作品のすばらしさに感動してしばらくは感想を文章で書くことができなかった位です。ほとぼりさめて、そうこうするうちあらすじもおぼろげになって、再読してから感想を書いた次第です。

まずは懐かしいヘイスティングズの語り口。クールで淡々とした、そして年齢を経たいぶし銀のような風情が感じられます。末娘ジュディスとのかみ合わない会話、年老いて歩くのもできなくなったポアロ。不幸を背負っている住民たち。何の明るさも見えない中、今度の殺人犯はポアロでも歯がたたない程の最強の犯罪者。

再読なので犯人を知ってから読んでましたが、そのせいかより理解ができ、初読より面白かったかも。

アラートンという男には嫌われるが女性には魅力のある男とジュディスの仲を疑い、あわや殺人を企てるヘイスティングズの姿には苦笑してしまいます。でもヘイスティングズは一番最初にノートンを犯人と当ててるのですね、確信はなくとも。

ノートンのセリフの1つ1つがフランクリン、そしてヘイスティングズの心の闇にひそむ悪魔を呼びさましていくのは本当に恐ろしいことだと実感しました。

一度覚えた殺人という麻薬に魅せられた、ある意味不幸なノートン。そして新たな被害者をこれ以上増やさない為自ら殺人者となってノートンに立ち向かうポアロ。

名探偵=殺人者という衝撃の結末には今でもショックで心がキリキリ痛んでしまいます。

そしてヘイスティングズに対する深い愛情のこもった最後の手紙は永遠に心に残るでしょう。

最後の1行「すばらしい人生だった」

私も自分の人生の終わりにはこの言葉を言えるようにこれからの人生を悔いなく歩みたいと思います。そしてポアロの作品を楽しく読んだここ数年間は実にすばらしい人生であったと今、ポアロに感謝しております。

過去の事件

事件A エザレントン(女) 夫殺害

 死因砒素、無罪、2年後睡眠薬過量で死亡

事件B ミス.シャープルズ

 姪フリーダ.クレイ世話、モルヒネで死亡も証拠不十分で不起訴

事件C エドワード.リグズ、農夫

 妻と下宿人の不義、妻殺害、自首するも放心状態にあったと語る、終身刑

事件D デリク,ブラドリー

 若い女と恋愛関係、妻青酸カリで死亡、起訴、死刑

事件E マシュー.リッチフィールド

 老人の暴君、4人の娘、ケチ、長女マーガレットに殺害される、マーガレット死亡

登場人物

ジュディス ヘイスティングズの娘

ジョージ.ラトレル スタイルズ荘の主人

デイジー ジョージの妻

ジョン.フランクリン 科学者、ジュディスの雇い主

バーバラ ジョンの妻

スティーヴン.ノートン 小鳥好き

ウィリアム.ボイド.キャリントン卿 元行政官

アラートン 遊び人

エリザベス.コール 事件Eリッチフィールド4人姉妹の1人

カーティス ポアロの今の従僕

ジョージ ポアロの元従僕

クレイヴン フランクリン夫人付きの看護婦

2022.5.19記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

暗い抱擁

1948年刊行のこの作品は、メアリ.ウェストマコット名義で書かれた作品の1つです。クリスティ作品も戯曲集除いて残るはノンシリーズの数冊のみとなって手に入れた一冊ですが、題名「暗い抱擁」からはどうみても昼ドラの不倫ものチックなイメージがあって、あまり気のりしないまま、又裏表紙の解説をみても、やれ駆け落ちだの、キリスト教的博愛主義だの、どうもミステリーでも(当然ですが)探偵小説でもなさそうで(やや)仕方なく読み始めました。

ところがどっこい。

交通事故で不自由な身体となったヒューが兄のところに身をよせ、そこで運命的な2人の人物と出会います。1人はセント.ルーの城の娘のイザベラで、彼女と一緒の時を過ごすうちにヒューは生きる希望を見出します。

このあたりの2人の関係はとても尾だやかでほのぼのとしたものでした。

ですが、ゲイブリエルがイザベラと相対して全てが変わりました。醜くて利己主義、日和見主義のゲイブリエルの告白を読んでるとこの男の考えこそ、私自身、若い時から意識して生きていかないといけなかったのだと知りました。

自分の勇気(力)こそが本当に頼りになるものだと。ゲイブリエルが少年の頃、彼をひどく傷つけた言葉「貴族はなりたくても決してなれないもの」どんな苦痛にも耐えられると言うイザベラにタバコの火を押し付けるシーンがありましたが、これこそ彼の劣等感がイザベラに向かってふき出された態度だったと思います。

従兄のルパートとの幸せな結婚を捨て、ゲイブリエルと駆け落ちしたイザベラには、ゲイブリエルの真の姿が見えていたのだと思います。

この作品は面白かったとか読みごたえがあったとか以上に身分、階級問題、人間の本性、嫉妬、劣等感という重いテーマが盛りだくさんで、私には自分の人生を今一度考えさせられる一冊でした。

読者の感想をネットで見ても、題名の違和感があったという意見、あとがきは読まない方がいいという意見があり、私もそう思います。題名は原文「The rose and the Yew tree」

のままで良かったのではと思います。あと、この作品をより理解する上でシェイクスピア、特に「オセロ」の知識があったらゲイブリエルとヒューの対話の意味ももっと理解できたのにと痛感しました。

イザベラの心の内を全く描かず、読者に想像させるアガサクリスティ、やはりすごい人です。

登場人物

ヒュー.ノリーズ 元教師

パーフィット ヒューの従僕

キャサリン.ユーグピアン アルメリア人

ジョン,メリウエザ.ゲイブリエル 保守党国会議員候補=ファーザー.クレメント

イザベラ,チャータリス アデリドの孫 

テレサ ヒューの義姉、おばエイミー,トレジュリス

ジェニファー ヒューの恋人

ロバート ヒューの兄(ポルノース.ハウス)

アデリド.セント.ルー 第7代男爵の未亡人

アグネス.トレシリアン アデリドの妹

(モード)ヒガム.チャータリス アデリドの義妹、スパニエル犬、ルシンダ

ルパート 第9代セント.ルー

カーズレーク大尉 保守党の運動員

ウィルブレアム 労働党員、補欠で勝った

ジェームズ.バート 獣医

ミリー ジェームズの妻

アン.モードント カーズレークの姪、イザベラの学友

ザグラーゼ 地名、イザベラとゲイブリエルが住んでたところ

日和見主義 自分に都合のよい方へつこうと形勢をうかがう態度をとる事、オポチュニズム

2022.5.8記

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シタフォードの秘密

1931年に発表されたアガサクリスティのノンシリーズ。大雪に閉ざされた辺鄙な村の山荘で開かれた降霊会で霊が殺人予告をするというオカルト味たっぷりのこの作品、オカルト好きな私はとてもわくわくしながら読みました。閉鎖的な田舎だけあってシタフォード荘のコテージの住民たちは一癖ありそうな人たちばかり。

その中に婚約者の嫌疑を晴らすべく乗り込んだエミリーはアガサクリスティ初期の作品ではよく登場するバイタリティあふれるおきゃんな娘で、自分の恋の為には同情も男も利用します。彼女の登場でシタフォードのよどんだ空気すらも吹き飛ばした感じです。それまでのオカルト味たっぷりの神秘性が薄れたところは好みが分かれるところだと思います。

時間のトリックがわかってしまうとなんてことのない事件ですが、大佐と少佐の関係が男同士の友情かと思いきや、積年の恨み、妬みが懸賞金が当たったことで一気に爆発し犯行に至った事の伏線が後から思えば思い返されました。ウィリット母子がなぜシタフォード荘に来たかという訳もちょっと意外でした。まさか脱獄と関係あるとは思わず、納得できました。

チャールズとジムのどちらをエミリーが選ぶのか期待していましたが、ジムを選んだのはちょっと意外でした。私はチャールズを選ぶと思っていたのですが、エミリーがチャールズに「あなたには仕事がある。だけどジムは私がいないとやっていけない」と言うセリフはどうもいただけないですが。チャールズは新聞記者ながら憎めない好人物で私は好きですが。

昔も今もできる女性は自分が守らないといけない弱い男に惚れるものなんですね。

登場人物

トリヴェリアン大佐 シタフォード荘の持主(現ヘイゼルムア住まい)

ジョン.バーナビー少佐 大佐の友人

ウィリット夫人 シタフォード荘の住人

(ロニー)ロナルド.ガーフィールド ミス.パーシハウスの甥、ガードナー夫人名付け親

デューク 隣人、元ヤードの主任警部、大柄、造園

ライクロフト 隣人、ジジイ、博物学、犯罪学

ヴァリオレット ウィリット夫人の娘

ミス.パーシハウス 隣人、猫好き

エルマー 村唯一の車の持主

グレイブズ エクスハンプトンの巡査

ウォーレン 医師 

ナラコット 警部

ポロック 部長刑事

エヴァンズ 大佐の下男 妻レベッカ

ジェニファー.ガードナー 大佐の妹、ローレル館、メイド ビアトリス

ロバート ジェニファーの夫

メリー.ピアソン(故人) 大佐の妹、子供3人

 ジェイムズ.ピアソン(ジム) 保険、エミリーと婚約中

 シルヴィア 夫作家マーチン.ディアリング

 ブライアン オーストラリア在住

ベリング夫人 スリークラウン館営業主(ヘイゼルムア)

ウォルターズ&カークウッド 大佐の弁護士

ウィリアムスン 不動産屋(シタフォードをウィリット夫人に貸した)

チャールズ.エンダビー 新聞記者

マックスウェル 警視

エミリー,トレファシス ジェイムズの婚約者

カーティフ夫妻 隣人、エミリーがサラ大伯母のベリンダに似てるという 

ワイアット大尉 隣人、病人、インド人の使用人持ち

ダグレス ジェイムズ.ピアソンの弁護士

2022.5.13記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

忘られぬ死

この作品は、1945年に発表された短編「黄色いアイリス」を基に長編化されたもので、ポアロは登場せずレイス大佐が登場します。レイス大佐は「茶色の服の男」「ひらいたトランプ」「ナイルに死す」に次いで4番目で今回が最後の登場です。

この作品では登場人物が少ないですが、各人の心のうちが赤裸々につづられているので共感するところが多く、ドハマリする人が多々出現するかと思います。(私もそうでした)

まず夫のジョージですが、美しいローズマリーを妻にしたことでいずれは何か起きるだろうが、それは受け入れる覚悟はしてたものの、妻の態度から今回は本気らしいと勘づいてレパードという男に書いた手紙を見て、耳の中で血が音を立てました。愛人と思われるファラデーの近くに家を買い彼に近づきます。匿名の手紙が届き、妻は誰かに殺されたことを確信します。

ジョージの有能な秘書のルースはルシーラの息子ヴィクターに会って彼に一目で心を奪われます。彼によって自分の本心に気づきます。

私はローズマリーが憎い❗

彼女さえいなければ私がジョージの妻になれたかもしれない、と。このルースの心の叫びともいうべきシーンから物語が一気に面白くなってきました。

貧しい生まれながら、子供時代から野心に燃えるスティーブンはアレクサンドラという名門の子女を手に入れ、大政治家への階段を昇る途中でローズマリーと出会い、狂気の愛に目覚めます。だがそれもローズマリーからしつこく追われるようになると逆に彼女の存在がうっとうしくなります。妻のサンドラに知られたら自分は破滅すると。

ですがサンドラはとっくに知っていました。嫉妬はしましたがそれ以上にスティーブンを愛していたのです。

ジョージは知人のレイス大佐に妻を殺した犯人を見つけたいのでアイリスの為のディナーに出席してほしいと頼みますが、大佐には断られ、逆に危険だからやめろといわれます。もう一人姉妹にまとわりついていた男アンソニー(本名トニー.モレリ)は実はレイス大佐と同じ世界に属していた(情報部)人間で、ケンプ警部、アンソニー、レイス大佐がテーブルを囲んで各自の犯人説を話し合う過程が見ものでした。ケープは性格上からサンドラを、アンソニーは秘書のルースを、レイス大佐はなんとアイリスを各人の立場から予想します。各人の推理が的を得ていてそれぞれ納得。

犯人当てたのはアンソニーでしたが、危うく殺されそうだったアイリスが助かり、二人が結ばれたのはよかったです。

「黄色いアイリス」は短編でたんたんと話が進みますが、こちらは長編だけあって妻の死後一年という時の経過と各人の心情が合わさって読みごたえは充分あったと思います。策を講ずるあまりに、給仕の少年のちょっとした行動で死んでしまったジョージはあわれでなりません。そのトリックを見破ったアンソニーはお見事でした。

登場人物

ローズマリー.バートン 富豪の女性

アイリス.マール ローズマリーの妹

ジョージ,バートン ローズマリーの夫

ルシーラ.ドレイク ローズマリーの伯母

ヴィクター.ドレイク ルシーラの息子

スティーブン.ファラデー 政治家(レパード)

アレクサンドラ スティーブンの妻、名門キダミンスター家の娘

アンソニー.ブラウン ローズマリーの友人(トニー.モレリ)

ルース,レシング ジョージの秘書

レイス大佐 もと陸軍情報部員

ベティ.アーチデル もとローズマリーの小間使い

ケンプ 主任警部(昔バトルの部下)

ミス.クロイ.ウェスト 女優

ポール.ベネットローズマリーのおじ

ヘクター、ヴィオラ.マール ローズマリーの父母

メアリー.リース.トールバット(M) レイス大佐の知人

2022.3.17記