1953年に刊行されたこの作品は、解説の折原一氏が自身のポアロ作品の中でベスト1に挙げている超おすすめ作品です。
私もポアロ作品を読み進めてきて、残すところあと3作までとなり、期待を込めて読みました。
確かに期待を裏切らない作品です。ポアロ作品では定番の富豪一族が集まり遺産争いの中で殺人が発生する、そして犯人を見つけ出すというストーリーですが、ポアロ作未読の方には是非読んでいただきたい超定番の一冊です。
富豪のアバネシー氏が亡くなり葬儀で集まった遺族の中の一人である妹のコーラが発した一言「だってリチャードは殺されたんでしょう?」この思わせ振りの何の根拠もない一言が、遺族そして弁護士に自然死とされていた死に殺人という暗い影を投じます。
そしてその翌日、当のコーラが斤でたたき殺されます。この異常な事件が発生したため弁護士に捜査を依頼されたポアロが登場します。
冒頭の思わせ振りな一言に始まってポアロが遺族一人一人に話を聞いてまわりますが、その対応がそれぞれ違っていてユニーク。ポンタリエなんて聞いただけで失笑しそうな名前でUNARCOの一員になってたり、修道女が何度も登場してオカルティックな雰囲気もありました。
コーラを殺害した日のアリバイはほぼ全員なかったり、家系図と逐一照らし合わせて家族関係をチェックしないと誰が誰やら訳わからなくなったり、グレゴリーバンクスは発狂したのか「ぼくが殺した」なんて叫びだす始末で、理解しながら読むのは大変だったりしましたが、読みごたえは充分ありました。
昔から頭が少し弱く、思ったことを考えなしに口にするコーラ。コーラに対する違和感をつのらせるヘレン。遺族の誰もがコーラを殺しうる中、一番殺人を犯しそうでない人間が犯人だったとは。お金とは金額の大きさだけでない、その人なりの物差しがあって、それが犯行に手を染める動機になるのです。
自分の人生で最後の希望の為に手を血で染めた哀れな女の犯行を描いたところにアガサクリスティらしさが感じられました。
そして所々に伏線となる言葉や表現があって、読み終わる頃に「ああ、そういえば、、」と思い出されたりするのも読む楽しみの1つです。
もう一度、腰をすえて読みかえしてみたい、私のおすすめの一冊です。
家系図
2022.4.16記