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アガサ・クリスティー 読書感想文

死との約束

「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」というセリフで始まるこの作品、1938年に発表された中近東シリーズの第3作で、エルサレムを旅行中のポアロがヨルダンの古都ペトラで起きた殺人事件を追います。

今回は登場人物が比較的少ないのですらすら読めるかと思いましたが、医学用語や心理学を扱う医師同士の会話のやりとりが多いので理解するのがやや難解だったのと、犯行時の人々の動きがこと細かいため、しっかり時系列をメモしないと途中で訳がわからなくなるので、ぼんやり読み進められなかったです。

ですが、その分読みごたえは充分。

冒頭で先ほどの意味深なセリフを聞いたポアロはいったん退場しますが、第1部の事件が起きるまでのボイントン一家の子供たちのやりとりですっかり感情移入してしまいました。

昨年の日本版ドラマでは夫人役の女優、松坂慶子さんの暴君ぶりが見ものでした。

サラ.キングとジェラール博士の心理学に関するやりとりも難解でしたが、なるほどと納得できましたし、エルサレムの観光名所の描写がかなり延々と続きますが、これも興味深いものでした。砂漠の風景とかはTVドラマの方で映像でも楽しめました(話の内容は原作とかなり変わっていますが)

第2部でポアロは再び登場し、一人一人に話を聞いていくといういつもの展開です。が、皆夫人に対しては恨みを持っており、ポアロの推論ではどの人物にも犯人になり得るという。

もしかしてオリエント急行の殺人と同じパターンかな?とも思えました。

日本のテレビドラマを先に観てたので犯人は誰か知ってはいましたが、これはちょっとしたセリフや人物の行動をよく吟味しないとなかなか当てるのは難しいです。

「私は決して忘れませんよ、私は何一つ忘れていませんよ」恐ろしいセリフですが、この話の鍵は全てこのセリフに尽きると思います。

ポアロのセリフの「人間は真実を話すものです」だからこそポアロは人との対話を大事にするのですね。

この事件のあと、5年経って一族とポアロは再開しますが、一族は皆幸せになっていて読後感が清々しいです。

今はコロナ渦で行くこともかなわないですが、ナイル、メソポタミア、今またエルサレムと日本人にとって遠い、怖いイメージのある中近東の旅へ、いつか私も行くことができたら、と思いをはせるこの頃です。

登場人物

ボイントン夫人

レノックス 長男

ネイディーン その妻

レイモンド 次男

キャロル 長女

ジネヴラ 次女

ジェファーソン.コープ ネイディーンの友人

サラ.キング 女医

テオドール.ジェラール 医学博士

ウェストホルム卿夫人 婦人代議士

ミス.アマベル.ピアス 保育士

マ.モード 通訳

カーバリ大佐 アンマンの警察書著

犯行時の時系列

3:05 ボイントン一族、ジェファーソン 散歩に出る

3:15 サラ ジェラール博士散歩に出る

4:15 ウェストホルム夫人 ミス.ピアス 散歩に出る、夫人に声かける

4:20 ジェラール博士キャンプに帰る

4:35 レノックスキャンプに帰る、母の時計合わせる

4:40 ネイディーンキャンプに帰る、ボイントン夫人と話す

4:50 ネイディーン 夫人と別れて大天幕に行く

5:10 キャロル キャンプに帰る

5:40 ウェストホルム夫人、ミス.ピアス、コープ氏 キャンプに帰る

5:50 レイモンド キャンプに帰る

6:00 サラ.キング キャンプに帰る

6:30 死体発見 召し使いが見つける

2022.1.10記

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