1956年発表のこの作品は原作名が「Dead Man’s Folly」といい、このfollyにはダブルネーミングがあるそうで、一つは題名のとおりの「過ち」という意味、あともう一つは「装館目的の華美な建築物」を指すとの事。
あと題名のMan(男)を意識して読むといっそう謎ときの楽しみが広がると思います。
この作品ではポアロの友人にして女性探偵作家であるアリアドニ.オリヴァのキャラクターが存分に味わえると思います。
オリヴァが自分が創作した殺人劇で何かいやなことが起こりそうだと予感し、ポアロを現地まで呼びよせるのですが、その劇のあらすじを作る過程や、登場人物のキャラクター、オリヴァの服装、髪型の特徴が面白く描かれています(リンゴが大好物なのはいうまでもなく)
そしてその劇のあらすじこそがこの作品で起きる殺人事件を解くのに大いにヒントになることも暗示されています。
一方、オリヴァに少々無理やり呼び寄せられた感のあるポアロは老いのせいか彼女の不安を聞いてもいまいちピンときません。そうやって何があるのか何が起こるのかわかりないうちに本当に事件が起きてしまいます。
殺されたのはまだ幼い被害者役の少女で、同時期にナス屋敷の女主人が
行方不明になってしまいました。
殺人を未然に防ぐ事も出来ず、殺人の手がかりもなく、女主人の行方もわからずで、髪ふりみだし服装にもかまわず走りまわるポアロの姿が憐れでもあり、ユーモラスでもありました。
他の作品ではこういうポアロの姿、なかなかお目にかかれませんし、今回は灰色の脳細胞の切れもすぐれずで、それだけこの事件を解くのが難解だったという事です。
屋敷を取り戻すために、死亡したと伝えられている息子を使ってあどけないハティをおとし入れたフォリアット夫人の罪は大きいと思います。この夫人、優雅な外見ながらかなりしたたかで冷酷。ポアロもかなわない位の度胸の持ち主。逆に夫人に操られ、阿房宮に死体となって発見されたはずのハティ、そして被害者の少女に憐れを感じてなりません。
読んでいてももやにつつまれたような事件の全容が最終20章で明らかにされました。細かいところで事件のカギとなる伏線が大胆にもいっぱいちりばめられていたのでびっくりしました。読み終えてその箇所を読み直したものです。
ハロウィーンパーティーにもありましたが、この作品にはナス屋敷の庭園と自然の美しい描写がいきいきと描かれています。夏から秋へと変わっていく景色の美しさ、もの寂しさ、生命のはかなさが悲しくも感じられる作品です。
あとこの作品には原作ともいえる中編「ポアロとグリーンショアの阿房宮」があるのでその作品も気になります。
阿房宮ってどういう建物なんでしょうか?古代中国の建築物との事ですが一度この目で見たいものです。
ポアロのスローガン
神を信ぜよ、しかして常に備えよ
登場人物
ジョージ.スタッブス卿 ナス屋敷の主人
ハティ 妻
エイミイ.フォリアット夫人 ナス屋敷の元所有者
アマンダ.ブルイス スタッブスの秘書兼家政婦
マイケル.ウェイマン 建築家
アレック.レッグ 原子科学者、神経質
サリィ アレックの妻
ウィルフリッド.マスタートン 地方議員
コリィ マスタートンの妻
ジム,ウーバートン大尉 マスタートン家代理人
マーリン.タッカー 少女団の一員、殺される役
ヘンデン 執事
エティエンヌ.ド.スーザ ハティのいとこ
ホスキンズ 村の巡査
マーデル 村の老人、マーリンの祖父
ブランド 警部
2022.3.7記