1936年発表のこの作品はクリスティには珍しく登場人物の少ない作品ながら、ポアロ、アリアドニ.オリヴァ、バトル警視、あと「茶色の服の男」に登場するレイス大佐といったクリスティ作品を彩るキャラクターが勢ぞろいする、クリスティファンにはたまらない豪華な作品です。アリアドニ.オリヴァはこの作品が初登場でポアロとも初対面です。
変わり者で悪魔的な容貌のシャイタナ氏があるパーティーを開き、それにポアロも招待されます。
そこにはかつて殺人を犯したもののいまだ捕まっていない人物4人も出席しているとディナーの席でシャイタナ氏が打ち明けます。
食後、客間に移ってシャイタナ氏以外の8人がブリッジに興じているとき、シャイタナ氏が短剣で刺され殺されました。犯人はこの4人のうちの1人に間違いなく警察、諜報局員、私立探偵、そして探偵小説家の4人が犯人探しを始めます。
4人の捜査方法と犯人を探す手段に各人の個性が光っていて、一冊の本で4つの短編小説を読んだような得した気分になります。
バトル警視は昔ながらの足を使い、聞き込みをしながら証拠をつかもうとします。レイス大佐は情報網を張り巡らせデスパード少佐の過去を洗います。オリヴァは女の直感を、そしてポアロはブリッジの点数表を見ながら4人の性格を推理し、それぞれにふさわしい犯人像を見極めようとします。
私はブリッジを知らないのでこの点数表の意味や、ロリマー夫人が語るゲームの手がさっぱりわからないのが悔やまれます。ゲームを知っている人はさぞわくわくしたことでしょうが。
ただこの作品はブリッジを知らない人でも充分楽しめます。犯人探しには物的証拠というものがほとんどなく、4人の性格や過去の事件から推理していくので。
バトル警視はドクターロバーツが過去にある夫婦が、その夫がひげそりから菌が入って死亡し、外国に行った妻がその後死亡していることを突きとめます。
デスパード大佐は外国で一緒にいた植物学者が熱病で死亡したとされる学者を手違いで射殺していました。
アンは昔、ある婦人に間違って薬品を飲ませて死亡させていました。余命いくばくもないロリマー夫人は夫を殺した事をポアロに自白しました。
やはり4人とも殺人を犯していたのです、事情はどうであれ。
それにしてもシャイタナ氏というのはいやらしい人間です。本当に悪趣味、殺されても仕方ない人間ですね。
最終的に本当の犯人はオリヴァが直感で当てた人だったのですが、一番犯人となりえないアンの心理描写がよかったです。
オリヴァに一緒に犯人探しをしようと誘われても何もしたくないとつれなかったり、ポアロの作戦にまんまとひっかかって絹のストッキングを選んだり、コンビーカーに一時住んでたことをバトルに言わないし。小舟でローダを湖に突き落としたのは彼女を殺そうと思ったからでしょうが、自分も泳げないのに何してるねん!自分も死ぬやん。
デスパード少佐は女を見る目があるいい男です。ためらわずローダを助けるのですから。
バトル警視は本当に頼もしい、日本のゴルゴ13みたいなタイプですね。そしてオリエント急行の短剣はポアロのもとにあったのですね。ヘイスティングズには不評だったらしいこの事件、私は好きですね。
登場人物
シャイタナ パーティーの招待主
ドクターロバーツ 医者
ロリマー夫人 ブリッジ好きの老婦人
デスパード少佐 探検家 美男
ミス.アン.メレディス 若い婦人
レイス大佐 諜報局員
ローダ.ドーズ アンの友人
バトル警視
オコナー巡査部長 バトルの部下 美男
(話には登場しないが)
フィンランド人のスヴェン.イエルソン オリヴァ作品に登場する名探偵
2022.3.9記