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アガサ・クリスティー 読書感想文

愛国殺人

1940年発表のこの作品、原題は「One Two Buckle My Shoe」というマザーグースの唄の一節でアメリカで出版された時に「The Patriotic Murders」と改名され、日本ではそのまま「愛国殺人」で発表されたというエピソードがあります。

歯の診察台の上では名探偵も皆平等。ドリルの音におびえるポアロの姿が冒頭で始まり、出だしはユーモラスながら中身は政治色の濃い作品となっております。これは発表当時の時代背景も影響しているのでしょうが。

自殺と思われた歯科医が実は殺害されており、その日治療に訪れた人物が2人死亡し、同じく治療に来ていた大銀行家も命を狙われるというなかなか血なまぐさいストーリーで、上部からの圧力で捜査も打ちきりになり、ポアロ自身も手を引けと脅迫電話を受けたりしました。

今回のポアロはバーンズ氏という元内務省の退役官史から死亡した人物たちが実はスパイだったという話を聞いたばっかりに話の全体像が見えず「私は老けたのか」?と自問自答し、あやうく国家の力に屈しそうになりました。それでもあるきっかけで穴を発見し、色々な事柄が万華鏡のように1つのものに集約されて真実を発見したのです。

トリックとして原題にあるくつのバックルがヒントなんですね。そしてタイトルが原題から愛国殺人に変わった理由も何となくわかります。又国家よりも人間の命を大事にするポアロの仕事に対する姿勢が実感できる作品です。

国の為に殺人を犯してきたという犯人はただの自己愛にすぎないのですね。

途中愛するロサコフ夫人を思い出すポアロが愛らしく、マザーグースの唄と各章のストーリーがうまくかみあっていてさすがクリスティ。最後の章のおちはユーモラスで、あっけにとられたポアロの姿が目に浮かびました。

登場人物

ヘンリイ.モーリイ 歯科医

ジョージィナ ヘンリイの妹

グラディス.ネヴィル ヘンリイの秘書

ライリィ ヘンリイのパートナー

フランク.カーター グラディスの恋人

アムバライオティス氏 ギリシア人(サヴォイホテル)

メイベル.セインズバリイ.シール 元女優(グレンゴリィ.コート.ホテル)

アリステア.ブラント 銀行頭取(ゴシックハウス)

アルフレッド.ビッグズ モーリイのページボーイ(小姓)

レジナルド.バーンズ 内務省退職官史→実はQX912

ジェイン.オリヴェイラ アリステアの姪

ジュリア ジェインの母

ハワード.レイクス ジェインの恋人

ヘレン.モントレザー アリステアのまた従妹

ジャップ 主任警部

ベドーズ巡査部長 ジャップの部下

アルバート.チャップマン セールスマン→情報部

シルヴィア アルバートの妻→友人マートン夫人

アグネス.フレッチャー モーリイ家の小間使い

セルビイ氏 アリステアの秘書

他 アダムズ夫人、ボライソオ夫人 シールの知人

レベッカ.サンセヴェラート アリステアの元妻(父はアメリカ大銀行家アーンホルト家、母ヨーロッパのロザスタイン家)

マザーグースの童謡

いち、にい、わたしの靴のバックルを締めて

さん、しい、そのドアを閉めて

ごお、ろく、薪木をひろって

しち、はち、きちんと積みあげ

くう、じゅう、むっちり肥っためん鶏さん

じゅういち、じゅうに、男衆は堀りまわる

じゅうさん、じゅうし、女中たちはくどいてる

じゅうご、じゅうろく、女中たちは台所にいて

じゅうしち、じゅうはち、女中たちは花嫁のお仕度

じゅうく、にじゅう、私のお皿はからっぽだ

2022.3.17記

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