この作品は1934年に発表されたアガサクリスティのノンシリーズで、牧師の4男坊と伯爵令嬢のフランシス(フランキー)が活躍する冒険ミステリーです。
牧師の息子で無職のボビイが友人とゴルフをしている時に崖から落ちて死にそうになっている男性を発見します。その男性が息をひきとる時に言った「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか」という言葉が題名のタイトルになっているのですが、それが印象深く、とても興味を持ちました。
題名からイメージしたのはスパイ小説でしたが内容はとても楽しい冒険ミステリーでした。
まずキャラクターの個性が際立っています。牧師の4男で無職ながら素朴で屈託のない素直な青年ボビイ。
伯爵令嬢のフランキーに対してひがみなく接しています。
伯爵令嬢ながら気取ってなくて陽気なおてんば娘のフランキー。生まれながらの性格の良さと父親の金の力をバックに、豪華な車だけでなく、おんぼろ車も運転し、敵陣の中?へ体当たりで乗り込む行動派。
そしてボビイの友人のバジャー。肝心な場面で2人を助ける、意外と頼りがいのある好人物。
まるでトミイ&タペンスの「秘密機関」を思い出させてくれる若さと向こう見ずのパワーあふれるストーリーで読んでるあいだ中楽しくてたまりませんでした。
トミイ&タペンス好きの読者には是非おすすめしたい一冊です。
この作品の米版の題名は「ブーメランの手がかり」というそうで、真相に近づくのに一進一退するさまを表現しているとの事。真相をたどっていって最後には牧師館にたどり着く様子や、最後に2人が言った言葉「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」が最後まで問いの言葉で残ったのが見事なおちでした。
が、読み終わってから話の筋をたどってみたら、わかったような、いまいちわからんかったような、、、。それと致死量のモルヒネを飲んでも奇跡的にボビイが助かったりと、突っ込みどころもありますが、それを補ってあまりあるぐらいに話の展開が早く、ぐいぐいと話の中に引き込まれました。あと悪役のロジャー.バッシントンが魅力のある人物で、最後はうまくオーストラリアまで逃げおせて、手紙なんか2人に書いて送ってくるのも小憎らしいです。
殺人犯は魅力にあふれているというのは、そのとおりですね。
現在2022年3月はロシアとウクライナが戦争のまっただ中、原油が値上がりし、それに続くように小麦粉その他も値上がりし、新型コロナは未だおさまる気配もありません。
先日東北地方で震度6の地震も起き、その周辺地域では再び電力がひっ迫しているという、明るいニュースが何もないこんな時こそ、こういう心が楽しくなる本を読んでしばしストレスを吹き飛ばしたいとつくづく思います。
登場人物
ロバート(ボビイ).ジョーンズ 牧師の4男、もと海軍軍人
トーマス.ジョーンズ ボビイの父親
フランシス(フランキー).ダーウェント ボビイの幼なじみ、伯爵令嬢
アレックス.プリチャード 死んだ人
バジャー.ビードン ボビイの親友
レオ.アメリヤ,ケイマン夫妻 プリチャードの妹夫婦
ヘンリィ.バッシントン.フレンチ 地方名家の当主
シルヴィア ヘンリィの妻、息子トミー
ロジャー ヘンリィの弟
ジャスパー.ニコルソン博士 精神病院を経営する医者
モイラ ニコルソン博士の妻
ジョージ.アーバスノット フランキーの友人、医者
アラン.カーステアーズ 探検家
ロバーツ夫人 ジョーンズ家の家政婦
マーチントン卿 フランキーの父
ジョン.サヴィッジ 億万長者
フレデリック.スプラッゲ 弁護士
2022.3.23記