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アガサ・クリスティー 読書感想文

死への旅

この作品は1954年に発表されたアガサクリスティのノンシリーズでカテゴリーではスパイスリラー物に属しています。

東西冷戦下のヨーロッパでは有名な科学者が次々と謎の失踪をとげており、ある科学者の妻の足どりをたどって、どこに行っているのかを情報部の人間が探ろうとするお話です。

読んだ感想はずばりSF物を読んだ気分でした。主人公のヒラリーが施設の建物に入って「まるで異次元の世界へ迷い込んだみたい」と言っていますが、私もそっくりそのまま異次元の世界の話を読んでる感じがしました。何にせよ、現実味が全くありません。

夫に浮気され、子供を亡くし、失意のどん底にあるヒラリー。外国に旅行し、異国で自殺するつもりが、その容姿がトーマスの妻オリーブに似ていることからスパイに雇われ、特訓を受け死への旅に出るあたりはどうなるんだろうとわくわく楽しみでした。が、「アガサクリスティ完全攻略」の本にも書いてありましたが、まさしく「有閑婦人の観光旅行」がぴったりするように優雅にすらすら話が進んでいきます。

途中、飛行機事故(見せかけですが)に遭遇した際に真珠のネックレスを引きちぎり、道中パラパラ真珠を落としていったり(まるでヘンデルとグレーテルのお話ですね)夫のトーマスと再会するときに「この人は私の夫じゃない!」と演技するとか、修羅場は少しはありましたが、暴力を受けるでもなく、どこかに監禁されるでもなく「スパイごっこ」が続きます。

そのうち生きる気になっていきますが、これは同行していたアンドルー.ピーターズに恋したせいでしょう。話の中で「女は順応しやすい生き物」とありましたが、本当にそのとおりです。

彼女のニセの夫トーマスは全くいいところなしでした。それに元妻の発明を横領してるわ殺してるわ、最後は逃げようとするわ最低、最悪の男です。

逆に活躍したのは情報部のジェソップ、ルブラン、そしてアンドルーの3人でこの人たちの終盤の活躍するさまは見事で読んでて楽しめました。

アリスタイディーズの言う「パックス,サイエンティフィカ」(科学者が支配する平和な世界)の世界はまるで現代のオウム真理教を思わせます。あと思ったのはイギリス、フランス、ドイツ、北欧といろいろなヨーロッパの国の人が登場しますが同じヨーロッパ人でもよくみわけがつくのですね。私はさっぱりわかりませんが、、、。そして物語の背景のマラケシュ、フェズ、カサブランカ、アトラス山脈といった東洋、アラブの地域の風景をいつか見てみたいです。

登場人物

トーマス.ベタートン 失踪した科学者、前妻エルダ(ZE核分裂)

オリーブ トーマスの妻

ボリス.グリドル少佐 トーマスのいとこ(ポーランド人)

ヒラリー.クレイヴン 自殺を望む女

ジェソップ イギリス情報局員

カルヴィン.ベイカー夫人 アメリカ人(連絡将校)

ミス.ヘザリントン イギリス人

マドモアゼル.ジャンヌ.マリコ 旅行者

アンリ.ローリエ フランス人

アリスタイディーズ 大富豪(ギリシャ人)

アンドルー.ピーターズ アメリカ人、科学者

トルキル.エリクソン 北欧人、物理学者

バロン フランス人、細菌学者

ヘルガ.ニードハイム(修道女) ドイツ人、内分泌学者

ポール.ヴアン.ハイデム オランダ人の大男

ドクター、ニールスン 副所長

サイモン.マーチソン 科学者

ビアンカ サイモンの妻

ルブラン フランス情報部員

オリーブの最後の言葉

ボリスは危険 雪

2022.3.25記

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