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アガサ・クリスティー 読書感想文

満潮に乗って

シェイクスピア「ジュリアス.シーザー」四幕三場

およそ人の行いには潮時というものがある

うまく満潮に乗りさえすれば運はひらけるが

いっぽうそれに乗りそこなったら人の世の船旅は災厄つづき、浅瀬に乗り上げて身動きがとれぬ。

いま、われわれはあたかも満潮の海に浮かんでいる。せっかくの潮時に流れに乗らねば賭荷も何も失うばかりだ。

感想

1948年に発表されたこの作品はポアロ物には珍しく戦争色の濃い作品となっております。

WRNSから故郷に帰ってきたリンが田舎の風景をながめながらくつろぐシーンには松本清張の情景描写が思い出されます。戦争によってゴードンという後ろ楯を失ったクロード一族とゴードンという宝を得てそれを失うまいとするデイビッド兄妹の戦いが見事に描かれています。

知略を巡らせたトリックも見もので、最近読んだポアロ物の中では傑作だと思いました。

ロザリーンはこの中では弱い存在で、あわれな人でした。逆にリンは自分の頭で考え、自分の足で立っていける強い女性で、だからこそデイヴィッドに強くひかれるんですね。そのリンを失うまいとするローリィ。朴とつでちょっとどんくさいイメージですが、こういう普段おとなしい人に限って、キレたら何するかわからないところがあります。直接ではないが人を殺した事に変わりはないのにおとがめなしとは。ポアロちょっと優しすぎたのでは。デイヴィッドだけが捕らえられるのは不平等じゃないでしょうか。

リンが「年月を経ると人間は変わる」と言うのに対し「人間は本質的には変わらない」と言うポアロ。デイヴィッドにひかれながらもローリィに殺されかかってローリィの本質を知り、ローリィを愛していると確信したリンですが、大丈夫かなああの二人結婚して。浮気でもした日には確実に殺されそう、お互い。

最後にこの作品では登場人物たちの人間くさい感情、妬み、恨み愛情といったものがドロ臭いくらいに描かれていて、はまりこんで読んでしまいました。ポアロの人情も感じられ、戦争というものが一夜にして人間の生活を変える恐ろしいものだとつくづく考えさせられました。

登場人物

ゴードン.クロード 百万長者、故人(ファロウ.バンク)

ロザリーン ゴードンの若い未亡人

ジャーミィ.クロード ゴードンの兄、弁護士

フランセス.クロード ジャーミィの妻、息子アントニー、メイドエドナ

エドワード.トレントン卿 フランセスの父

ライオネル.クロード ゴードンの弟、医師

ケイシィ(キャサリン) ライオネルの妻

アデラ.マーチモント ゴードンの姉

リン.マーチモント アデラの娘、WRNS(ホワイトハウス)

ローリィ.クロード ゴードンの甥、モリスの息子(ロングウイロウズ)

ジョニー.ヴァヴァサー ローリィの友人、故人

ロバート,アンダーハイ ロザリーンの前夫、故人

デイヴィッド.ハンター ロザリーンの兄

ビアトリス.リピンコット スタグ(旅館)の主人、リリイ

スペンス警視 オーストシャー警察捜査主任

ポーター少佐 ロバート.アンダーハイの友人(コロネーションクラブ)、メロン少年

イノック.アーデン 死んだ人

ミセス.リードベター スタグの年よりの人

アイリーン.コリガン ゴードンの小間使いだった女

チャールズ.トレントン フランセスのいとこ→アーデンに化けた男

ウォームズリーヒース 都会

ウォームズリーヴェィル 山村、リンたちの住んでいる場所

メイフェア ロンドンの一等地

イノック.アーデン 詩人テニスンの作

久闊を叙する 無沙汰をわびる

2022.3.28記

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