この作品は1956年にアガサクリスティがメアリ.ウェストマコットの名で発表した6冊のうちの最後の作品です。66才という比較的晩年の作品のせいか、クリスティの人生観が感じられます。
全体が4つの章で構成されており、第1章はローラ、第2章はシャーリー、第3章はルウェリン、第4章はローラとルウェリンが出会う話が描かれています。
第1章ローラ
両親の愛情を一身に受けている長男チャールズの死後、自分に愛情がそそがれると思ったのもつかの間、生まれてきた愛らしい妹シャーリーに両親の愛情が向かっているのに気づいたローラ。洗礼式の時、シャーリーを石の上に落としたらこの子は死ぬかも、と妹の死を願っていたが、家が火事になった時、炎の中から無我夢中で妹を助け出し、初めてシャーリーへの愛に目覚めます。
第2章シャーリー
両親の死後、シャーリーの保護者として何かやと世話をやくローラ。ヘンリーと恋に落ち結婚したいというシャーリーに反対するローラですがボールドックに「愛する事を止めることはできない」と諭され2人の結婚を認めます。幸せかと思われたシャーリーですが、ヘンリーの浮気と浪費に悩まされあげくの果てヘンリーは不治の病に犯されます。シャーリーを不憫に思ったローラはヘンリーに悪の手をさしのべます。
第3章ルウェリン
この章で一気に話は人生論、哲学的色彩をおびてきます。俗世に戻ったルウェリンは再婚したリチャードの家を抜け出して1人カフェで酒を飲んでいるシャーリーと出会います。誰からも愛されていたシャーリーですが本当に愛していたヘンリーを失った悲しみから逃れられず不幸だったのです。
逆にシャーリーを愛しすぎてシャーリーに重荷を与えていたローラもやはり不幸だったのです。そんなローラに暖かい眼で「愛しすぎてはいけない。自分に愛を受けることを知らないといけない」と忠告していたボールドックの言葉は正しかったのです。
第4章で出会ったルウェリンとローラ。2人に愛が芽生え、初めてローラは人に愛される喜びを知ります。
この作品は淡々と話が進み読みやすかったですが内容はかなり重いものがありました。親は自分の子供に対して平等に愛情を与えないといけないし、夫婦はお互いを尊重しないといけない。そして愛情は与えるだけではいけないし、受けるばかりでもいけない。
両方のバランスがくずれるとそれは悲劇を生む元凶になるということをつくづく考えさせられました。
クリスティ自身が離婚し、再婚した経験から愛というものの本質をメアリの名で考えてみたかったのではないかと思いました。
ポアロ、マープル物といった探偵小説では味わえない人間の心にあるものを垣間見たような気がしました。去年の春ちょうど一年ほど前に読んだ「春にして君を離れ」を思い出させてくれた味わい深い一冊です。
全く余談ですがあとがきの馬場さんの解釈は無視してよいと私は思いました。(本読むのに顔は関係ない!)
登場人物
ローラ.フランクリン 長女
シャーリー ローラの妹
アーサー ローラの父
アンジェラ ローラの母
チャールズ ローラの兄、長男、死亡
ジョン.ボールドック 学者、アーサーの友人
ヘンリー.グリンエドワーズ シャーリーの夫
エセル メイド
レディ.ミュリエル.フェアバラ ヘンリーの伯母
サー.リチャード.ワイルディング 旅行家
ルウェリン.ノックス 伝道者
2022.4.2記