(五匹の子豚)
1.この豚さんは市場行き
2,この豚さんはおるす番
3.この豚さんは肉を1切れもらい
4.この豚さんはなんにもない
5.この豚さんはウィーウィー迷子になっちゃった
1942年に発表されたこの作品は、マザーグースの童謡の歌詞にちなんで名前のつけられたポアロ作品で、アガサクリスティの晩年の頃の作品にはよく出てくる過去にあった事件をその当時にかかわった人々の話から事実をつきとめようとする形式の作品の1つです。(スリーピングマーダー、マギンティ夫人、象は忘れない等)
この作品では当時の事件に係わりのある5人の証言を五匹の子豚の童謡とからませて話が進められており、残酷さとユーモアの両方を感じさせられました。
母親の罪の真実を知りたいと娘から依頼を受けたポアロ。事件の関係者の証言からもカロリンの犯行は間違いないと思われていましたが、5人証言のうちの細かい点からカロリンの無罪を確信したポアロ。
アンジェラの証言より姉は自分の中にある暴力の本能を感じて、そのはけ口としてアミアスと口げんかをしていた。
ウィリアムズの証言より夫人はビールのビンをハンカチでみがいていた。死んだ夫の手を取ってビールのビンの上におしつけた。カロリンは自分が若い頃、妹アンジェラに嫉妬して彼女に文鎮を投げつけ、彼女の左目をつぶしてしまった(ジョナサン曰く)
その他5人の実験室を出た順番、その時の状況、夫婦がアンジェラをつぶして学校に行かせる話を兄弟が聞いた内容等。
こういうことはポアロでなくてはあばけなかった事実でしょう。5人の証言を得るのに相手の状況を考えて手段を変えるのといい見事としかいえません。
終盤ポアロが語る判決時に、妹に対するつぐないができたとすっきりした表情でいたカロリンの心の内、そしてアンジェラはクレイルを殺すつもりでなく、ただ嫌がらせをしただけ、本当の犯人はエルサだと告げるシーンにはしびれる思いがしました。
私が読んだのは1977年発行の少し古い本でしたが、この本の翻訳のせいか話や会話に無駄がなく、クールで研ぎ澄まされていました。
カロリンとアミアスの会話を聞いて、アミアスは本当は自分の事を愛していない、絵を描き終えたら捨てられてしまうと知ったエルサ。そのエルサをかわいそうだと言ったカロリンを見てアミアスに毒を盛ったエルサ。エルサは2人を殺したつもりが自分自身を殺してしまったと気づいたエルサが憎らしくもあり、気の毒でもありました。
いよいよポアロシリーズは「カーテン」を残すのみです。ここまできてあと一冊でポアロシリーズを読み終えるのが待ち遠しくもあり、まだ全部読み終えてしまいたくない気持ちもあって複雑な心境です。
登場人物
カーラ.ルマルション 事件の依頼者、カロリンの娘
アミアス.クレイル 画家、カーラの父、父リチャード
カロリン.クレイル カーラの母
モンタギュー.ディプリーチ卿 勅撰弁護士
老メイヒュー(ジョージ.メイヒュー)弁護士
エルサ.グリヤー アミアスの愛人、現ディティシャム卿夫人
フィリップ.ブレイク アミアスの親友、株の仲買人
メレディス.ブレイク フィリップの兄、田舎の大地主、薬草作り
セシリア,ウィリアムズ アンジェラの家庭教師
アンジェラ.ウォレン カロリンの腹違いの妹
クェンティン.フォッグ氏 勅撰弁護士
ハンブレイ.ルドルフ 当時の主席検事
ケイレヴ.ジョナサン 弁護士、クレイル家代々の付き合い
ヘイル 元警視
ジョン.ラタリー カーラのフィアンセ
素封家(そほうか) 民間の金持ち
2022.4.14記