この作品は、1945年に発表された短編「黄色いアイリス」を基に長編化されたもので、ポアロは登場せずレイス大佐が登場します。レイス大佐は「茶色の服の男」「ひらいたトランプ」「ナイルに死す」に次いで4番目で今回が最後の登場です。
この作品では登場人物が少ないですが、各人の心のうちが赤裸々につづられているので共感するところが多く、ドハマリする人が多々出現するかと思います。(私もそうでした)
まず夫のジョージですが、美しいローズマリーを妻にしたことでいずれは何か起きるだろうが、それは受け入れる覚悟はしてたものの、妻の態度から今回は本気らしいと勘づいてレパードという男に書いた手紙を見て、耳の中で血が音を立てました。愛人と思われるファラデーの近くに家を買い彼に近づきます。匿名の手紙が届き、妻は誰かに殺されたことを確信します。
ジョージの有能な秘書のルースはルシーラの息子ヴィクターに会って彼に一目で心を奪われます。彼によって自分の本心に気づきます。
私はローズマリーが憎い❗
彼女さえいなければ私がジョージの妻になれたかもしれない、と。このルースの心の叫びともいうべきシーンから物語が一気に面白くなってきました。
貧しい生まれながら、子供時代から野心に燃えるスティーブンはアレクサンドラという名門の子女を手に入れ、大政治家への階段を昇る途中でローズマリーと出会い、狂気の愛に目覚めます。だがそれもローズマリーからしつこく追われるようになると逆に彼女の存在がうっとうしくなります。妻のサンドラに知られたら自分は破滅すると。
ですがサンドラはとっくに知っていました。嫉妬はしましたがそれ以上にスティーブンを愛していたのです。
ジョージは知人のレイス大佐に妻を殺した犯人を見つけたいのでアイリスの為のディナーに出席してほしいと頼みますが、大佐には断られ、逆に危険だからやめろといわれます。もう一人姉妹にまとわりついていた男アンソニー(本名トニー.モレリ)は実はレイス大佐と同じ世界に属していた(情報部)人間で、ケンプ警部、アンソニー、レイス大佐がテーブルを囲んで各自の犯人説を話し合う過程が見ものでした。ケープは性格上からサンドラを、アンソニーは秘書のルースを、レイス大佐はなんとアイリスを各人の立場から予想します。各人の推理が的を得ていてそれぞれ納得。
犯人当てたのはアンソニーでしたが、危うく殺されそうだったアイリスが助かり、二人が結ばれたのはよかったです。
「黄色いアイリス」は短編でたんたんと話が進みますが、こちらは長編だけあって妻の死後一年という時の経過と各人の心情が合わさって読みごたえは充分あったと思います。策を講ずるあまりに、給仕の少年のちょっとした行動で死んでしまったジョージはあわれでなりません。そのトリックを見破ったアンソニーはお見事でした。
登場人物
ローズマリー.バートン 富豪の女性
アイリス.マール ローズマリーの妹
ジョージ,バートン ローズマリーの夫
ルシーラ.ドレイク ローズマリーの伯母
ヴィクター.ドレイク ルシーラの息子
スティーブン.ファラデー 政治家(レパード)
アレクサンドラ スティーブンの妻、名門キダミンスター家の娘
アンソニー.ブラウン ローズマリーの友人(トニー.モレリ)
ルース,レシング ジョージの秘書
レイス大佐 もと陸軍情報部員
ベティ.アーチデル もとローズマリーの小間使い
ケンプ 主任警部(昔バトルの部下)
ミス.クロイ.ウェスト 女優
ポール.ベネットローズマリーのおじ
ヘクター、ヴィオラ.マール ローズマリーの父母
メアリー.リース.トールバット(M) レイス大佐の知人
2022.3.17記