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アガサ・クリスティー 読書感想文

暗い抱擁

1948年刊行のこの作品は、メアリ.ウェストマコット名義で書かれた作品の1つです。クリスティ作品も戯曲集除いて残るはノンシリーズの数冊のみとなって手に入れた一冊ですが、題名「暗い抱擁」からはどうみても昼ドラの不倫ものチックなイメージがあって、あまり気のりしないまま、又裏表紙の解説をみても、やれ駆け落ちだの、キリスト教的博愛主義だの、どうもミステリーでも(当然ですが)探偵小説でもなさそうで(やや)仕方なく読み始めました。

ところがどっこい。

交通事故で不自由な身体となったヒューが兄のところに身をよせ、そこで運命的な2人の人物と出会います。1人はセント.ルーの城の娘のイザベラで、彼女と一緒の時を過ごすうちにヒューは生きる希望を見出します。

このあたりの2人の関係はとても尾だやかでほのぼのとしたものでした。

ですが、ゲイブリエルがイザベラと相対して全てが変わりました。醜くて利己主義、日和見主義のゲイブリエルの告白を読んでるとこの男の考えこそ、私自身、若い時から意識して生きていかないといけなかったのだと知りました。

自分の勇気(力)こそが本当に頼りになるものだと。ゲイブリエルが少年の頃、彼をひどく傷つけた言葉「貴族はなりたくても決してなれないもの」どんな苦痛にも耐えられると言うイザベラにタバコの火を押し付けるシーンがありましたが、これこそ彼の劣等感がイザベラに向かってふき出された態度だったと思います。

従兄のルパートとの幸せな結婚を捨て、ゲイブリエルと駆け落ちしたイザベラには、ゲイブリエルの真の姿が見えていたのだと思います。

この作品は面白かったとか読みごたえがあったとか以上に身分、階級問題、人間の本性、嫉妬、劣等感という重いテーマが盛りだくさんで、私には自分の人生を今一度考えさせられる一冊でした。

読者の感想をネットで見ても、題名の違和感があったという意見、あとがきは読まない方がいいという意見があり、私もそう思います。題名は原文「The rose and the Yew tree」

のままで良かったのではと思います。あと、この作品をより理解する上でシェイクスピア、特に「オセロ」の知識があったらゲイブリエルとヒューの対話の意味ももっと理解できたのにと痛感しました。

イザベラの心の内を全く描かず、読者に想像させるアガサクリスティ、やはりすごい人です。

登場人物

ヒュー.ノリーズ 元教師

パーフィット ヒューの従僕

キャサリン.ユーグピアン アルメリア人

ジョン,メリウエザ.ゲイブリエル 保守党国会議員候補=ファーザー.クレメント

イザベラ,チャータリス アデリドの孫 

テレサ ヒューの義姉、おばエイミー,トレジュリス

ジェニファー ヒューの恋人

ロバート ヒューの兄(ポルノース.ハウス)

アデリド.セント.ルー 第7代男爵の未亡人

アグネス.トレシリアン アデリドの妹

(モード)ヒガム.チャータリス アデリドの義妹、スパニエル犬、ルシンダ

ルパート 第9代セント.ルー

カーズレーク大尉 保守党の運動員

ウィルブレアム 労働党員、補欠で勝った

ジェームズ.バート 獣医

ミリー ジェームズの妻

アン.モードント カーズレークの姪、イザベラの学友

ザグラーゼ 地名、イザベラとゲイブリエルが住んでたところ

日和見主義 自分に都合のよい方へつこうと形勢をうかがう態度をとる事、オポチュニズム

2022.5.8記

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