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アガサ・クリスティー 読書感想文

葬儀を終えて

1953年に刊行されたこの作品は、解説の折原一氏が自身のポアロ作品の中でベスト1に挙げている超おすすめ作品です。

私もポアロ作品を読み進めてきて、残すところあと3作までとなり、期待を込めて読みました。

確かに期待を裏切らない作品です。ポアロ作品では定番の富豪一族が集まり遺産争いの中で殺人が発生する、そして犯人を見つけ出すというストーリーですが、ポアロ作未読の方には是非読んでいただきたい超定番の一冊です。

富豪のアバネシー氏が亡くなり葬儀で集まった遺族の中の一人である妹のコーラが発した一言「だってリチャードは殺されたんでしょう?」この思わせ振りの何の根拠もない一言が、遺族そして弁護士に自然死とされていた死に殺人という暗い影を投じます。

そしてその翌日、当のコーラが斤でたたき殺されます。この異常な事件が発生したため弁護士に捜査を依頼されたポアロが登場します。

冒頭の思わせ振りな一言に始まってポアロが遺族一人一人に話を聞いてまわりますが、その対応がそれぞれ違っていてユニーク。ポンタリエなんて聞いただけで失笑しそうな名前でUNARCOの一員になってたり、修道女が何度も登場してオカルティックな雰囲気もありました。

コーラを殺害した日のアリバイはほぼ全員なかったり、家系図と逐一照らし合わせて家族関係をチェックしないと誰が誰やら訳わからなくなったり、グレゴリーバンクスは発狂したのか「ぼくが殺した」なんて叫びだす始末で、理解しながら読むのは大変だったりしましたが、読みごたえは充分ありました。

昔から頭が少し弱く、思ったことを考えなしに口にするコーラ。コーラに対する違和感をつのらせるヘレン。遺族の誰もがコーラを殺しうる中、一番殺人を犯しそうでない人間が犯人だったとは。お金とは金額の大きさだけでない、その人なりの物差しがあって、それが犯行に手を染める動機になるのです。

自分の人生で最後の希望の為に手を血で染めた哀れな女の犯行を描いたところにアガサクリスティらしさが感じられました。

そして所々に伏線となる言葉や表現があって、読み終わる頃に「ああ、そういえば、、」と思い出されたりするのも読む楽しみの1つです。

もう一度、腰をすえて読みかえしてみたい、私のおすすめの一冊です。

家系図

2022.4.16記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

五匹の子豚

(五匹の子豚)

1.この豚さんは市場行き

2,この豚さんはおるす番

3.この豚さんは肉を1切れもらい

4.この豚さんはなんにもない

5.この豚さんはウィーウィー迷子になっちゃった

1942年に発表されたこの作品は、マザーグースの童謡の歌詞にちなんで名前のつけられたポアロ作品で、アガサクリスティの晩年の頃の作品にはよく出てくる過去にあった事件をその当時にかかわった人々の話から事実をつきとめようとする形式の作品の1つです。(スリーピングマーダー、マギンティ夫人、象は忘れない等)

この作品では当時の事件に係わりのある5人の証言を五匹の子豚の童謡とからませて話が進められており、残酷さとユーモアの両方を感じさせられました。

母親の罪の真実を知りたいと娘から依頼を受けたポアロ。事件の関係者の証言からもカロリンの犯行は間違いないと思われていましたが、5人証言のうちの細かい点からカロリンの無罪を確信したポアロ。

アンジェラの証言より姉は自分の中にある暴力の本能を感じて、そのはけ口としてアミアスと口げんかをしていた。

ウィリアムズの証言より夫人はビールのビンをハンカチでみがいていた。死んだ夫の手を取ってビールのビンの上におしつけた。カロリンは自分が若い頃、妹アンジェラに嫉妬して彼女に文鎮を投げつけ、彼女の左目をつぶしてしまった(ジョナサン曰く)

その他5人の実験室を出た順番、その時の状況、夫婦がアンジェラをつぶして学校に行かせる話を兄弟が聞いた内容等。

こういうことはポアロでなくてはあばけなかった事実でしょう。5人の証言を得るのに相手の状況を考えて手段を変えるのといい見事としかいえません。

終盤ポアロが語る判決時に、妹に対するつぐないができたとすっきりした表情でいたカロリンの心の内、そしてアンジェラはクレイルを殺すつもりでなく、ただ嫌がらせをしただけ、本当の犯人はエルサだと告げるシーンにはしびれる思いがしました。

私が読んだのは1977年発行の少し古い本でしたが、この本の翻訳のせいか話や会話に無駄がなく、クールで研ぎ澄まされていました。

カロリンとアミアスの会話を聞いて、アミアスは本当は自分の事を愛していない、絵を描き終えたら捨てられてしまうと知ったエルサ。そのエルサをかわいそうだと言ったカロリンを見てアミアスに毒を盛ったエルサ。エルサは2人を殺したつもりが自分自身を殺してしまったと気づいたエルサが憎らしくもあり、気の毒でもありました。

いよいよポアロシリーズは「カーテン」を残すのみです。ここまできてあと一冊でポアロシリーズを読み終えるのが待ち遠しくもあり、まだ全部読み終えてしまいたくない気持ちもあって複雑な心境です。

登場人物

カーラ.ルマルション 事件の依頼者、カロリンの娘

アミアス.クレイル 画家、カーラの父、父リチャード

カロリン.クレイル カーラの母

モンタギュー.ディプリーチ卿 勅撰弁護士

老メイヒュー(ジョージ.メイヒュー)弁護士

エルサ.グリヤー アミアスの愛人、現ディティシャム卿夫人

フィリップ.ブレイク アミアスの親友、株の仲買人

メレディス.ブレイク フィリップの兄、田舎の大地主、薬草作り

セシリア,ウィリアムズ アンジェラの家庭教師

アンジェラ.ウォレン カロリンの腹違いの妹

クェンティン.フォッグ氏 勅撰弁護士

ハンブレイ.ルドルフ 当時の主席検事

ケイレヴ.ジョナサン 弁護士、クレイル家代々の付き合い

ヘイル 元警視

ジョン.ラタリー カーラのフィアンセ

素封家(そほうか) 民間の金持ち

2022.4.14記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

教会で死んだ男(短編集)

①戦勝記念舞踏会事件

パーティーで参加していたクロンショー卿がナイフで刺されて死亡し、別の所でコカイン中毒で死んだ卿の女性との関連は?開催されたイタリア喜劇の登場人物からポアロが犯人を見つける

②潜水艦の設計図

中編「死人の鏡」収録、謎の盗難事件の原型

③クラブのキング

ブリッジをしている家に急に血まみれで逃げてきた女優。高貴な男性と、結婚を妨害された男が殺されていた。その女優はその家の元家族であった話

④マーケット.ベイジングの怪事件

「死人の鏡」収録ミューズ街の事件の原型

自殺した男を彼を好きな女性が男を脅迫していたとして殺人犯にみたてるが、ポアロはタバコの煙のにおいがしないのと、男が左ききなのを見抜いてしまう。

⑤二重の手がかり

パーティーで盗まれた宝石類をとり戻したポアロ。盗んだ相手はヴェラ.ロサコフ夫人。イニシャルB.Pはロシア語ではV.Rとなる。2人の運命的な出会いの話。

⑥呪われた相続人

名門リムジェリア家では長男は家督を相続できないという言い伝えがある。昔、不貞をはたらいた妻とその子が無惨に殺された呪いらしい。ポアロが捜査するとそれは内部の伝説にとりつかれた異常者の仕業だった(似たような話どこかにあり)

⑦コーンウォールの毒殺事件

夫に毒殺されると訴えてきた中年女性。ポアロが行くと女性は死んでいた。同居していた姪の恋人が金欲しさで女性とその姪両方を色仕掛けにし罪を夫にかぶせていた。(似た話あり)

⑧プリマス行き急行列車

青列車の秘密の原型

プリマス行き急行列車に女性の死体が発見される。彼女はアメリカ鉄鋼王の娘で携帯していた宝石類が消えていた。途中メイドを駅に残し、戻ってくるからと言って立ち去ったまま殺されたと推定されたが、メイドは実は犯人の協力者だった。ポアロ曰く「私立探偵は優秀な心理学者であらねばならない」

⑨料理人の失踪

急に失踪した中年女性の料理人。心配して探してほしいと家の奥方に頼まれるが、同居人の銀行員の横領をカモフラージュするための芝居であった話

⑩二重の罪

旅行途中、同行した美少女と伯母の骨董屋の共謀。不当きわまるバス旅行の運賃。詐欺にあった外国人が気の毒で怒り狂うポアロ。エルキュール.ポアロは外国人の味方なんだ❗

⑪スズメ蜂の巣

死の宣告を受けた青年が、自分の女を取った友人を罪に陥れようと青酸カリを手に入れるが、ポアロに阻止され、己の邪心を克服しポアロに感謝する。

⑫洋裁店の人形

ある日突然、洋裁店にあった人形。まるで自分から動いているように場所を変えるので気持ち悪くて窓から捨てたら小さい少女に拾われ、この人形はかわいがってもらいたかっただけなのよ、と言われ唖然とする。

⑬教会で死んだ男

教会の中で倒れてる男の背広から荷物引取証を見つけたパンチは預けていたスーツケースをマープルの機転で盗人の宝石箱を手にする。死んだ男の娘を自分が幸せにしてやると神に誓う。

全体の感想

この作品は1982年に早川書房より刊行されたアガサクリスティの比較的初期の短編を集めた短編集で、ポアロ物11作、マープル物1作、怪奇小説1作の計13作品が収められています。ポアロ物はヘイスティングズの語り口で書かれたものが多く、読んでいくと「あれ、どこかで読んだな」と思われる作品が多いのに気付きます。

②④⑥⑦⑧はこののち中編もしくは長編作品の原型といった作品で、知っている人には少し物足りないと思うかもしれません。

⑤では懐かしいヴェラ.ロサコフ夫人が登場します。

私の一番好きな作品は⑪。⑬のマープル物はマープル作品のどこか素朴でほのぼのとした余韻が感じられ、パンチの明るい性格が好ましい作品です。

2022.4.13記

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複数の時計

この作品が発表されたのは1963年で比較的後期のポアロ物ですが、コリンという情報部員と彼の友人ハードキャスル警部の2人がメインで捜査し、ポアロは安楽椅子に座り、聞いた話からアドバイスするというスタイルで話が進みます。

舞台はウィルブラーム新月通りの住宅街、派遣されたタイピストがその家で死体となった男を発見します。その男は誰?誰によってどうやって運ばれたのか?そこにあった6つの時計の意味は?と、最初の設定は面白くトリッキーでした。ポアロの後期の作品には結構、意表をつく話が多いですが、この作品も例にもれず、です。途中、ポアロがコナン.ドイルやエトガー.アラン.ポー、他の有名推理作家のうんちくを語るシーンがあって、ちょっと新鮮。

ポアロの家が改装中でホテル住まいしてるポアロやタイピスト、派遣所等、時代の流れを感じます。舞台も豪邸ではなくウィルブラーム新月通りという中流の住宅地で親しみも感じられます。住民のへミングさんがイギリス的お犬様でなく猫を飼ってるのも時代なのかしら?

死体と共にあった複数の時計、絵はがきの4時13分とか謎ときとしては楽しめました。ポアロに住民の人たちといろいろな話をするようアドバイスされたコリンがその会話から事件の真相の手がかりを見つける過程が読んでいて楽しい。

コリンが自分の本職の情報府としての仕事と殺人犯の捜査を並行してるため、丁寧に読まないと話が混乱しそうでしたが最後で一気に謎が解けたのはびっくりしました。

他人と思われてた人たちが親子だったり姉妹だったりで、ポアロの人間観察はすごいと思った反面、ややこじつけかも、と思いました。

🌙マークの61Mの絵、びっくり返したら実は当のコリンが探してる人物ととっくに会っているというのも苦笑いものですね。スパイ稼業から足を洗ったコリンとシェイラのラブロマンスも芽生えて最後はハッピーエンドでよかったです。

登場人物

コリン.ラム 秘密情報部員、海洋生物学者

ベック大佐 コリンの上司

ミス.K.マーティンデイル カヴェンディッシュ秘書タイプ引受所長、砂色猫

シェイラ.ウェッブ 速記タイピスト(ローズマリー)

ミセス.ロートン シェイラの叔母

R.H.カリィ 殺された男、ハリー.キャスルトン

エドナ.ブレント タイピスト兼受付係

マーリナ.ラィヴァル(フロッシー.ギャップ)殺された男の妻と称する女

ゼラルディン アパートに住む少女

ミリセント.ペブマーシュ 身体障害施設の教師、盲目、19号

ジョサイア.ブランド 建設業者、妻ヴァレリィ、61号

ミセス.カーティン ペブマーシュの家の通いのメイド

ジェームズ.ウォーターハウス 弁護士、妹エティス、18号

ミセス.へミング(ダイアナ.ロッジ) 猫好きの老婦人(61号と背中合わせ)20号

ミセス.ラムジィ 土木技師の妻、息子ビル、テッド、62号

アンガス.マクノートン 引退した教授、園芸好き、63号

ディック.ハードキャスル クローディン警察署捜査課警部

ミセス.パッカー ウィルブラーム新月通り(クレスント)47号の住人

クェンティン.ダゲスクリン カナダ人、ハリィ.キャスルトン(殺された男)

マーティンデイルとミセス.ブランド=姉妹

ペブマーシュとシェイラ=親子

2022.4.6記

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愛の重さ

この作品は1956年にアガサクリスティがメアリ.ウェストマコットの名で発表した6冊のうちの最後の作品です。66才という比較的晩年の作品のせいか、クリスティの人生観が感じられます。

全体が4つの章で構成されており、第1章はローラ、第2章はシャーリー、第3章はルウェリン、第4章はローラとルウェリンが出会う話が描かれています。

第1章ローラ

両親の愛情を一身に受けている長男チャールズの死後、自分に愛情がそそがれると思ったのもつかの間、生まれてきた愛らしい妹シャーリーに両親の愛情が向かっているのに気づいたローラ。洗礼式の時、シャーリーを石の上に落としたらこの子は死ぬかも、と妹の死を願っていたが、家が火事になった時、炎の中から無我夢中で妹を助け出し、初めてシャーリーへの愛に目覚めます。

第2章シャーリー

両親の死後、シャーリーの保護者として何かやと世話をやくローラ。ヘンリーと恋に落ち結婚したいというシャーリーに反対するローラですがボールドックに「愛する事を止めることはできない」と諭され2人の結婚を認めます。幸せかと思われたシャーリーですが、ヘンリーの浮気と浪費に悩まされあげくの果てヘンリーは不治の病に犯されます。シャーリーを不憫に思ったローラはヘンリーに悪の手をさしのべます。

第3章ルウェリン

この章で一気に話は人生論、哲学的色彩をおびてきます。俗世に戻ったルウェリンは再婚したリチャードの家を抜け出して1人カフェで酒を飲んでいるシャーリーと出会います。誰からも愛されていたシャーリーですが本当に愛していたヘンリーを失った悲しみから逃れられず不幸だったのです。

逆にシャーリーを愛しすぎてシャーリーに重荷を与えていたローラもやはり不幸だったのです。そんなローラに暖かい眼で「愛しすぎてはいけない。自分に愛を受けることを知らないといけない」と忠告していたボールドックの言葉は正しかったのです。

第4章で出会ったルウェリンとローラ。2人に愛が芽生え、初めてローラは人に愛される喜びを知ります。

この作品は淡々と話が進み読みやすかったですが内容はかなり重いものがありました。親は自分の子供に対して平等に愛情を与えないといけないし、夫婦はお互いを尊重しないといけない。そして愛情は与えるだけではいけないし、受けるばかりでもいけない。

両方のバランスがくずれるとそれは悲劇を生む元凶になるということをつくづく考えさせられました。

クリスティ自身が離婚し、再婚した経験から愛というものの本質をメアリの名で考えてみたかったのではないかと思いました。

ポアロ、マープル物といった探偵小説では味わえない人間の心にあるものを垣間見たような気がしました。去年の春ちょうど一年ほど前に読んだ「春にして君を離れ」を思い出させてくれた味わい深い一冊です。

全く余談ですがあとがきの馬場さんの解釈は無視してよいと私は思いました。(本読むのに顔は関係ない!)

登場人物

ローラ.フランクリン 長女

シャーリー ローラの妹

アーサー ローラの父

アンジェラ ローラの母

チャールズ ローラの兄、長男、死亡

ジョン.ボールドック 学者、アーサーの友人

ヘンリー.グリンエドワーズ シャーリーの夫

エセル メイド

レディ.ミュリエル.フェアバラ ヘンリーの伯母

サー.リチャード.ワイルディング 旅行家

ルウェリン.ノックス 伝道者

2022.4.2記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

満潮に乗って

シェイクスピア「ジュリアス.シーザー」四幕三場

およそ人の行いには潮時というものがある

うまく満潮に乗りさえすれば運はひらけるが

いっぽうそれに乗りそこなったら人の世の船旅は災厄つづき、浅瀬に乗り上げて身動きがとれぬ。

いま、われわれはあたかも満潮の海に浮かんでいる。せっかくの潮時に流れに乗らねば賭荷も何も失うばかりだ。

感想

1948年に発表されたこの作品はポアロ物には珍しく戦争色の濃い作品となっております。

WRNSから故郷に帰ってきたリンが田舎の風景をながめながらくつろぐシーンには松本清張の情景描写が思い出されます。戦争によってゴードンという後ろ楯を失ったクロード一族とゴードンという宝を得てそれを失うまいとするデイビッド兄妹の戦いが見事に描かれています。

知略を巡らせたトリックも見もので、最近読んだポアロ物の中では傑作だと思いました。

ロザリーンはこの中では弱い存在で、あわれな人でした。逆にリンは自分の頭で考え、自分の足で立っていける強い女性で、だからこそデイヴィッドに強くひかれるんですね。そのリンを失うまいとするローリィ。朴とつでちょっとどんくさいイメージですが、こういう普段おとなしい人に限って、キレたら何するかわからないところがあります。直接ではないが人を殺した事に変わりはないのにおとがめなしとは。ポアロちょっと優しすぎたのでは。デイヴィッドだけが捕らえられるのは不平等じゃないでしょうか。

リンが「年月を経ると人間は変わる」と言うのに対し「人間は本質的には変わらない」と言うポアロ。デイヴィッドにひかれながらもローリィに殺されかかってローリィの本質を知り、ローリィを愛していると確信したリンですが、大丈夫かなああの二人結婚して。浮気でもした日には確実に殺されそう、お互い。

最後にこの作品では登場人物たちの人間くさい感情、妬み、恨み愛情といったものがドロ臭いくらいに描かれていて、はまりこんで読んでしまいました。ポアロの人情も感じられ、戦争というものが一夜にして人間の生活を変える恐ろしいものだとつくづく考えさせられました。

登場人物

ゴードン.クロード 百万長者、故人(ファロウ.バンク)

ロザリーン ゴードンの若い未亡人

ジャーミィ.クロード ゴードンの兄、弁護士

フランセス.クロード ジャーミィの妻、息子アントニー、メイドエドナ

エドワード.トレントン卿 フランセスの父

ライオネル.クロード ゴードンの弟、医師

ケイシィ(キャサリン) ライオネルの妻

アデラ.マーチモント ゴードンの姉

リン.マーチモント アデラの娘、WRNS(ホワイトハウス)

ローリィ.クロード ゴードンの甥、モリスの息子(ロングウイロウズ)

ジョニー.ヴァヴァサー ローリィの友人、故人

ロバート,アンダーハイ ロザリーンの前夫、故人

デイヴィッド.ハンター ロザリーンの兄

ビアトリス.リピンコット スタグ(旅館)の主人、リリイ

スペンス警視 オーストシャー警察捜査主任

ポーター少佐 ロバート.アンダーハイの友人(コロネーションクラブ)、メロン少年

イノック.アーデン 死んだ人

ミセス.リードベター スタグの年よりの人

アイリーン.コリガン ゴードンの小間使いだった女

チャールズ.トレントン フランセスのいとこ→アーデンに化けた男

ウォームズリーヒース 都会

ウォームズリーヴェィル 山村、リンたちの住んでいる場所

メイフェア ロンドンの一等地

イノック.アーデン 詩人テニスンの作

久闊を叙する 無沙汰をわびる

2022.3.28記

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死への旅

この作品は1954年に発表されたアガサクリスティのノンシリーズでカテゴリーではスパイスリラー物に属しています。

東西冷戦下のヨーロッパでは有名な科学者が次々と謎の失踪をとげており、ある科学者の妻の足どりをたどって、どこに行っているのかを情報部の人間が探ろうとするお話です。

読んだ感想はずばりSF物を読んだ気分でした。主人公のヒラリーが施設の建物に入って「まるで異次元の世界へ迷い込んだみたい」と言っていますが、私もそっくりそのまま異次元の世界の話を読んでる感じがしました。何にせよ、現実味が全くありません。

夫に浮気され、子供を亡くし、失意のどん底にあるヒラリー。外国に旅行し、異国で自殺するつもりが、その容姿がトーマスの妻オリーブに似ていることからスパイに雇われ、特訓を受け死への旅に出るあたりはどうなるんだろうとわくわく楽しみでした。が、「アガサクリスティ完全攻略」の本にも書いてありましたが、まさしく「有閑婦人の観光旅行」がぴったりするように優雅にすらすら話が進んでいきます。

途中、飛行機事故(見せかけですが)に遭遇した際に真珠のネックレスを引きちぎり、道中パラパラ真珠を落としていったり(まるでヘンデルとグレーテルのお話ですね)夫のトーマスと再会するときに「この人は私の夫じゃない!」と演技するとか、修羅場は少しはありましたが、暴力を受けるでもなく、どこかに監禁されるでもなく「スパイごっこ」が続きます。

そのうち生きる気になっていきますが、これは同行していたアンドルー.ピーターズに恋したせいでしょう。話の中で「女は順応しやすい生き物」とありましたが、本当にそのとおりです。

彼女のニセの夫トーマスは全くいいところなしでした。それに元妻の発明を横領してるわ殺してるわ、最後は逃げようとするわ最低、最悪の男です。

逆に活躍したのは情報部のジェソップ、ルブラン、そしてアンドルーの3人でこの人たちの終盤の活躍するさまは見事で読んでて楽しめました。

アリスタイディーズの言う「パックス,サイエンティフィカ」(科学者が支配する平和な世界)の世界はまるで現代のオウム真理教を思わせます。あと思ったのはイギリス、フランス、ドイツ、北欧といろいろなヨーロッパの国の人が登場しますが同じヨーロッパ人でもよくみわけがつくのですね。私はさっぱりわかりませんが、、、。そして物語の背景のマラケシュ、フェズ、カサブランカ、アトラス山脈といった東洋、アラブの地域の風景をいつか見てみたいです。

登場人物

トーマス.ベタートン 失踪した科学者、前妻エルダ(ZE核分裂)

オリーブ トーマスの妻

ボリス.グリドル少佐 トーマスのいとこ(ポーランド人)

ヒラリー.クレイヴン 自殺を望む女

ジェソップ イギリス情報局員

カルヴィン.ベイカー夫人 アメリカ人(連絡将校)

ミス.ヘザリントン イギリス人

マドモアゼル.ジャンヌ.マリコ 旅行者

アンリ.ローリエ フランス人

アリスタイディーズ 大富豪(ギリシャ人)

アンドルー.ピーターズ アメリカ人、科学者

トルキル.エリクソン 北欧人、物理学者

バロン フランス人、細菌学者

ヘルガ.ニードハイム(修道女) ドイツ人、内分泌学者

ポール.ヴアン.ハイデム オランダ人の大男

ドクター、ニールスン 副所長

サイモン.マーチソン 科学者

ビアンカ サイモンの妻

ルブラン フランス情報部員

オリーブの最後の言葉

ボリスは危険 雪

2022.3.25記

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第3の女

この作品は1966年発表とポアロシリーズでも後期の作品になり、登場する若者たちの服装や風俗なども現代に近づいてるのが感じられます。

若者は良家の子女でも都会に出て家を借り、外で仕事をします。ファーストガール、セカンドガールそして題のタイトルにもあるサードガール(第3の女)

正妻、2号さん、3号さんを想像していた私はまったく見当はずれ。デイヴィッドの髪型や服装はきっとビートルズを意識してたのでしょう。それとオーペアガールという存在も後期の作品に登場するようになります(ハロウィーンパーティetc.)

オリヴァがデイヴィッドを形容して孔雀というのもうなずけます。だからハヤカワ書房の表紙も孔雀なのですね。

ノーマという若い女性がポアロを訪れて「私、人を殺したかも」と告げるが、ポアロを見て「あなたは年をとりすぎてる」と言って去って行きます。

ショックで落ち込むポアロ。オリヴァに「今の若い子にしたら35才以上の人間は棺桶に足つっこんでるみたいなのよ」となぐさめられるポアロ。ポアロとオリヴァの掛け合いがほほえましくコミカルです。ですが今回、2人は老齢にかかわらず活躍します。

特にオリヴァは知恵を使って女3人のアパートに入り込むわ、孔雀のあとを尾行し、どこまでも追跡するわの大活躍。何者かに頭を殴られてけがするのがお気の毒。

逆にポアロは頭を使いすぎるせいか、事件のパターンがつかめず、もんもんと悩んでしまいます。本人も自分は年取ったと自覚します。

殺人はあったはずなのに死体が見つからないというパターンは今までにない事件で苦悩するポアロの描写が重かったのと、ノーマというとらえどころのないキャラクター(ポアロいわく魅力のないオフィリア)の行動やセリフが支離滅裂で同調しにくかった感じがあります。

あと砒素とか現代的な麻薬や神経医が登場するのも現代に近づいた時代背景が感じられます。

犯人がなりすました夫婦だったという、びっくりするような展開でしたが、長年会っていなかったとはいえ実の父親かどうか普通わかるやろと思いますし、メアリ.フランシスというのもちょっとこじつけた感じがしますが。

ソニアはスパイ?とか思いましたがロデリック卿と結ばれ最後にロマンスがあるのはクリスティらしいです。そして出番は少ないながらもどんな時でも自分のすべき事を心得ているミス.レモン、執事のジョージはポアロ作品になくてはならない名脇役ですね。

登場人物

アンドリュウ.レスタリック 実業家の大物

メアリ アンドリュウの妻

ノーマ アンドリュウの娘(サードガール)

ロデリック.ホースフィールド アンドリュウの伯父

クローディア.リース.ホランド アンドリュウの秘書(ファーストガール)

フランシス.キャリー 室内装飾家(セカンドガール)

デイヴィッド.ベイカー ノーマのボーイフレンド

ナオミ.ロリマー オリヴァの友人

ジョン.ステイリングフリート 精神科医

ニール 主任警部

ミス,ルイーズ.シャルパンティエ 死んだ中年女性

ミス.バタースビー メドウフィールド女子学校の元校長

ソニア ロデリックの秘書

ゴビー 情報屋

(オーペア)女書生 イギリスの中流家庭に寄食し、家事の手伝いをしながら勉学などをする外国人の娘

(クロスヘッジ) ロデリックの屋敷

ボロディン.メゾンズ ノーマたちの住んでるところ

2022.3.25記

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死人の鏡(短編集)

①厩舎街の殺人(ミューズ)

2人の女性が同居している家で1人がピストル自殺を遂げた。不審な点があるのでジャップ警部とポアロが調査に乗り出す。

自殺した女性には婚約者がいるが、彼女の過去を知り、ゆすりをかける男が現れる。悩んだ彼女は自殺するが、ゆする男を許せない彼女の同居人は自殺を他殺に見せかけて男を逮捕させようと企てたがポアロによって見破られてしまう。婚約者の為に身を引く者とその友人の友情が切なく悲しく美しい。ポアロとジャップ警部のやりとりがほのぼのとしていて心暖まる一作。

ミス,アレン 婚約者チャールズ.レイヴァートン.ウェスト

ミス.ブレンダーリース

ユースタス少佐

②謎の盗難事件

新型爆撃機の設計明細書が盗まれた事件に呼ばれたポアロ。調べるうちにそれは行政官が過去の自分の背信行為をあばかれないためにスパイと手を組んだ偽の盗難事件だと気づく。キャリントン夫人が息子が容疑者じゃないかと勘違いしてポアロに詫びをこうが息子はただメイドといちゃついていただけだった。

殺人事件は起こらないが元技術者である行政官の苦悩がいろいろなトリックに現れていて犯人探しの謎解きがなかなか難しく読みごたえある一作。

③死人の鏡

ジャーヴァスから手紙を受け取りハムバラ荘に赴いたポアロ。到着した時には彼はピストル自殺を遂げていた。彼の傲慢な性格から自殺は考えられない。状況も不自然。養女のルースとヒューゴが結婚しないと遺産は渡さないという遺言に反して、ルースはレイクと結婚していた。犯人は意外な人物(ルースの母)だった。

短編「二度目のゴング」が基盤となっている本作品。こっちの作品の方が人物描写、ポアロの推理が光ります。血統や家柄といった古い物から個人の自由を選択するルースたち若者への時代の移り変わりが感じられます。

(余談ですが)

鏡とは、、、「鏡は横にひびわれて」にも出るセリフ

旧家にはたいてい呪いがかかっている(ヴァンダ夫人)

④砂にかかれた三角形

後の「白昼の悪魔」の原型となる作品。自分の夫がヴァレンタインと再婚したいと言うと嘆くマージョリー。だがそれは偽りで、トニーとマージョリーの2人こそが真の悪者でヴァレンタインを亡き者にしたのだとポアロは見抜く。ロードス島を舞台にした悪意に満ちた物語。1937年刊行。4作すべてポアロが主人公。中編くらいのボリュームがありどの作品もポアロの頭脳が冴え渡るおすすめの一冊です。特に④は短い作品ながら本当の悪魔が登場する絶品の一作品。

 (余談ですが)

岡目八目 第三者には当事者よりかえって物事の真相がよくわかること

2022.1.26記

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なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか

この作品は1934年に発表されたアガサクリスティのノンシリーズで、牧師の4男坊と伯爵令嬢のフランシス(フランキー)が活躍する冒険ミステリーです。

牧師の息子で無職のボビイが友人とゴルフをしている時に崖から落ちて死にそうになっている男性を発見します。その男性が息をひきとる時に言った「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか」という言葉が題名のタイトルになっているのですが、それが印象深く、とても興味を持ちました。

題名からイメージしたのはスパイ小説でしたが内容はとても楽しい冒険ミステリーでした。

まずキャラクターの個性が際立っています。牧師の4男で無職ながら素朴で屈託のない素直な青年ボビイ。

伯爵令嬢のフランキーに対してひがみなく接しています。

伯爵令嬢ながら気取ってなくて陽気なおてんば娘のフランキー。生まれながらの性格の良さと父親の金の力をバックに、豪華な車だけでなく、おんぼろ車も運転し、敵陣の中?へ体当たりで乗り込む行動派。

そしてボビイの友人のバジャー。肝心な場面で2人を助ける、意外と頼りがいのある好人物。

まるでトミイ&タペンスの「秘密機関」を思い出させてくれる若さと向こう見ずのパワーあふれるストーリーで読んでるあいだ中楽しくてたまりませんでした。

トミイ&タペンス好きの読者には是非おすすめしたい一冊です。

この作品の米版の題名は「ブーメランの手がかり」というそうで、真相に近づくのに一進一退するさまを表現しているとの事。真相をたどっていって最後には牧師館にたどり着く様子や、最後に2人が言った言葉「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」が最後まで問いの言葉で残ったのが見事なおちでした。

が、読み終わってから話の筋をたどってみたら、わかったような、いまいちわからんかったような、、、。それと致死量のモルヒネを飲んでも奇跡的にボビイが助かったりと、突っ込みどころもありますが、それを補ってあまりあるぐらいに話の展開が早く、ぐいぐいと話の中に引き込まれました。あと悪役のロジャー.バッシントンが魅力のある人物で、最後はうまくオーストラリアまで逃げおせて、手紙なんか2人に書いて送ってくるのも小憎らしいです。

殺人犯は魅力にあふれているというのは、そのとおりですね。

現在2022年3月はロシアとウクライナが戦争のまっただ中、原油が値上がりし、それに続くように小麦粉その他も値上がりし、新型コロナは未だおさまる気配もありません。

先日東北地方で震度6の地震も起き、その周辺地域では再び電力がひっ迫しているという、明るいニュースが何もないこんな時こそ、こういう心が楽しくなる本を読んでしばしストレスを吹き飛ばしたいとつくづく思います。

登場人物

ロバート(ボビイ).ジョーンズ 牧師の4男、もと海軍軍人

トーマス.ジョーンズ ボビイの父親

フランシス(フランキー).ダーウェント ボビイの幼なじみ、伯爵令嬢

アレックス.プリチャード 死んだ人

バジャー.ビードン ボビイの親友

レオ.アメリヤ,ケイマン夫妻 プリチャードの妹夫婦

ヘンリィ.バッシントン.フレンチ 地方名家の当主

シルヴィア ヘンリィの妻、息子トミー

ロジャー ヘンリィの弟

ジャスパー.ニコルソン博士 精神病院を経営する医者

モイラ ニコルソン博士の妻

ジョージ.アーバスノット フランキーの友人、医者

アラン.カーステアーズ 探検家

ロバーツ夫人 ジョーンズ家の家政婦

マーチントン卿 フランキーの父

ジョン.サヴィッジ 億万長者

フレデリック.スプラッゲ 弁護士

2022.3.23記