カテゴリー
アガサ・クリスティー 読書感想文

エッジウェア卿の死

この作品は1933年に発表されたエルキュール.ポアロの活躍する推理小説のうちヘイステイングズのクールな語り口で語られる作品の1つです。

ヘイステイングズの語り口で進行される作品にはどことなくクールなイメージがただようものが多いですが、これもその例にもれず、シーンとした少し邪悪な雰囲気が冒頭から感じられます。

読み始めからなぜかとても嫌な感情がわき起こりました。

内容はとても気になるけど早く読み終えてしまいたい嫌悪感というか、いっそ読むのをやめようかと思ってしまう拒否感というものが出てきたのです。

私にとって苦手なものだと本能が告げていました。

なんとなく気乗りしないながらも読んでいくうちにその理由がわかりました。

この作品には究極のサイコパス人間が登場しているからです。

その人物は女優でありエッジウェア卿夫人であるジェーン.ウィルキンスン。ポアロが一目見て、この女性は危険な人生をわたる人だと見抜いていますがまさにその通りの人生を歩みます。

ポアロと会っていきなり「夫と離婚させて」とか頼むやら、ポアロのことを「猫のお髭さん」なんて呼ぶやら、夫が死んだのに衣装のことしか頭にない、そばにいて一番嫌なタイプの女性です。

ポアロが自分で失敗作だというこの事件、一番怪しいジェーンには鉄壁のアリバイがあって、犯人探しも難航を極め、詠んでいても捜査が空回りしている感が強かったですが、そこはポアロ。

たまたま通りがかりの通行人の一言の「エリスに聞いてみるべきだ」でヒントがひらめき、事件が一気に解決に向かったときは私もホッとしました。

ジェーンの最後の手紙を読んだ時には憎むべき人間ながら、正常な人間の心を持たないのはある意味悲しい人だと思いました。

PSの一行には彼女の全てが表されていますね。

ポアロも手を焼いたこの事件、サイコパスの恐ろしさと、それと反してポアロのヘイステイングズ大尉に対する深い信頼が感じられるセリフが印象に残ります。

「君には犯罪者の気持ちを見抜く洞察力があります。正常な均整のとれた精神の持ち主だ」

愛すべきヘイステイングズ大尉。

私の一番好きなキャラクターです❤️

登場人物

ジョージ.アルフレッド.セント.ヴィンセント.マーシュ エッジウェア男爵4代目

ジェーン.ウィルキンスン エッジウェア卿妻、女優、アメリカ人

カーロッタ.アダムズ 女優、アメリカ人、アメリカに妹

ブライアン.マーティン 映画俳優

マートン公爵 若い大貴族、ジェーンが再婚したがってる

ウィドバーン夫妻 ジェーンと同じテーブルにいた人たち

ロナルド.マーシュ エッジウェア卿の甥(丸顔の男)

エリス ジェーンのメイド

キャロル エッジウェア卿の秘書

アルトン 卿の執事、美男子

ジェラルディン.マーシュ 卿の先妻の娘

ヒース 医者

アリス.ベネット カーロッタ.アダムズの世話人

ジェニファー.ドライヴァー カーロッタの親友、帽子

サー.モンタギュー.コーナー 晩餐会主催者

ドナルド,ロス 晩餐会にいた男

雑学

エキセントリック 個性的な普通でない性格、変人のプラスの言い方

猫のお髭さん すばらしい方という古風な言い方

ヴェロナール 麻薬

シンメトリー 左右対称であり、バランスがとれている状態のこと 反対の言葉アシンメトリー

モノローグ 舞台、演劇において登場人物が自らの心境を吐露すること、心のつぶやき

半畳を入れる 芝居で見物人が役者の芸に不満なとき敷いている半畳を舞台に投げ入れる、他人の言動に非難やからかいの言葉をかける

2022.2.16記

カテゴリー
アガサ・クリスティー 読書感想文

鳩のなかの猫

この作品は1959年発表、アガサクリスティ69才の時に描かれた、有名女学校を舞台にした学園もののサスペンス物語です。

女学校とエルキュール.ポアロとはちょっと結びつかないと思いましたが、読んでみるとなかなか面白い作品でした。

まず、登場人物が数人除いてみな女性だという事。教師、生徒、保護者とたくさん登場しますが、それぞれの個性や容貌が詳しく描かれていて、又個性豊かな人が多いので、会話のやりとりだけでもわくわくしてくる事。そのへんは女性の心理を描くのが得意なアガサクリスティの腕が光っています。

そして学校生活の中でのやりとりが主なので学園ドラマみたいな親近感があるので抵抗なくすらすら読み進めます。

あと、中東のお国の革命、殺人事件、誘拐事件、宝石探しと内容が盛りだくさんなので、学園サスペンス中心とはいえ、謎ときにスリルがあって最後まで飽きさせなかったです。

今回はポアロの登場がページ数で3/4程進んだところでやっと始まるのと、その出番もオブザーバーというかドラマでいう友情出演みたいな感じで、ポアロファンには物足りない感じがあったかもしれませんね。

それでもポアロの登場で、それまでの謎が一気に解けていく感があるのはさすがです。

話の中にありましたが、もつれた毛糸のかたまりから求めている一色の糸を抜き出すような作業、いいたとえです。

そして会話の中にはいくつかの伏線があります。軽く読んでいると後で重要だった事が出てきますので注意がいります。

例えば最初の方のボブが姉の部屋に入ってある事をしているシーンを隣室から覗く女の存在、校長先生と話をしているアップジョン夫人が誰かを見てびっくりしているシーンとか。私もあとで見直したくらいです。

そしてアンジェリカ、バイクアウェイ大佐、ロビンスン、アダム.グッドマンたちの存在でスパイ物のスリルも充分味わえます。

中東のラマット王国の革命話は昔話みたいな感情しました。血なまぐささがなくて、もしかして国王とボブがどこからか出てきそうで。

先に読んだ「フランクフルトへの乗客」が世紀末感ありすぎだったので余計にそう感じたのかもしれません。

女性同士の嫉妬、妬みや愛情といったものがよく描かれていて、最後は国王の

落とし種まで現れて、最後までほんわか感あふれる作品だったと思います。

メドウバンク校に明るい未来が来ることを祈っています。

謎が1つ。国際紛争を回避すべく活躍するロビンスン氏は何者?

鳩の群れの中の猫

騒ぎ、面倒を起こすという意味の英国流の言いまわし

登場人物

エレノア.ヴァンシッタート ドイツ語と歴史の先生

オノリア.バルストロード メドウバンク校の校長

チャドウィック 数学の先生 メガネ、猫背

アン.シャプランド 校長の秘書、35才、彼氏デニス

エルスペス.ジョンソン 寮母

アンジュール.ブランシュ フランス語の先生、新任

アイリーン.リッチ 英語と地理の先生

ローワン 経済、心理学、やせ浅黒

ブレイク 物理、植物学、ぽっちゃり、色白

グレイス.スプリンガー 体育の先生、新任(前任ジョーンズ先生)

シャイスタ 王女(イブラヒム大公の姪)

ジュリア.アップジョン 生徒

レディ.ヴェロニカ.カールトン.サンドウェイズ 酒飲み

アリ.ユースフ ラマット国国王

ボブ.ローリンスン 国王のお抱えパイロット

ジェニファー.サットクリフ ボブの姉、

ジョン.エドマンドスン 外務省、ボブの友人

ロニイ(アダム.グッドマン) 園丁

バイクアウェイ 公安課大佐

ロビンスン 謎の男

アンジェリカ.デ.トレド ジュアン.サットクリフ隣室の女

ケルシー 警部

ヘンリー,ハンクス 理事長

ブリッグズ 年長の園丁

ギボンズ コック

2022.2.8記

カテゴリー
アガサ・クリスティー 読書感想文

ホロー荘の殺人

1946年発表のこの作品、ポアロが登場する他の推理小説とは違って、主要な登場人物のキャラクターや心の動き、感情といったものがとてもきめ細かに描かれています。

まず冒頭に登場するルーシーですが、やかんはかけっぱなし、人の寝室に早朝から勝手に入ってくる、話は次々目まぐるしく変わっていくといった、人の気持ちやあとの事を全く考えていない等々、中頃では殺人事件を面白がっているようなセリフを平気で言ってたりして、この人は究極のお嬢様か、はたまたサイコパスかと思いました。(お嬢様は確かにそうですが)

次にヘンリエッタ。

真理を追求する芸術家であって、ポアロですら一目置く冷静さと判断力に富む女性。美貌の持ち主で男性にはモテまくり。「私はジョンの愛人だったわ」なんて自分から白状する正直な人。

そしてガーダですが、容姿は冴えず平凡で知性はなく、全てジョンの言いなりになっているダメ妻と周囲の者からはバカにされながらも、ジョンには深い愛情を持っています。

そして内心では自分はそんなにバカじゃないのよ、と思っていて意外に賢い女性。人を自分に都合よく使える人でもあります。

この話は全体的にオブラートに包まれているような、殺人事件は発生はしますが、血なまぐさくなく、舞台の一場面のような現実離れしたイメージがあります。

それというのも殺人のトリックとか証拠品といったものよりも人の心の情景を描くのに重点がおかれているのかと思います。

そういう意味ではこの物語にあえてポアロが出る必要なかったんじゃないかと私は思いますし、ポアロ自身も傍観者としての立ち位置に徹しています。

ついでにヴェロニカもいつの間にか話から消えてるので、ジョン殺害のきっかけを作っただけで、本筋から見たらいらない人かも。

この話で一番幸せになったのはミッジですね。エドワードがミッジを彼女が働く店から連れ出すシーンが一番印象に残りました。二人の考え方の相違が貴族と労働者階級との違いとなって表れています。

この話の主役としてヘンリエッタの心の描写が多く描かれています。が同時にガーダに対する作者の純粋な愛に添い遂げさせたいという深い優しい愛情が感じられます。

陽のヘンリエッタが明るく輝けば輝くほど、陰としてのガーダの存在がはっきり浮かび上がってくるような二人の関係。

この話は「春にして君を離れ」を思わせる心理描写が長く、読むあいだ中、うっ屈とした気持ちが常にあって、その気持ちから逃れたくてほぼ一気読みした一冊です。

今回は少し影が薄かったポアロですが、名セリフがいくつかあります。

さすがポアロ

ポアロ名セリフ

「ほんとの手がかりは関係者の人間関係の中にあるものですよ」

ポアロがヘンリエッタに言った言葉

「人間の真の悲劇は求めるものを手に入れることである」

これはまさしくジョンに当てはまります

総論

灰色の脳細胞より嗅覚

(さなぎ感想)

登場人物

ヘンリー.アンカテル卿 行政官

ルーシー ジョフリーおじさまの一人娘

ミッジ.ハードカースル

ヘンリエッタ.サヴァナク 彫刻家

ジョン.クリストウ 医者

その秘書 ベリル.コリンズ

ガーダ ジョンの妻

二人の息子 テレンス12才

   娘 ジーナ9才

メイド ベリル、コリンズ

ディヴィッド.アンカテル

エドワード.アンカテル(エインズウィック相続人)ルーシーのいとこ

ガション 執事

シモンズ メイド

ヴェロニカ.クレイ 映画女優

エルシー.バターソン ガーダの姉

イグドラシル 樫の木

四阿 あずまや

2022.1.25記

カテゴリー
アガサ・クリスティー 読書感想文

チムニーズ館の秘密

登場人物も次のとおりびっしりで、アンソニーの冒険物語、バトル警視の殺人捜査、宝石泥棒を探せ、ヘルツォスロヴァキアの王政復古、革命の歴史、等をごっちゃにまぜたようなこの作品は1925年発表のバトル警視が初登場する一大スペクタクル超大型作品に仕上がっています。

何せ話題が豊富すぎて、人物名、出来事をメモっておかないと何が何だかわからなくなってしまいそうで、読み進めるのも大変でした。その分読後感はまとめて2冊分読んだくらいの達成感がありました。

主要人物のキャラクターがジェームズ.ボンド顔負けの個性派ぞろいです。バトル警視は頼もしくて冷静沈着、愛嬌たっぷりの行動派アンソニー、楽天家でユーモアたっぷりの才色兼備ヴァージニア。

この3人で別の物語がいくつも造れそうです。それとケイタラム卿の生まれながらの貴族的、優雅な快楽主義者。何事もよきにはからえ、のユーモラスなキャラも憎めないです。

逆に大泥棒キング.ヴィクター。最後捕まりましたが、あまり印象に残らなかったですね(他のキャラが個性的すぎて)

アンソニーがニコラス王子というのもびっくりでしたね。ファンタジーとしても楽しめました、この作品。

夜中の検討会のシーンが印象に残りました。この時の会話で話の内容がつかめましたし。

ところどころのバトル警視のセリフがこの作品の見どころをつかんでいて味わい深いです。

「アマとプロが協力しあい、互いの持ち味を生かした仕事をする。一方は知識、一方には経験がある」

「上流階級の人間は恐れることを知らず、ウソをつかず、時々まったくばかげたことをする」

アンソニーの生まれ持った高貴な血は争えないのです。皆が彼に対して好感を持つし、ポリスは自分の主人として仕えるし。

この話の続編「七つの時計」には、バンドルやビル、ケイタラム卿が活躍するそうで、そっちも楽しみです。バトルとポアロが登場する「開いたトランプ」も気になります。

てんこ盛りの登場人物

アンソニー.ケイド キャッスル旅行者案内役、ニコラス王子(ミカエル王子のいとこ)

ジェイムズ,マグラス ケイドの友人

ヘルツォスロヴァキア(オボロヴィッチ王家)

前国王 ニコラス四世 7年前暗殺

女王 パリの芸人、ポポフスキ女伯、ヴァラガ女王、アンジュール.モリ

ミカエル.オボロヴィッチ王子(スタニスラウス伯)

従者 ポリス.アンチューコフ

侍従武官 アンドラーシ大尉

スティルプティッチ伯 ヘルツォスロヴァキアの元首相、パリで死亡

ケイタラム卿 チムニーズ館所有者、9代目クレメント.エドワード.アリステア.ブレッド

8代目 兄ヘンリー、細君アルミア

娘 バンドル(アイリーン)

執事 トレドウェル

ジョージ.ロマックス(コターズ) イギリス外務省高官(ワイヴァーニー.アビー)

秘書 ビル.エヴァズレー

ヴァージニア.レヴィル ロマックスのいとこ(元夫ティム)

その妹 ダルシー、ティジー(ガーグル、ウィンクル)

ハーマン.アイザックスタイン 全英シンジケートの代表

ロロプレッティジル男爵 ヘルツォスロヴァキア王政擁護者(ロロポップ)

ジュゼッペ.マネリ ロンドンのホテルのウェィター

ハイラム.P.フィッシュ チムニーズ館の客、アメリカ人(実はアメリカの探偵)

バトル警視 ロンドン警視庁刑事

メルローズ大佐 州本部長

バジャリ警部、ジョンソン巡査、州の警察

ルモワール パリ警視庁刑事

ブラン ケイタラムの仏家庭教師、ジュヌヴィエーヴ、ブルテイユ伯夫人の紹介

ウインウッド教授 暗号のプロ

キング.ヴィクター フランスの宝石泥棒(キャプテンオニール)

レッドハンド党 王政反対派

ジョリー.クリケッターズ アンソニーの泊まった宿屋

ボールダーソンアンドホジキンズ社 回顧録を渡す新聞社

グラナーズキャッスル号 アンソニーがイギリスへ渡った船

ブラワーヨ アフリカジンバブエの市

ヘルツォスロヴァキア バルカン諸国の一つ 首都エカレスト

コーイヌール 世界最大のダイヤモンド

2022.1.21記

カテゴリー
アガサ・クリスティー 読書感想文

ゴルフ場殺人事件

この作品は、1923年に発表されたポアロが登場する長編2作目で、彼の相棒アーサー.ヘイスティングズ大尉のロマンスが描かれてます。プロローグからいきなりヘイスティングズと運命の女性シンデレラとの出会いがほほえましく描かれていて、いったんはイギリスへ戻りますが、フランスが舞台となるこの作品、フランス的なロマンチック感と悩ましい香水が匂いたつ、ミステリアスな雰囲気に包まれています。

ただ、初期の作品なため、後期の作品に比べると人物像が大ざっぱだったり、会話がぎくしゃくしてたりとか思わないでもないですけど。

例えば、落とし物の鉛管一つでも、ジロー警部が「こんなもの」と言ったものが、ポアロが「非常に大切な物」と言ってたけど、後で思ってもそんな重要な物だったの?と、いまいわからなかったり。

ストーナー秘書がもしやルノーの夫人と愛人関係か?と疑ったりしても、この秘書のキャラクターの描写がほとんど書かれてなかったり、第2の殺人被害者の男にしても、そんなにうまく急死するの?都合良すぎだわ、とか疑問に残ったのはいくつかあります。

ただポアロに敵対する(?)ジロー警部のキャラクターは単調になりがちな捜査にいいスパイスになっていましたね。

ガチガチのおれ様的な自意識過剰男で、ポアロも自意識高いですが、しょせんポアロの頭脳にはかなわなかったのが愉快。TVドラマでは最後は握手交わして友好的になっていました。

あと、女性のキャラクターは際立っていますね。

マダム.ドーブルーユはフランス悪女の典型的キャラで、その娘マルトに至ってはヘイスティングズに一目惚れさせるほどの美の持ち主。

この後シンデレラと再会しなかったら話が変わったかもしれません。

心の声

話にもありましたが、美しい女性に対する審判の目は甘いというのは現代人からするといかがなものでしょう。

女性の方がいざとなったら(恋人の為、子供の為)強いと私はおもいますが。

本題戻る

今回のヘイスティングズはポアロの邪魔はするわ、捜査の秘密をもらすわ、いいとこなしでしたが、最後には生涯の伴侶を手にして、めでたしめでたし。

邪魔だてされても笑って許せる愛すべきポアロの相棒ヘイスティングズ大尉のキャラクターが味わえた一作でした。あまりゴルフ場は関係なかったですね。

TVドラマではポアロたちの泊まるホテル名がゴルフホテルで、ゴルフ三昧のヘイスティングズがバンカーで死体を見つける設定になっているのでこっちの方がゴルフ場殺人ぼいかも。

TVドラマのエンドシーンでは先に別れたポアロが、シンデレラ(ドラマでは別の名前)を連れてきて、傷心のヘイスティングズと海岸で再会するのが何ともほほえましい。パパポアロのヘイスティングズに対する愛情あふれるプレゼントでした。

登場人物

ポール.ルノー ジュヌヴィエール荘主人

エロイーズ 妻

ジャック 息子

ゲイブリエル,ストーナー ポールの秘書

マスターズ 運転手

フランソワーズ 家政婦

オーギュスト 庭師

レオニー、ドニーズ.ウラール 姉妹のメイド

マダム.ドーブルーユ マルグリット荘主人(ジャンヌ.ベロルディ)

マルト 娘

シンデレラ ダルシー.デュヴィーン ベラの妹

デュラン 医師

マルショー 巡査

べー 署長

オート 予審判事

ジロー パリ警視庁の刑事

ジョルジュ.コンノー 弁護士

名セリフ

偉大な犯罪者は時として偉大な名優でもある

2022.1.13記

カテゴリー
アガサ・クリスティー 読書感想文

死との約束

「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」というセリフで始まるこの作品、1938年に発表された中近東シリーズの第3作で、エルサレムを旅行中のポアロがヨルダンの古都ペトラで起きた殺人事件を追います。

今回は登場人物が比較的少ないのですらすら読めるかと思いましたが、医学用語や心理学を扱う医師同士の会話のやりとりが多いので理解するのがやや難解だったのと、犯行時の人々の動きがこと細かいため、しっかり時系列をメモしないと途中で訳がわからなくなるので、ぼんやり読み進められなかったです。

ですが、その分読みごたえは充分。

冒頭で先ほどの意味深なセリフを聞いたポアロはいったん退場しますが、第1部の事件が起きるまでのボイントン一家の子供たちのやりとりですっかり感情移入してしまいました。

昨年の日本版ドラマでは夫人役の女優、松坂慶子さんの暴君ぶりが見ものでした。

サラ.キングとジェラール博士の心理学に関するやりとりも難解でしたが、なるほどと納得できましたし、エルサレムの観光名所の描写がかなり延々と続きますが、これも興味深いものでした。砂漠の風景とかはTVドラマの方で映像でも楽しめました(話の内容は原作とかなり変わっていますが)

第2部でポアロは再び登場し、一人一人に話を聞いていくといういつもの展開です。が、皆夫人に対しては恨みを持っており、ポアロの推論ではどの人物にも犯人になり得るという。

もしかしてオリエント急行の殺人と同じパターンかな?とも思えました。

日本のテレビドラマを先に観てたので犯人は誰か知ってはいましたが、これはちょっとしたセリフや人物の行動をよく吟味しないとなかなか当てるのは難しいです。

「私は決して忘れませんよ、私は何一つ忘れていませんよ」恐ろしいセリフですが、この話の鍵は全てこのセリフに尽きると思います。

ポアロのセリフの「人間は真実を話すものです」だからこそポアロは人との対話を大事にするのですね。

この事件のあと、5年経って一族とポアロは再開しますが、一族は皆幸せになっていて読後感が清々しいです。

今はコロナ渦で行くこともかなわないですが、ナイル、メソポタミア、今またエルサレムと日本人にとって遠い、怖いイメージのある中近東の旅へ、いつか私も行くことができたら、と思いをはせるこの頃です。

登場人物

ボイントン夫人

レノックス 長男

ネイディーン その妻

レイモンド 次男

キャロル 長女

ジネヴラ 次女

ジェファーソン.コープ ネイディーンの友人

サラ.キング 女医

テオドール.ジェラール 医学博士

ウェストホルム卿夫人 婦人代議士

ミス.アマベル.ピアス 保育士

マ.モード 通訳

カーバリ大佐 アンマンの警察書著

犯行時の時系列

3:05 ボイントン一族、ジェファーソン 散歩に出る

3:15 サラ ジェラール博士散歩に出る

4:15 ウェストホルム夫人 ミス.ピアス 散歩に出る、夫人に声かける

4:20 ジェラール博士キャンプに帰る

4:35 レノックスキャンプに帰る、母の時計合わせる

4:40 ネイディーンキャンプに帰る、ボイントン夫人と話す

4:50 ネイディーン 夫人と別れて大天幕に行く

5:10 キャロル キャンプに帰る

5:40 ウェストホルム夫人、ミス.ピアス、コープ氏 キャンプに帰る

5:50 レイモンド キャンプに帰る

6:00 サラ.キング キャンプに帰る

6:30 死体発見 召し使いが見つける

2022.1.10記

カテゴリー
アガサ・クリスティー 読書感想文

蒼ざめた馬

この作品は1961年発表のノンシリーズもので、アリアドニ.オリヴァ夫人が主人公の友人役で登場します。降霊会の細部にわたる詳しい描写や、呪いで人が死ぬ言い伝えの話等オカルト色の濃い作品となっていて、おどろおぞましいイメージがありますが、意外と軽妙なタッチで主人公の男性の一人称で淡々と述べられるアットホームな内容となっています。

これは多分主人公の性格によるものでしょう。

彼は友人が多く社交的で学者さんながら優雅というか暇というか独身生活を満喫している男性です。

ある殺人事件にひょんなことで関わるはめになって、事件を解明しようと(部外者なのに)乗り出します(おいおい仕事しろよ!)

その他の登場人物たちも個性的で楽しい人たちなので余計に話に彩りを与えています。

オリヴァ夫人はその場その場でいい塩加減を与えてくれるスパイス役。

パピーは一見お馬鹿キャラながらピンポイントで重要な意見を出していて、イケメン(きっと)ルジューン警部はさすがに鋭く、早い段階で犯人の目星をつけていましたね。

マークと一緒に行動するジンジャーは頭の回転が早く、おしどり探偵のタペンスを思い出させる行動派。病気にかかったときは姓名もコリガンなので死ぬんじゃないかと心配しました。

話がどんどんふくれ上がったわりに結末があっけなかったような気がするのが残念です。あの3人の魔女たちは最後どうなったのか、ヴェナブルズは本当にシロだったのか、国税局がマークする位だから何か悪いこと1つぐらいはあるんじゃないかとか思うところはありますが、まあ最後はハッピーエンドだったのでよしとしましょう。

蒼ざめた馬(Pale Horse)とは、死神がやっている時に乗っている馬の事で、マークのいとこローダの夫デスパード大佐は「ひらいたトランプ」に登場されるそうで後日再会できるのを楽しみにしています。「親指のうずき」の話をうわさ話で話す人が出てたり、「死者のあやまち」の話をオリヴァ夫人が語っているらしく、こういった話が随所に出てくるのは、ファンにとって嬉しいですね。

登場人物

マーク.イースターブルック 学者

アリアドニ.オリヴァ 推理作家

ゴーマン神父 司祭

ディヴィス夫人 ゴーマン神父が看取った女

ローダ.デスパード マークのいとこ

ヒュー.デスパード大佐 ローダのいとこ

ジム.コリガン 警察医

ルジューン 警部

ハーシャ.レッドクリフ マークの女友達

ディヴィッド.アーディングリー

 マークの友人

ポピー(パメラ.スターリング)

 ディヴィッドの女友達

ザカライア.オズボーン氏

 薬局の主人

ジンジャー(キャサリン.コリガン)

 マークの女友達

ケイレブ.デイン.キャルスロップ

 マッチ.ディーピング村の牧師

サーザ.グレイ 蒼ざめた村住人

シビル.スタンフォーディス 霊媒

ベラ.ウェップ 料理人

ヴェナブルズ プライアーズ.コートの持ち主

ブラッドリー 元弁護士

司祭と牧師の違い

牧師 プロテスタント、職名、教職者

神父 カトリック、正教会、呼び名、聖職者

子供からみると神父は学校の先生、牧師は塾の先生かな?

タリウム中毒

殺鼠剤として使われる 無味無臭の為殺人薬として使われる

淋病、梅毒、結核の治療薬

毛髪のケラチン生成が阻害され脱毛を起こす 白癬の治療薬

2022.1.6記

カテゴリー
アガサ・クリスティー 読書感想文

ヒッコリー.ロードの殺人

この作品の読みどころは大きく分けて3点あると思います。

まず登場人物がめちゃくちゃ多いです。

話の舞台が学生寮なので人物が多いのはいた仕方ないですが、後述の人物相関図を登場人物が出るごとにメモしておかないと後で確実に混乱します。アガサクリスティの話は概して登場人物が多いので有名ですが、この作品は九割が寮生なので、医者や弁護士、警察、司教、夫婦等の肩書きがありません。

それと、この事件の発端は寮内の盗難事件と物をズタズタにされた件なので、それもメモしとかないとこれも混乱します。

あと、どこの国の出身か、容姿、性格も話を理解するのに必要かも。

最初はミス.レモンのミスから始まります。完璧な仕事をするレモンがミスをするのでポアロがそれに疑問を感じ、その原因を探ろうとするストーリーが、他の作品にはないのがもう1つの読みどころです。ミス.レモンの姉が登場するのも意外な点です。

もう1つの読みどころとしては、学生寮内での犯罪なのでたいした事件じゃないだろうと軽く考えられそうですが、どうしてなかなか根の深い事件だという点です。

それからずばり言ってサイコパスの犯人が登場します。

ミス.レモンの姉、ハバード夫人は最初は学生の軽いいたずらだと思っていたようですが「これは警察を呼ぶべきです」と公言したことから話が進んでいきます。

学生たちの会話と警部、ポアロのやりとりが軽妙でテンポも早く話が進みます。

ただ実体は麻薬、宝石の密輸にからんだ根の深い犯罪で死者も3人も出てるので、このギャップにどうしても私は違和感を覚えてしまいます。

又サイコパスの息子を野放しにしていた父親も無責任ですね。

こんな状況下でも最後は1つのカップルが誕生するのはクリスティならではですね。

自分たちが遭遇した事件にくじけず明るい未来を切り開いてほしいものです。

この作品は1955年に発表され、ポアロがマザーグースの童謡を口ずさむシーンがあります。

時計が1つなり ねずみが駆けおりる

ヒッコリー ディッコリードック

軽快なリズムながらダークなサスペンスをどうぞ味わい下さいませ。あと、この作品にはマギンテイ夫人は死んだ」「ネメアのライオン」(ヘラクレスの冒険に収録)「葬儀を終えて」にからんでいるものがあるらしいのでそれも楽しみにしようと思います。

(大変な)登場人物たち

ミス.レモン(クリスチャンネーム フェリシティ) ポアロの秘書

ハバード夫人 レモンの姉、寮母

ニコレティス夫人 寮の経営者

寮生

パトリシア.レイン 考古学、眼鏡、指輪盗られる、良家の娘 30才位

ナイジェル.チャップマン 歴史学、やせ形、緑のインキ、ぼうぼうの髪

ヴァレイ.ホップハウス 服飾のバイヤー、美容院、スープの中に指輪、スカーフズタズタ ニコレティス夫人の娘

レナード.ベイトマン 医学部、大男、赤毛、父精神病、聴診器

サリ.フィンチ アメリカ人留学生、赤毛、夜会靴片方

アキボンボ 西アフリカ人留学生、呪術に興味

エリザベス.ジョンストン ジャマイカ留学生、法律、共産党、優秀、ノートに緑のインキ

ジュヌヴィエーヴ.マリュード フランス人、コンパクト他アクセサリー

ルネ.イレ

ジーン.トムリンソン 物理療法研究生

コリン.マックナブ 心理学、フランネルのズボン

シーリア.オースティン 薬剤師、ずんぐり、金髪、頭弱い、怯えている

ビグズ夫人 上の階の掃除婦

ジェロニモ コックの夫

マリア コック

チャンドラ.ラル、アハメッド.アリ トルコ留学生、ポルノ、エロ本好き

シャープ警部 

コッブ その部下

エンディコット弁護士 アバーネシー事件でポアロに借りがあるらしい

2021.12.17記

カテゴリー
アガサ・クリスティー 読書感想文

マン島の黄金

①夢の家

②名演技

③崖っぷち

④クリスマスの冒険

⑤孤独な神さま

⑥マン島の黄金

⑦壁の中

⑧バグダッドの大櫃の謎

⑨光が消えぬ限り

⑩クイン氏のティーセット

⑪白木蓮の花

⑫愛犬の死

これは1997年に刊行されたアガサクリスティの短編集で、生前には収録されなかった初期の頃の新聞や懸賞小説全12編が収録されています。

①夢の中に出てくる家へのあこがれと恐怖を描いた幻想的な話

②有名女優の過去を知って脅しをかける男に対し、女優が機転をきかせて逆に男を退散させた、文字どおりの名演技が光るお話

③幼なじみの男性の妻の秘密を偶然知ってしまった女が、彼に言うかどうかで悩み、最後は自分も精神に異常をきたしてしまう

話に登場する牧師のセリフが鋭いナイフのように心を刺す

「誘惑を感じることなしに暮らしてきた人にもそれなりの瞬間は訪れます」

④ポアロの中編クリスマスプディングの冒険の原型で細かい描写は省略されているものの、子供たちに親しまれているポアロが新鮮

⑤小さな神様のご加護によって恋めばえる二人の姿が微笑ましい、クリスティの小説には珍しいハッピーエンドのラブストーリー

⑥マン島への観光誘致の目的で宝探しをする素人探偵の話

宝探しの解決法は私には読んでもよくわからなかったです(笑)

でもこういう小説があったとは意外でしたし、二人の探偵がトミーとタペンスを思わせてほほえましい

⑦天才画家といわれるアランには美しい妻がいるが、彼には気になる女性ジェインがいる。ジェインといると彼は無性にイライラし腹立たしくなる。その姿を見てジェインに激しい憎しみを覚える妻イザベル。男女の三角関係の心の中の葛藤を描く心理ミステリー

ホロー荘の殺人の原型

⑧省略

⑨西アフリカの蒸し暑いたばこ農園で死んだと思ってた先の夫に再会する幼妻の心の葛藤を描く

「春にして君を離れ」を思い出される舞台。でも彼女は今の夫ともう別れる気にはなれない。その彼女のセリフが切ない「光が消えぬ限り、私は忘れない。暗闇の中でも忘れない」

⑩クインとサタースウェィトが「恋人の小径」を歩いて別れた時から時を経て再会する。

クインの最後のお話、ありがとうとクインに呼びかけるサタースウェィト。感動のラストが切なさにじみ出る。

⑪逃避行の寸前で破産した夫のもとへ妻は戻るが夫は自分の保身の為その妻を道具に使う。夫の本心を知った妻は寂しく夫の元を去る。その跡にひらひらと舞い落ちた白木蓮の花びら。ファムファタール

⑫愛犬家には涙を誘う物語。でも読後感は悲しいが悲壮感がなく、むしろ晴れ晴れ。主人公ジョイスは新しい人生を歩んでいく希望に満ちたお話

物語のジャンルが多様で、初期の頃の作品ながら充分楽しめました。推理小説というよりはロマンスもの、サスペンス色が濃い感じで、これは当時のイギリスの女流作家パトリシア.ハイスミス、ダフネ.デュ.モーリアの作風を思わせます。

私のイチオシは③⑨⑩で女性の心理描写が鋭く描かれていて、ほとんど一気読みしてしまいました。

2021.12.22記

カテゴリー
アガサ・クリスティー 読書感想文

ポアロのクリスマス

この作品は1938年に発表されたエルキユール.ポアロの長編小説で唯一の密室殺人がトリックに使用されています。

題名のとおりクリスマス期間に起こった殺人事件がテーマになっているので「これは是非ともクリスマスに読もう!」と心に決めていました。話の経過が12月23日~28日の期間なので、この日付のとおりに読み進めようと思い23日から読み始めましたが24日位からがぜん話が面白くなって、結局最後は3日位で一気に読み終えてしまいましたが(笑)

クリスティの小説の殺害方法は毒殺や自殺に見せかけたピストルでの殺害が多いですが、今回はおびただしいほどのなぶり殺し。阿鼻叫喚の叫び声やら、クリスマスを彩るのにふさわしい、血なまぐさい殺害方法がなされています。

物語の出だしは列車での旅行途中のシーンで始まります。そして大きな屋敷へ皆が集まるという、お決まりのシーンです。列車で出会った男女に早くも恋の予感が感じられます。

向かった屋敷はゴーストン館。名前もクリスマス感満載。

大富豪のリー氏がクリスマスを家族で祝うべく、子供たちを呼び寄せたのですが、このじいさん、子供たちに逆にいじわるを言ってクリスマスを待たずに殺害されてしまいます。

そして当然の成り行きとして遺産争いが起こりますがこの兄弟げんかなかなか壮絶で、他人事ながら面白い。リー氏の殺害後のひと幕に使われているセリフがマクベスの

「神の挽き臼はまわるのがのろいが、どんな粒も引き逃さない(デヴィッド)」「あの年寄りがあんなにたくさんの血を持っていたと誰が考えただろう(リディア)」

このセリフが印象的です。

マクベスの劇を観た事がないので、一度観てみたいですがクリスティの作品にはたびたび演劇のセリフが出きますね(シェークスピアを生んだ国だからでしょうか。

兄弟のしっかりしていそうな二人の妻たちもポアロに言わせれば犯罪を起こす可能性はあり得るらしく、誰もが犯人でもおかしくない状況で、解決のヒントとなったのが老執事のれ言だったのが小憎らしいですし、又意外でした。

ピラールの拾った落とし物もどういう意味があるのか全くわからなかったですが、後で意味がわかってこれにもビックリでした。

ポアロはもしかした男前の警視に焼きもちやいてたんでしょうか。それもヒントになったのかな、と後で思いました。

最後は兄弟たちもそれなりに仲直りし、若い二人は新天地に向かいます。どんなに血なまぐさい事件でも、後はさわやかな気分にさせてくれるクリスティからのクリスマスプレゼントにふさわしい色どりも鮮やかな1作品です。

登場人物

場所 ゴーストン屋敷

大富豪 シメオン.リー

亡き妻アレディド

長男 アルフレッド

その妻 リディア

次男 ジョージ 国会議員41才

その妻 マグダリーン20年下

三男 デヴィッド 画家

その妻 ヒルダ

他の兄弟 ハリー

娘 ジェニファー

その夫スペイン人との子

ピラール.エストラバドス

シメオンの従僕 シドニー.オーベリー

執事 エドワード.トレッシリアン

給仕 ウォルター

シメオンの旧友エピニザー.ファー

その息子 スティーヴン.ファー

警視 ザクデン

警察部長 ジョースン大佐

2021.12.31記