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アガサ・クリスティー 読書感想文

暗い抱擁

1948年刊行のこの作品は、メアリ.ウェストマコット名義で書かれた作品の1つです。クリスティ作品も戯曲集除いて残るはノンシリーズの数冊のみとなって手に入れた一冊ですが、題名「暗い抱擁」からはどうみても昼ドラの不倫ものチックなイメージがあって、あまり気のりしないまま、又裏表紙の解説をみても、やれ駆け落ちだの、キリスト教的博愛主義だの、どうもミステリーでも(当然ですが)探偵小説でもなさそうで(やや)仕方なく読み始めました。

ところがどっこい。

交通事故で不自由な身体となったヒューが兄のところに身をよせ、そこで運命的な2人の人物と出会います。1人はセント.ルーの城の娘のイザベラで、彼女と一緒の時を過ごすうちにヒューは生きる希望を見出します。

このあたりの2人の関係はとても尾だやかでほのぼのとしたものでした。

ですが、ゲイブリエルがイザベラと相対して全てが変わりました。醜くて利己主義、日和見主義のゲイブリエルの告白を読んでるとこの男の考えこそ、私自身、若い時から意識して生きていかないといけなかったのだと知りました。

自分の勇気(力)こそが本当に頼りになるものだと。ゲイブリエルが少年の頃、彼をひどく傷つけた言葉「貴族はなりたくても決してなれないもの」どんな苦痛にも耐えられると言うイザベラにタバコの火を押し付けるシーンがありましたが、これこそ彼の劣等感がイザベラに向かってふき出された態度だったと思います。

従兄のルパートとの幸せな結婚を捨て、ゲイブリエルと駆け落ちしたイザベラには、ゲイブリエルの真の姿が見えていたのだと思います。

この作品は面白かったとか読みごたえがあったとか以上に身分、階級問題、人間の本性、嫉妬、劣等感という重いテーマが盛りだくさんで、私には自分の人生を今一度考えさせられる一冊でした。

読者の感想をネットで見ても、題名の違和感があったという意見、あとがきは読まない方がいいという意見があり、私もそう思います。題名は原文「The rose and the Yew tree」

のままで良かったのではと思います。あと、この作品をより理解する上でシェイクスピア、特に「オセロ」の知識があったらゲイブリエルとヒューの対話の意味ももっと理解できたのにと痛感しました。

イザベラの心の内を全く描かず、読者に想像させるアガサクリスティ、やはりすごい人です。

登場人物

ヒュー.ノリーズ 元教師

パーフィット ヒューの従僕

キャサリン.ユーグピアン アルメリア人

ジョン,メリウエザ.ゲイブリエル 保守党国会議員候補=ファーザー.クレメント

イザベラ,チャータリス アデリドの孫 

テレサ ヒューの義姉、おばエイミー,トレジュリス

ジェニファー ヒューの恋人

ロバート ヒューの兄(ポルノース.ハウス)

アデリド.セント.ルー 第7代男爵の未亡人

アグネス.トレシリアン アデリドの妹

(モード)ヒガム.チャータリス アデリドの義妹、スパニエル犬、ルシンダ

ルパート 第9代セント.ルー

カーズレーク大尉 保守党の運動員

ウィルブレアム 労働党員、補欠で勝った

ジェームズ.バート 獣医

ミリー ジェームズの妻

アン.モードント カーズレークの姪、イザベラの学友

ザグラーゼ 地名、イザベラとゲイブリエルが住んでたところ

日和見主義 自分に都合のよい方へつこうと形勢をうかがう態度をとる事、オポチュニズム

2022.5.8記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

シタフォードの秘密

1931年に発表されたアガサクリスティのノンシリーズ。大雪に閉ざされた辺鄙な村の山荘で開かれた降霊会で霊が殺人予告をするというオカルト味たっぷりのこの作品、オカルト好きな私はとてもわくわくしながら読みました。閉鎖的な田舎だけあってシタフォード荘のコテージの住民たちは一癖ありそうな人たちばかり。

その中に婚約者の嫌疑を晴らすべく乗り込んだエミリーはアガサクリスティ初期の作品ではよく登場するバイタリティあふれるおきゃんな娘で、自分の恋の為には同情も男も利用します。彼女の登場でシタフォードのよどんだ空気すらも吹き飛ばした感じです。それまでのオカルト味たっぷりの神秘性が薄れたところは好みが分かれるところだと思います。

時間のトリックがわかってしまうとなんてことのない事件ですが、大佐と少佐の関係が男同士の友情かと思いきや、積年の恨み、妬みが懸賞金が当たったことで一気に爆発し犯行に至った事の伏線が後から思えば思い返されました。ウィリット母子がなぜシタフォード荘に来たかという訳もちょっと意外でした。まさか脱獄と関係あるとは思わず、納得できました。

チャールズとジムのどちらをエミリーが選ぶのか期待していましたが、ジムを選んだのはちょっと意外でした。私はチャールズを選ぶと思っていたのですが、エミリーがチャールズに「あなたには仕事がある。だけどジムは私がいないとやっていけない」と言うセリフはどうもいただけないですが。チャールズは新聞記者ながら憎めない好人物で私は好きですが。

昔も今もできる女性は自分が守らないといけない弱い男に惚れるものなんですね。

登場人物

トリヴェリアン大佐 シタフォード荘の持主(現ヘイゼルムア住まい)

ジョン.バーナビー少佐 大佐の友人

ウィリット夫人 シタフォード荘の住人

(ロニー)ロナルド.ガーフィールド ミス.パーシハウスの甥、ガードナー夫人名付け親

デューク 隣人、元ヤードの主任警部、大柄、造園

ライクロフト 隣人、ジジイ、博物学、犯罪学

ヴァリオレット ウィリット夫人の娘

ミス.パーシハウス 隣人、猫好き

エルマー 村唯一の車の持主

グレイブズ エクスハンプトンの巡査

ウォーレン 医師 

ナラコット 警部

ポロック 部長刑事

エヴァンズ 大佐の下男 妻レベッカ

ジェニファー.ガードナー 大佐の妹、ローレル館、メイド ビアトリス

ロバート ジェニファーの夫

メリー.ピアソン(故人) 大佐の妹、子供3人

 ジェイムズ.ピアソン(ジム) 保険、エミリーと婚約中

 シルヴィア 夫作家マーチン.ディアリング

 ブライアン オーストラリア在住

ベリング夫人 スリークラウン館営業主(ヘイゼルムア)

ウォルターズ&カークウッド 大佐の弁護士

ウィリアムスン 不動産屋(シタフォードをウィリット夫人に貸した)

チャールズ.エンダビー 新聞記者

マックスウェル 警視

エミリー,トレファシス ジェイムズの婚約者

カーティフ夫妻 隣人、エミリーがサラ大伯母のベリンダに似てるという 

ワイアット大尉 隣人、病人、インド人の使用人持ち

ダグレス ジェイムズ.ピアソンの弁護士

2022.5.13記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

忘られぬ死

この作品は、1945年に発表された短編「黄色いアイリス」を基に長編化されたもので、ポアロは登場せずレイス大佐が登場します。レイス大佐は「茶色の服の男」「ひらいたトランプ」「ナイルに死す」に次いで4番目で今回が最後の登場です。

この作品では登場人物が少ないですが、各人の心のうちが赤裸々につづられているので共感するところが多く、ドハマリする人が多々出現するかと思います。(私もそうでした)

まず夫のジョージですが、美しいローズマリーを妻にしたことでいずれは何か起きるだろうが、それは受け入れる覚悟はしてたものの、妻の態度から今回は本気らしいと勘づいてレパードという男に書いた手紙を見て、耳の中で血が音を立てました。愛人と思われるファラデーの近くに家を買い彼に近づきます。匿名の手紙が届き、妻は誰かに殺されたことを確信します。

ジョージの有能な秘書のルースはルシーラの息子ヴィクターに会って彼に一目で心を奪われます。彼によって自分の本心に気づきます。

私はローズマリーが憎い❗

彼女さえいなければ私がジョージの妻になれたかもしれない、と。このルースの心の叫びともいうべきシーンから物語が一気に面白くなってきました。

貧しい生まれながら、子供時代から野心に燃えるスティーブンはアレクサンドラという名門の子女を手に入れ、大政治家への階段を昇る途中でローズマリーと出会い、狂気の愛に目覚めます。だがそれもローズマリーからしつこく追われるようになると逆に彼女の存在がうっとうしくなります。妻のサンドラに知られたら自分は破滅すると。

ですがサンドラはとっくに知っていました。嫉妬はしましたがそれ以上にスティーブンを愛していたのです。

ジョージは知人のレイス大佐に妻を殺した犯人を見つけたいのでアイリスの為のディナーに出席してほしいと頼みますが、大佐には断られ、逆に危険だからやめろといわれます。もう一人姉妹にまとわりついていた男アンソニー(本名トニー.モレリ)は実はレイス大佐と同じ世界に属していた(情報部)人間で、ケンプ警部、アンソニー、レイス大佐がテーブルを囲んで各自の犯人説を話し合う過程が見ものでした。ケープは性格上からサンドラを、アンソニーは秘書のルースを、レイス大佐はなんとアイリスを各人の立場から予想します。各人の推理が的を得ていてそれぞれ納得。

犯人当てたのはアンソニーでしたが、危うく殺されそうだったアイリスが助かり、二人が結ばれたのはよかったです。

「黄色いアイリス」は短編でたんたんと話が進みますが、こちらは長編だけあって妻の死後一年という時の経過と各人の心情が合わさって読みごたえは充分あったと思います。策を講ずるあまりに、給仕の少年のちょっとした行動で死んでしまったジョージはあわれでなりません。そのトリックを見破ったアンソニーはお見事でした。

登場人物

ローズマリー.バートン 富豪の女性

アイリス.マール ローズマリーの妹

ジョージ,バートン ローズマリーの夫

ルシーラ.ドレイク ローズマリーの伯母

ヴィクター.ドレイク ルシーラの息子

スティーブン.ファラデー 政治家(レパード)

アレクサンドラ スティーブンの妻、名門キダミンスター家の娘

アンソニー.ブラウン ローズマリーの友人(トニー.モレリ)

ルース,レシング ジョージの秘書

レイス大佐 もと陸軍情報部員

ベティ.アーチデル もとローズマリーの小間使い

ケンプ 主任警部(昔バトルの部下)

ミス.クロイ.ウェスト 女優

ポール.ベネットローズマリーのおじ

ヘクター、ヴィオラ.マール ローズマリーの父母

メアリー.リース.トールバット(M) レイス大佐の知人

2022.3.17記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

牧師館の殺人

この作品は1930年に発表された全12編あるミス,マープル物長編の最初の本です。

マープルの住むセント.メアリ.ミード村の牧師館で、村で嫌われ者のプロザロー大佐がピストルで打たれて死んでいるのが発見されます。村に来ていた画家のローレンスが自首し、事件が解決したと思いきや、彼と恋愛関係にあった大佐の妻が、本当は自分がやったと自首し、どちらも無罪と判明され、捜査は振り出しに。

ここで村の事は何でも知っているマープルが得意の人間観察力を行使し、難事件を解決します。

私はマープルシリーズを今まで10作読んでいますが、第1作のこの作品は読みたいと思いながらなかなか手に入らず、やっと手に入れ、わくわくしながら読みました。

今までの作品でも登場したり、名前があげられたりしたことのあるひとが出てきたりして、妙に懐かしい気分になりました。マープル自身も初期の頃の作品では詮索好きの田舎のおばあさん的なイメージから作品が進むごとに弱気を助け、悪を憎む復讐の女神へと変化していくので、マープル物に関していえば、発表順に読む方がより理解が深まり楽しめたんじゃないかと思います。

この作品に出てくる人々も個性派ぞろい。

うわさ好きのオールドミス3人娘?ミス.ウェザビー、ミス.ハートネル、マープルそしてリドリー夫人はいつになく、天然なグリゼルダ、天真爛漫なメイドのメアリ、ツンデレ風のレティスなど、現代人でもそこらにいそうなキャラで、嫌われ者のプロザロー大佐もどこかの家にいる頑固親父で、何かあった時には便りになる人かも。

世の中をミニチュアにしたようなセント.メアリ.ミードの住民たちがとてもほほえましい。ただこの作品では住民にマープルが詮索好きで腹黒いばばあと言われてるみたいで(笑)

牧師の語りが誠実さを感じさせます。作中でマープルが語った名セリフがあります。

「若い者は年寄りはバカだと思ってるけど、年寄りは若者がバカだと知っている」

いつの世でも変わらないのですね。

登場人物

レイモンド.ウェスト マープルの甥、作家

ルシアス,プロザロー大佐 治安判事

レオナルド.クレメント 牧師

デニス クレメントの甥

グリゼルダ クレメントの妻

メアリ クレメントのメイド

ホーズ 副牧師

マープルの友人 プライス,リドリー夫人、ミス.ウェザビー、ミス.ハートネル

ストーン博士 考古学者

グラディス.クラム ストーン博士の秘書

エステル,レストレンジ夫人 謎めいた女性

ヘイドック 医者

ローレンス.レディング 画家

レティス,プロザロー 大佐の娘

アン 大佐の妻

ハースト 巡査

スラック 警部

メルチェット 警察本部長

アーチャー ならず者、メアリの恋人

セント.メアリ.ミード村マープル邸付近図

2022.3.9記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

未完の肖像

この作品は1934年に発表されたメアリ.ウェストマコット名義の作品です。メアリ.ウェストマコット名義の6作品のうち私が最後に読んだのがこの一冊でした。

内容としては一女性の半生を描いた小説で、特に世間を騒がすような出来事があるわけでもなく、はっきり言って退屈な、無駄に長い小説という感じが残りました。

ただこの作品はアガサ自身が母親の死、夫との離婚、失踪事件という不安定な時期を過ごした後に描かれた、自身の半生の自伝を持つ作品でもあると考えると、アガサクリスティをより深く理解するには必要な本だと言えます。

そうすると、1作品としては不出来ではあるが、アガサがどうしても描きたかった自分自身の心のうちを書くために、絵を描けなくなった肖像画家が絵筆のかわりにペンをとって1女性の半生を書いたという形でカモフラージュした形の作品だと解説者が言ってるのもうなずけます。

主人公シーリアの半生について、読みながら反感を覚えること、共感する点など幾つかありました。

まず、何一つ不自由ない子供時代。両親や祖母の愛情たっぷりに育ち、適齢期には美しく成長し、求婚相手にはこと欠かす、夜毎パーティー等で遊びまくってる、なんてうらやましくって仕方ない。ところがいざ結婚となるとダーモットのような個性的でアクの強い自分勝手でお金もない究極のダメ男を選んでしまうのです。そこが昔も今もそういう男に女は惹かれるんですね。

性格の合わない娘、お金ができ浮気する夫に対する悩みは世の母親全てに共通するものですが、それまで苦労を知らないシーリアにとってはかなりの苦痛だったのでしょう。世間知らずのシーリアにはピーターのような穏やかな男性がふさわしかったかもしれませんね。

離婚され、再婚する相手からも「いつまでも美しいままでいて下さい」と言われ、その言葉はシーリアにとっては死刑宣告のように受け、自ら生命を断とうとする彼女に、神からの使者のごとく登場した片腕の肖像画家。

彼との一夜で、それまでの自分をさらけ出し、別れる間際に彼の片腕を見たシーリア。

彼女はそこで生きる希望を見い出したのだと思います。一度踏み出していた物語を生み出す仕事に彼女が歩み出す姿が私には感じられました。

同じ女性として私も希望を持って人生を歩んでいきたいです。

登場人物

シーリア 主人公

スーザン メイド

シリル 兄

ゴールディー カナリアの名

ラウンシー(ラウンスウェル) コック

ジョン 父

ミリアム 母

ジャンヌ 小間使い

グラニー 祖母

ドーバラ 少佐

ピーター.メイトラント 外地勤務の軍人

ジム.グラント 農業青年

ジュディー シーリアの娘

デンマン ナニー

ケート メイド

2022.6.21記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

殺人は容易だ

何といってもこの作品は冒頭の出だしがたまらなく小気味いいです。

退役した元警察官の主人公、イギリスに帰って来て、ロンドン行きの列車に乗り遅れたりして、ちょっとおっちょこちょい。文句を言った先のポーターに逆ギレされるわで。

列車で偶然乗りくわした(ミス.マープルを思わせる)品のいい老婦人から、村で連続殺人が起きていて、自分は目つきからその犯人を知っている。それを話しにロンドン警視庁に今から行くといって別れました。

数日後、その老婦人が車にひかれて死亡した事を新聞でルークは知り、そのまた数日後、その婦人が次はあの人が殺されると話していた医者が死亡した事を知り、さすがにこれは本当かもと、調査にのり出します。

こうなるともう今後の展開にどきどき、わくわくしないわけにいきません。

行く先の村の名はウィッチウッド.アンダーアッシュでいかにも魔女の出てきそうな所で、友人のいとこブリジェットもほうきに乗った魔女の顔みたいらしく、骨董屋の主人は黒魔術大好きでそういうミサを行っているという、オカルト味がたっぷり感じられます。あと、本のあとがきが面白く本書の理解にとても役立ちます。

なぜ主役が素人探偵でそれも男なのか?

クリスティのノンシリーズ物には若い女性が主役をはる作品が多いのですが、この作品においては主役たるルークの重大な思いちがいが犯人の予想を読者に混乱させるから面白くなるので、素人探偵だからこそ主役にふさわしい。

逆にマープルやポアロじゃ間違える訳がないでしょうし、男を主役にしたことで女性の登場人物のキャラクターが際立ってよりオカルト味が増したように思われます。

話のどこかでロマンスが芽生えるのもクリスティらしいです。

この作品は1939年作でクリスティの油ののった時期らしく、この頃には名作がどんどん発表されていたそうで、あの名作「そして誰もいなくなった」が世に出るのはこの後しばらくの時期と聞けば面白くないはずがありません。

登場人物も多いですが、それぞれ個性豊かに描かれていて、あのおなじみのバトル警視も登場して(最後のほんの少しの出番だったのが残念でしたが)仕事漬けの私のGWを楽しませてくれた一冊です。

バトル警視が少しでも登場すると話が引き締まりますね。安心して読めるというか、やはりバトル警視はすごいわ!!

登場人物

ルーク.フィッツウィリアム もと植民地駐在警察官

ジミー.ロリマー ルークの友人

ラビィニア.ピンカートン ウィッチウッド村の老婦人(ミルドレッドおば似)

ジョン.E.ハンブルビー 医学博士、娘ローズ

ブリジェット.コンウェイ ジミーのいとこ、ホイットフィールド卿の秘書

ゴードン.ホイットフィールド卿 週刊誌の経営者

アンストラザー夫人 ブリジェットの叔母

ジョフリー.トーマス ハンブルビーのパートナー

ホートン少佐 退役軍人、妻リディア、犬(ブルドッグ、ネロ、ネリ、オーガスタス)

アポット 事務弁護士

アルフレッド.ウェイク 教区牧師

エルズワージー 骨董屋の主人、黒魔術

ハリー.カーター 居酒屋主人、娘ルーシー

トミー.ピアス 村の腕白小僧

エイミー.ギブズ お手伝い、叔母チャーチ夫人

ホノリア.ウェィンフリート 図書館員

ウォンキー.プー ホノリアのペルシャ猫

ジム.ハーヴィ 自動車修理工、エイミーと婚約していた

リード 巡査

ジョウンズ 銀行の支店長

リヴァーズ ホィットフィールドの運転手

バトル警視 ロンドン警視庁の警視

2022.5.6記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

フランクフルトへの乗客

1970年、アガサクリスティ80才で書かれたこの作品は、私がクリスティの本を読む時に参考にしている「アガサの攻略本」でかなり酷評され、ネットの読書感想でも評判が悪く、ぶっちゃけ駄作扱いされて(アガサ様、申し訳ありません)いました。

ですが、アガサクリスティの作品全てを読破するのを目指す私としては読みとばす気はさらさらなく、どういうふうにつまらないかと、別の意味で期待を込めて読んでいきました。

確かに読みづらい点がいくつかありました。

まず、登場人物が多すぎる。登場人物紹介も(かなり割愛したのですが)ピンポイントでしか出ない人々、あまり重要でない人物名は省略しました。

それと大佐や政治家等たくさん出ますが一部の人を除き個性がないので記憶に残らない。

二人が空港で出会い、スタフォードを仲間に入れるとこまではわくわく感がありましたが、その後のスタフォードの活躍が全く描かれていないのが残念。

途中からは各国のお偉方たちの会話のやりとりで話がどんどん進み、どんどん話が大きくなり、いつの間にか終わっていたという感じで、その間はドキュメンタリー作品を読んでいる気がしました。その為、話の内容に感情移入することがなかったです。

ただマチルダおばとスタフォードのやりとり、マチルダおばがシャルロットばばあに会いに行ったのも、スタフォードを守るおば心の行為だったのかな、と思われた事、それからエピローグでの結婚式のやりとりのシーンにほんわか感がありました。マチルダおばにミス.マープルの面影がしのばれた感じがしました。

思うにこの本が書かれた当時のイギリスの状況を考えると、こういう本が出るのも無理はないかと思いました。

失業問題や学生運動が多発してアナーキズムが呼ばれてあちこちの途上国で革命やテロが発生している時代でしたから。

ベンヴォ計画は結局成功したのでしょうか?成功するにしてもほとんど死にかけの人が急に元気になるってのもどうかと思います。少なくとも純粋な推理小説好きの人にはおすすめできない一冊です。

ただスタフォードは魅力的なキャラクターですし、メアリ.アンもカッコいい、マチルダおばはいうに及ばずですので、この人たちの今後の活躍を想像して(笑)感想を終わりたいと思います。

登場人物

サー.スタフォード.ナイ 外交官

ゴードン.チェトウィンド スタフォードの上司

マチルダ.クレックヒートン スタフォードのおば

エミー.レザラン メイド

メアリ.アン=レナータ.ゼルコウスキ女伯爵=ミス.ダフネ.テオドファヌス

マンロー 大佐

パイカウェイ 大佐

ヘンリー,ホーシャム 保安

ブラント 提督

サー.ジョージ.パッカム 次官

ミリー.ジーン.コートマン=アメリカ大使夫人(ポケット.ヴィーナス=ジュアニータ)、夫サム(アメリカ大使)

ロビンスン

ロード.アルタムウント卿

ジェイムズ.クリーク アルタムウント卿の補佐

セドリック.レーゼンビー 英首相

シャルロッテ.クラップ(ヴァルトザウゼン女伯爵) マチルダの幼なじみ

ロバート.ショーラム 物理学者

リーザ.ノイマン ショーラムの秘書

マカラック 医者

フランツ.ヨーゼフ 若きジークフリート、ヒトラーの子?

ベンヴォ計画=人間の性格を永久に変えられる

2022.2.4記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

バグダッドの秘密

この作品は1951年に発表されたノンシリーズで中東を舞台にくり広げられるスパイアクション物です。

ノン.シリーズのスパイアクション物には若い元気な女性が主役のものが多いですが、ヴィクトリアもその例にもれず、スーパーポジティブなキャラクターです。

おしゃべりがすぎて会社をクビになった矢先に出会ったハンサムなエドワードに一目ぼれ。お金もろくにないのに彼を追っかけてバグダッドまで行ってしまいます。

そこで冷戦下のスパイ活動にまき込まれてしまい、自らの生命の危険にもさらされてしまいますが、持ち前の機転と運が幸いして、というお話です。

あまりにスリリングでハプニングの連続で、読んでて楽しいことしかりです。

ただこのヴィクトリア、超嘘つきで私文書偽造なんか普通にやってしまうし、金もないのにホテルでフルコース料理をたいらげたりやってのけるので、人によっては好みが分かれるキャラクターだと思います。

話の終盤、エドワードの本性を知って愕然とするヴィクトリア。 命がけでスパイ活動をするヘンリー。そして考古学への熱い情熱を燃やすリチャード等、エドワード以外の男性キャラクターが好感度高かったのは「死への旅」を思い出させます。

もう一人、バグダッドに来た女性アンナ.シェーレの活躍をもっと見たかったかなと思います。

軍人上がりのエドワードへの恋がさめて考古学者リチャードとのロマンスが芽生えるのはまるでアガサクリスティのたどった道を描いているのでしょうか?

この作品はアメリカでめちゃめちゃ売れたそうですが、底抜けの明るさとスリリングな筋書きが受けたのかもしれませんね。

登場人物

ダキン 石油会社幹部

クロスビー大尉 ダキンの部下

ヘンリー.カーマイケル イギリス秘密諜報員

アンナ.シェーレ 銀行頭取秘書(オットー.モーガンサル頭取)

ヴィクトリア.ジョーンズ タイピスト

エドワード.ゴワリング ラスボーン博士の秘書 

ラスボーン博士 オリーヴの枝の会会長

エルシー アンナの姉

リチャード.ベイカー 考古学者、カーマイケルの友人

ボーンスフット.ジョーンズ博士 考古学者

ジェラルド.クレイトン 総領事

マーカス.ティオ ホテルの経営者

サー.ルーペート.クロフトン.リー 旅行家

ライオネル.シュリベェナム イギリス大使館書記

アブダル.スライマーン アラブ人

2022.5.9記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

愛の旋律

この作品は1930年に刊行されたメアリ,ウェストマコット名義の最初の作品で原題が「Giant’s Bread」(巨人の糧)といいます。

主人公ヴァーノンの幼い時からの生い立ちを従妹のジョー、友人セバスチャン、それからネルの4人との関係を主に話は進みます。ネルとジェーン、2人の女性との三角関係を描いた恋愛小説というよりは天才ヴァーノンが「巨人」という作品を完成させる過程を描いた大河小説というぐらい内容がびっしりつまっており

ボリュームもたっぷり(630ページほど)

私が読んだアガサクリスティの物では一番ページ数が多い作品です。

登場人物について言えば、父親ウォルターは典型的なイギリス紳士のイメージがあります。真面目でおだやかな性格、少々女好き。母親マイラは愛情豊かで世間知らずのお嬢様。ジョージ.チェトウィンドはどこまでも良い人。セバスチャンはユダヤ人だからでしょうか。誰とでもどんな時もブレずに世渡りできる現代人。ネルは女の見本のような女性で、ジョーは男を嫌いながらも男におぼれるツンデレ女性でジェーンは女にとって理想像のような完璧な人。

お金と愛の間で揺れるネルにはハラハラしましたが、ネルは最終的にジョージを選んで正解だったと思います。ジェーンのような生き方はあこがれても普通の何の才能のない女性には無理でしょう。

音楽の才能に目覚めたヴァーノン。記憶喪失のままグリーンとして生きた方が(凡人としてだが)幸せだったかもしれませんね。

音楽の天賦の才能を持って生まれてきたヴァーノン。けれどその才能を発揮して一大作品を世に出すまでには恋愛、生活、仕事等、幾多の苦しみに耐えねばならなかったと。そしてその苦しみこそが作品を生み出すための栄養となっていったのですね。

アガサクリスティ自身、若い頃オペラ歌手を目指すも挫折し、結婚、夫の愛人、離婚、失踪、記憶喪失そして再婚という人生を送っており、クリスティ自身がたどってきた半生の自叙伝とも思われます。

探偵小説では味わえない、古典小説のように人生のドラマが描かれた作品はメアリ.ウェストマコット作品でこそ味わえます。

読み終えた後、又プロローグに戻って再度読み返すと、更に理解が増すのは先に読んだ暗い抱擁と同様より心に残りました。

登場人物

ヴァーノン.ディア 天才音楽家、後のボリス.グローエン「巨人」製作者

セバスチャン.レヴィン ヴァーノンの親友、隣人、ディアフィールズ家

ウォルター ヴァーノンの父、アボッツ.ピュイサン所有者

マイラ ヴァーノンの母

シドニー.ベント ヴァーノンの伯父、マイラの兄、妻キャリー

ニーナ.ウェイト 叔母、ウォルターの妹

ジョー(ジョゼフィン).ウェイト ニーナの娘、ヴァーノンの従妹

ネル(エリナー).ヴェリカー ヴァーノンの幼な友達

フレミング 弁護士

ナース ミセス.パスカル

ナース.フランシス ジェーンのおば

ジョージ.チェトウィンド アメリカの富豪

ジェーン.ハーディング オペラ歌手

ボリス.アンドロフ 彫刻家、昔ジェーンと同棲

ラードマーガー 作曲家

ミスター,グリーン、ナース、神さま ヴァーノン子供時代の主要人物

プードル、スクアーラル、ツリー

ヴァーノン子供時代の友達

トムボーイ ヴァーノンの犬

ケアリ.ロッジ マイラのバーミンガム近くの新居

一言メモ

マン島の黄金収録「壁の中」

ヴァーノン、ネル、ジェーン似の3人の話

シリアルキラー 一月以上にわたって複数の殺人を犯す連続殺人犯

まやかし ブラマジェム

ペール,ギュントの登場人物 ソルヴェーグ

ニッカー.ボッカー ゴルフする時にイギリス紳士がはく裾の絞ったズボン

2022.5.16記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

死が最後にやってくる

この作品は1944年に発表されたアガサクリスティ物としては異色の古代エジプトを舞台にした作品です。物語の始めのレニセンブとホリの会話「災いは内から来るものと外から来るものがある」と言ったホリの言葉から物語のこれからの予言めいたものを感じさせられました。

一族の長であるインホテプが若くて美しい愛妾ノフレトを連れて帰りました。彼女の出現でそれまで閉鎖的な社会の中で抑圧されてきたその人の本性が外に現れてきました。

それが顕著に表れたのが長男のヤーモス。父親から命令され妻からはバカにされて、おとなしかったヤーモスが父親から勘当を言い渡されると、本性が芽を出したのか、ノフレトをしめ殺し、それを見ておびえるようになった妻サティピイをも殺し、殺人狂となっていく様はえに恐ろしいものでした。

ノフレトの呪いにおびえながら実の犯人はこの中にいると知ってその影におびえながら生きていくなんて気が狂いそうになるのも無理ないです。

そんな中にあって自分を見失わず生きていこうとするレニセンブ。彼女が選んだのは昔からそばにいて彼女を見守っていたホリだったのは正解だったと思います。

一時の恋のときめきよりも長い期間一緒に時を過ごし、はぐくんできた信頼、安心感こそが今も昔も人間にとって大切なものだと、広大なナイルの川はレニセンブに最後に教えてくれたのではないでしょうか。

登場人物

インホテプ 家長、墓所守

レニセンブ インホテプの娘

ヤーモス 長男

サティピイ ヤーモスの妻

ソベク 次男

カイト ソベクの妻

ケイ レニセンブの亡き夫

テティ レニセンブの子

エサ 祖母

ホリ 管理人

ヘネット 召使い

イピィ 3男

ノフレト インホテプの愛妾

カメニ 書記

メルスー 医者

アスハイエト レニセンブたちの亡き母

農事暦

洪水季 7月下~11月下

冬季  11月下~3月下

夏季  3月下~7月下

2022.4.25記