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アガサ・クリスティー 読書感想文

ポアロ登場(短編集)

①(西洋の星)盗難事件

ヤードリー卿夫人と不倫関係にあるグレゴリー.ロルフは夫人をゆすってダイヤを手に入れたが、ヤードリー卿がダイヤを売って生活を守ると言い出した為、ダイヤの2重強盗を企む。まんまと馬鹿にされるヘイスティンクズが怒り狂う。

②マースドン荘の悲劇

自殺の可能性を保険会社に依頼されるポアロ。自殺した男の話をヒントに夫を殺害した夫人。降霊会の演出の恐怖で夫人がボロを出す。

③安アパート事件

法外に安い家賃のアパートに入居できた若夫婦の話に興味をもったポアロ。そこは情報機関が探しているスパイの本拠でロビンソンという名だからこそ選ばれたのだ。

④狩人荘の怪事件

インフルエンザのポアロを置いてヘイスティンクズ単身ヘイヴァリングと共に行く。借金苦で叔父を殺したのは家政婦に化けた夫人。夫はアリバイあり。遺産を手にするが夫婦はその後飛行機事故で死亡。ネメシスは彼らを見のがさなかった訳。

⑤百万ドル債券盗難事件

アメリカに行く船で盗まれた債券の責任者。フィアンセの女性に相談を受けるポアロ。これはダミー。本物は別の船で一足先にアメリカに着いていた。銀行支配人が隣りの船室にひそみ、トランクの鍵をつぶして演技をしていた。お偉方の中にも犯罪者はいるのだ。

⑥エジプト墳墓の謎

発掘調査中、関係者が次々死亡。エジプト王の呪い?博士の夫人がポアロに依頼し現地に行く。博士の遺産をもらおうと代表者が次々殺してた。ポアロはオカルト信じたふり、薬飲んだふり、演技する。

⑦グランドメトロポリタンの宝石盗難事件

ホテル滞在中の夫人のネックレスが盗まれ、隣室のメイドの部屋から見つかるもこれはにせ物。ポアロ、メイドとボーイにかまをかけて彼らの指紋をとると指名手配中の2人と判明。お礼にもらった小切手でもう一度グランドメトロポリタンに行こうとヘイスティンクズを誘う。

⑧首相誘拐事件

国際会議に出席するはずの首相が行方不明。先に銃で暗殺されかかって次に誘拐されるのに疑問を持つポアロ。首相はパリでなくイギリスにいて、パリにいたのはダミー。無事首相は発見され会議に出席する。

⑨ミスターダウンハイムの失踪

ポアロ、ヘイスティンクズ、ジャップの3人がお茶の席で座りながら事件を解決できるか賭けをする。頭取ダウンハイムが家を出たきり失踪。訪問客ロウエン来るも帰ってこず、家の金庫から宝石、債券が盗難。頭取の指輪を質に入れた男が警察に暴力をふるい逮捕されるが銀行は倒産。頭取こそ逮捕された前科者だった。ポアロ、5ポンドジャップから受けとるが申し訳なく思い、今度食事に誘おうと提案する。

⑩イタリア貴族殺害事件

友人の医者の患者、イタリア貴族が殺害される。2人の客と食事した後、貴族はにせ物で客はイタリアから密命をおびてきた大使たち。執事が金を横領すべく食事のシーンを演出していた。

⑪謎の遺言書

伯父の遺言、新しい遺言書を1年以内に見つけたら全部遺産をやる。できないときは全部寄付する。ポアロに頼み遺言書を見つけ出す。専門家にまかせるのが一番と、女性が高等教育受けることの価値をポアロ誉める。

⑫ヴェールをかけた女

昔の手紙でゆすられてると訴える女性に頼まれ「法律を敵に回した仕事も気分転換になってよい」とゆする男の家にしのびこんで手紙を手に入れるが、この女は実は宝石泥棒。はいてる靴が安物でレディではないと見破る。

⑬消えた廃坑

ポアロが持つ唯一の株。鉱山の書類の持ち主の中国人が殺された事件の手柄をミラー警部にとられ、別の役員からお礼にもらった株だった。

⑭チョコレートの箱

ポアロがベルギー時代の唯一のミスをした話

殺された代議士の犯人。ポアロは彼の母に告げるが、その母に私が殺したと自供される。毒の入ったチョコレートの箱とふたの色が違うのは母が白内障だからというのがポアロは気づかなかった。

まとめ

1924年刊行のアガサクリスティ最初の短編集で全作ポアロもの。ヘイスティンクズの語り口でヘイスティンクズとポアロの掛け合いが楽しめます。2人のキャラクターがよく出ていて、後に発表される長編の原型となるストーリーがここにあります。シャーロック.ホームズを意識した作品もうかがえます。

2022.4.18記

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娘は娘

1952年に発表されたメアリ.ウェストマコット名義の作品で、メアリ名義の作品は探偵ものでなく、ハーレクインものといったイメージがただよいます。

娘のセアラがスイスに旅行中、ちょっとの間女に戻ったアン。リチャードと出会い恋におち、結婚を決意しますが、それを娘に伝えるのに段取りが悪かった為、娘との関係に亀裂が生じ、親子そして相手の男性との関係が崩れていくお話です。昔も今も普通にある事ですが親子の崩れ方が半端なくすごい!

母親のアン、遊びまわっててお金そんなにあるの?メイドはいてるけど家の事ほったらかしなんでしょう。いい大人がだらしない。セアラも自分の結婚ぐらい自分で決めろよ。麻薬におぼれるのは人としてアカンやろ‼️て言うかどっちも子供すぎるやん。と、ツッコミどころ満載のこのお話、読みながらついイライラしつつも友人のデーム.ローラとしっかり者のメイドに支えられて、何とか2人の仲も修復し、最後は普通の親子に戻って読後はさわやかでした。

ほとんど女性中心の話で、男の描写が面白く、納得しました。

「60男はレコードみたいに同じ事ばかりしゃべる」

「恋をした男はしょぼけた羊」

「愛の重さ」の話ほど重く暗くなく、イライラしながらも2人の思いに共感したりとストレス解消もできた一冊です。

登場人物

アン.ブレンティス 主人公、未亡人、41才

セオラ 娘

イーディス メイド

パトリック アンの亡夫

ジェームズ.グラント大佐 アンの友人

デーム.ローラ.ホイスタブル 著述家、講演家、アンの友人、64才

(ジェラルド)ジェリー.ロイド セアラの友人

リチャード.コールドフィールド 東洋帰りの実業家

ロレンス.スティーン 大富豪の御曹司

ドーリス リチャードの妻

2022.4.25記

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七つの時計

この作品は1929年に発表されたノンシリーズの作品の1つで「チムニーズ館の秘密」の4年後に設定され、バトル警視が登場する第2作の作品です。

前作で登場した愛すべき人物たちが登場します。ケイタラム卿にバンドル、ロマックス、外交官のビル.エヴァズレー、そしてバトル警視。

前作では影の薄かったバンドルは今回は主役級の大活躍(ほぼ主役)。車はぶっ飛ばしてロニーを引き殺す(寸前)や、セヴン.ダイヤルズという秘密結社のアジトに単身乗り込み潜伏するや、おてんばぶりを最大級に発揮してます。

大事におおらかに育てられたせいか性格も素直で嫌みがない。「なぜ、エヴァンズに、、、」のフランキーやトミー&タペンスシリーズのタペンスに共通するキャラクター。

その父親のケイタラム卿とのやりとりが底抜けに楽しい。本人たちは意識してないんでしょうが、現代の日本で充分親子漫才が通用するレベル。

前回と引き続き女好きな外交官ビル。前作では見事に振られましたが今回はしっかりバンドルのハートを射止めましたね。そして頼りがいのあるバトル警視。

個人的には内容も登場人物もごっちゃ混ぜにした「チムニーズ館の秘密」よりは内容も小ぶりながら、すっきりとまとめられていてこっちの作品の方が読みやすかったです。

冒頭から登場するジミーが犯人という設定は「チムニーズ、、、」で冒頭で登場するアンソニーが亡国の王子であったというのとパターンが似ているかな。後から考えると仕事もせず、優雅な生活を送っているし、身近な所にいるからいろいろな事ができたのだと察する点はありましたね。レイディ.マライア.クートの悲劇的なキャラがまた愛らしい。

この作品の発表当時、アガサクリスティはプライベートでも大変な時期だったらしいですが、そんなことは感じさせない明るくテンポのいい作品です。

ビルの同僚の外交官たちのキャラが薄い。セヴン.ダイヤルズのメンバーが全然悪役でないのに何故仮面つけてるの?とか、ジュリーの妹ロレーンがジミーと手を組んでたり、思うところは色々ありますが、あんまり気にしないでおきましょう(笑)

登場人物

ケイタラム卿 侯爵、チムニーズ館の所有者

アイリーン.ブレント(バンドル) ケイタラム卿の娘

トレドウェル 執事

ジミー.セシジャー チムニーズ館の客、従僕スチーブンス

サー.オズワルド.クート 鉄鋼王

レイディ.マライア.クート オズワルドの妻

マクドナルド チムニーズ館の庭師頭

ルーパート.ベイトマン(ポンゴ) オズワルドの秘書

ヘレン.ナンシー.ソックス チムニーズ館の女客人たち

ビル.エヴァズレー 外交官(ジョージの秘書)

ロニー.デヴァルー 外交官

ジュリー.ウェィド 外交官

ロレーン ジュリーの妹

カートライト 医師

ジョージ.ロマックス(コダーズ)外務次官(ワイヴァーン屋敷)

サー.スタンリー.ディグビー 航空大臣

テレンス.オルーク 秘書官

ヘル.エーベルハルト 発明家

アンナ.ラツキー 伯爵夫人

モスゴロフスキー セヴン.ダイヤルズ.クラブの経営者

アルフレッド 元チムニーズ館の従僕

ジョン.ガウアー 新しく入った従僕

2022.4.22記

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葬儀を終えて

1953年に刊行されたこの作品は、解説の折原一氏が自身のポアロ作品の中でベスト1に挙げている超おすすめ作品です。

私もポアロ作品を読み進めてきて、残すところあと3作までとなり、期待を込めて読みました。

確かに期待を裏切らない作品です。ポアロ作品では定番の富豪一族が集まり遺産争いの中で殺人が発生する、そして犯人を見つけ出すというストーリーですが、ポアロ作未読の方には是非読んでいただきたい超定番の一冊です。

富豪のアバネシー氏が亡くなり葬儀で集まった遺族の中の一人である妹のコーラが発した一言「だってリチャードは殺されたんでしょう?」この思わせ振りの何の根拠もない一言が、遺族そして弁護士に自然死とされていた死に殺人という暗い影を投じます。

そしてその翌日、当のコーラが斤でたたき殺されます。この異常な事件が発生したため弁護士に捜査を依頼されたポアロが登場します。

冒頭の思わせ振りな一言に始まってポアロが遺族一人一人に話を聞いてまわりますが、その対応がそれぞれ違っていてユニーク。ポンタリエなんて聞いただけで失笑しそうな名前でUNARCOの一員になってたり、修道女が何度も登場してオカルティックな雰囲気もありました。

コーラを殺害した日のアリバイはほぼ全員なかったり、家系図と逐一照らし合わせて家族関係をチェックしないと誰が誰やら訳わからなくなったり、グレゴリーバンクスは発狂したのか「ぼくが殺した」なんて叫びだす始末で、理解しながら読むのは大変だったりしましたが、読みごたえは充分ありました。

昔から頭が少し弱く、思ったことを考えなしに口にするコーラ。コーラに対する違和感をつのらせるヘレン。遺族の誰もがコーラを殺しうる中、一番殺人を犯しそうでない人間が犯人だったとは。お金とは金額の大きさだけでない、その人なりの物差しがあって、それが犯行に手を染める動機になるのです。

自分の人生で最後の希望の為に手を血で染めた哀れな女の犯行を描いたところにアガサクリスティらしさが感じられました。

そして所々に伏線となる言葉や表現があって、読み終わる頃に「ああ、そういえば、、」と思い出されたりするのも読む楽しみの1つです。

もう一度、腰をすえて読みかえしてみたい、私のおすすめの一冊です。

家系図

2022.4.16記

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五匹の子豚

(五匹の子豚)

1.この豚さんは市場行き

2,この豚さんはおるす番

3.この豚さんは肉を1切れもらい

4.この豚さんはなんにもない

5.この豚さんはウィーウィー迷子になっちゃった

1942年に発表されたこの作品は、マザーグースの童謡の歌詞にちなんで名前のつけられたポアロ作品で、アガサクリスティの晩年の頃の作品にはよく出てくる過去にあった事件をその当時にかかわった人々の話から事実をつきとめようとする形式の作品の1つです。(スリーピングマーダー、マギンティ夫人、象は忘れない等)

この作品では当時の事件に係わりのある5人の証言を五匹の子豚の童謡とからませて話が進められており、残酷さとユーモアの両方を感じさせられました。

母親の罪の真実を知りたいと娘から依頼を受けたポアロ。事件の関係者の証言からもカロリンの犯行は間違いないと思われていましたが、5人証言のうちの細かい点からカロリンの無罪を確信したポアロ。

アンジェラの証言より姉は自分の中にある暴力の本能を感じて、そのはけ口としてアミアスと口げんかをしていた。

ウィリアムズの証言より夫人はビールのビンをハンカチでみがいていた。死んだ夫の手を取ってビールのビンの上におしつけた。カロリンは自分が若い頃、妹アンジェラに嫉妬して彼女に文鎮を投げつけ、彼女の左目をつぶしてしまった(ジョナサン曰く)

その他5人の実験室を出た順番、その時の状況、夫婦がアンジェラをつぶして学校に行かせる話を兄弟が聞いた内容等。

こういうことはポアロでなくてはあばけなかった事実でしょう。5人の証言を得るのに相手の状況を考えて手段を変えるのといい見事としかいえません。

終盤ポアロが語る判決時に、妹に対するつぐないができたとすっきりした表情でいたカロリンの心の内、そしてアンジェラはクレイルを殺すつもりでなく、ただ嫌がらせをしただけ、本当の犯人はエルサだと告げるシーンにはしびれる思いがしました。

私が読んだのは1977年発行の少し古い本でしたが、この本の翻訳のせいか話や会話に無駄がなく、クールで研ぎ澄まされていました。

カロリンとアミアスの会話を聞いて、アミアスは本当は自分の事を愛していない、絵を描き終えたら捨てられてしまうと知ったエルサ。そのエルサをかわいそうだと言ったカロリンを見てアミアスに毒を盛ったエルサ。エルサは2人を殺したつもりが自分自身を殺してしまったと気づいたエルサが憎らしくもあり、気の毒でもありました。

いよいよポアロシリーズは「カーテン」を残すのみです。ここまできてあと一冊でポアロシリーズを読み終えるのが待ち遠しくもあり、まだ全部読み終えてしまいたくない気持ちもあって複雑な心境です。

登場人物

カーラ.ルマルション 事件の依頼者、カロリンの娘

アミアス.クレイル 画家、カーラの父、父リチャード

カロリン.クレイル カーラの母

モンタギュー.ディプリーチ卿 勅撰弁護士

老メイヒュー(ジョージ.メイヒュー)弁護士

エルサ.グリヤー アミアスの愛人、現ディティシャム卿夫人

フィリップ.ブレイク アミアスの親友、株の仲買人

メレディス.ブレイク フィリップの兄、田舎の大地主、薬草作り

セシリア,ウィリアムズ アンジェラの家庭教師

アンジェラ.ウォレン カロリンの腹違いの妹

クェンティン.フォッグ氏 勅撰弁護士

ハンブレイ.ルドルフ 当時の主席検事

ケイレヴ.ジョナサン 弁護士、クレイル家代々の付き合い

ヘイル 元警視

ジョン.ラタリー カーラのフィアンセ

素封家(そほうか) 民間の金持ち

2022.4.14記

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教会で死んだ男(短編集)

①戦勝記念舞踏会事件

パーティーで参加していたクロンショー卿がナイフで刺されて死亡し、別の所でコカイン中毒で死んだ卿の女性との関連は?開催されたイタリア喜劇の登場人物からポアロが犯人を見つける

②潜水艦の設計図

中編「死人の鏡」収録、謎の盗難事件の原型

③クラブのキング

ブリッジをしている家に急に血まみれで逃げてきた女優。高貴な男性と、結婚を妨害された男が殺されていた。その女優はその家の元家族であった話

④マーケット.ベイジングの怪事件

「死人の鏡」収録ミューズ街の事件の原型

自殺した男を彼を好きな女性が男を脅迫していたとして殺人犯にみたてるが、ポアロはタバコの煙のにおいがしないのと、男が左ききなのを見抜いてしまう。

⑤二重の手がかり

パーティーで盗まれた宝石類をとり戻したポアロ。盗んだ相手はヴェラ.ロサコフ夫人。イニシャルB.Pはロシア語ではV.Rとなる。2人の運命的な出会いの話。

⑥呪われた相続人

名門リムジェリア家では長男は家督を相続できないという言い伝えがある。昔、不貞をはたらいた妻とその子が無惨に殺された呪いらしい。ポアロが捜査するとそれは内部の伝説にとりつかれた異常者の仕業だった(似たような話どこかにあり)

⑦コーンウォールの毒殺事件

夫に毒殺されると訴えてきた中年女性。ポアロが行くと女性は死んでいた。同居していた姪の恋人が金欲しさで女性とその姪両方を色仕掛けにし罪を夫にかぶせていた。(似た話あり)

⑧プリマス行き急行列車

青列車の秘密の原型

プリマス行き急行列車に女性の死体が発見される。彼女はアメリカ鉄鋼王の娘で携帯していた宝石類が消えていた。途中メイドを駅に残し、戻ってくるからと言って立ち去ったまま殺されたと推定されたが、メイドは実は犯人の協力者だった。ポアロ曰く「私立探偵は優秀な心理学者であらねばならない」

⑨料理人の失踪

急に失踪した中年女性の料理人。心配して探してほしいと家の奥方に頼まれるが、同居人の銀行員の横領をカモフラージュするための芝居であった話

⑩二重の罪

旅行途中、同行した美少女と伯母の骨董屋の共謀。不当きわまるバス旅行の運賃。詐欺にあった外国人が気の毒で怒り狂うポアロ。エルキュール.ポアロは外国人の味方なんだ❗

⑪スズメ蜂の巣

死の宣告を受けた青年が、自分の女を取った友人を罪に陥れようと青酸カリを手に入れるが、ポアロに阻止され、己の邪心を克服しポアロに感謝する。

⑫洋裁店の人形

ある日突然、洋裁店にあった人形。まるで自分から動いているように場所を変えるので気持ち悪くて窓から捨てたら小さい少女に拾われ、この人形はかわいがってもらいたかっただけなのよ、と言われ唖然とする。

⑬教会で死んだ男

教会の中で倒れてる男の背広から荷物引取証を見つけたパンチは預けていたスーツケースをマープルの機転で盗人の宝石箱を手にする。死んだ男の娘を自分が幸せにしてやると神に誓う。

全体の感想

この作品は1982年に早川書房より刊行されたアガサクリスティの比較的初期の短編を集めた短編集で、ポアロ物11作、マープル物1作、怪奇小説1作の計13作品が収められています。ポアロ物はヘイスティングズの語り口で書かれたものが多く、読んでいくと「あれ、どこかで読んだな」と思われる作品が多いのに気付きます。

②④⑥⑦⑧はこののち中編もしくは長編作品の原型といった作品で、知っている人には少し物足りないと思うかもしれません。

⑤では懐かしいヴェラ.ロサコフ夫人が登場します。

私の一番好きな作品は⑪。⑬のマープル物はマープル作品のどこか素朴でほのぼのとした余韻が感じられ、パンチの明るい性格が好ましい作品です。

2022.4.13記

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複数の時計

この作品が発表されたのは1963年で比較的後期のポアロ物ですが、コリンという情報部員と彼の友人ハードキャスル警部の2人がメインで捜査し、ポアロは安楽椅子に座り、聞いた話からアドバイスするというスタイルで話が進みます。

舞台はウィルブラーム新月通りの住宅街、派遣されたタイピストがその家で死体となった男を発見します。その男は誰?誰によってどうやって運ばれたのか?そこにあった6つの時計の意味は?と、最初の設定は面白くトリッキーでした。ポアロの後期の作品には結構、意表をつく話が多いですが、この作品も例にもれず、です。途中、ポアロがコナン.ドイルやエトガー.アラン.ポー、他の有名推理作家のうんちくを語るシーンがあって、ちょっと新鮮。

ポアロの家が改装中でホテル住まいしてるポアロやタイピスト、派遣所等、時代の流れを感じます。舞台も豪邸ではなくウィルブラーム新月通りという中流の住宅地で親しみも感じられます。住民のへミングさんがイギリス的お犬様でなく猫を飼ってるのも時代なのかしら?

死体と共にあった複数の時計、絵はがきの4時13分とか謎ときとしては楽しめました。ポアロに住民の人たちといろいろな話をするようアドバイスされたコリンがその会話から事件の真相の手がかりを見つける過程が読んでいて楽しい。

コリンが自分の本職の情報府としての仕事と殺人犯の捜査を並行してるため、丁寧に読まないと話が混乱しそうでしたが最後で一気に謎が解けたのはびっくりしました。

他人と思われてた人たちが親子だったり姉妹だったりで、ポアロの人間観察はすごいと思った反面、ややこじつけかも、と思いました。

🌙マークの61Mの絵、びっくり返したら実は当のコリンが探してる人物ととっくに会っているというのも苦笑いものですね。スパイ稼業から足を洗ったコリンとシェイラのラブロマンスも芽生えて最後はハッピーエンドでよかったです。

登場人物

コリン.ラム 秘密情報部員、海洋生物学者

ベック大佐 コリンの上司

ミス.K.マーティンデイル カヴェンディッシュ秘書タイプ引受所長、砂色猫

シェイラ.ウェッブ 速記タイピスト(ローズマリー)

ミセス.ロートン シェイラの叔母

R.H.カリィ 殺された男、ハリー.キャスルトン

エドナ.ブレント タイピスト兼受付係

マーリナ.ラィヴァル(フロッシー.ギャップ)殺された男の妻と称する女

ゼラルディン アパートに住む少女

ミリセント.ペブマーシュ 身体障害施設の教師、盲目、19号

ジョサイア.ブランド 建設業者、妻ヴァレリィ、61号

ミセス.カーティン ペブマーシュの家の通いのメイド

ジェームズ.ウォーターハウス 弁護士、妹エティス、18号

ミセス.へミング(ダイアナ.ロッジ) 猫好きの老婦人(61号と背中合わせ)20号

ミセス.ラムジィ 土木技師の妻、息子ビル、テッド、62号

アンガス.マクノートン 引退した教授、園芸好き、63号

ディック.ハードキャスル クローディン警察署捜査課警部

ミセス.パッカー ウィルブラーム新月通り(クレスント)47号の住人

クェンティン.ダゲスクリン カナダ人、ハリィ.キャスルトン(殺された男)

マーティンデイルとミセス.ブランド=姉妹

ペブマーシュとシェイラ=親子

2022.4.6記

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愛の重さ

この作品は1956年にアガサクリスティがメアリ.ウェストマコットの名で発表した6冊のうちの最後の作品です。66才という比較的晩年の作品のせいか、クリスティの人生観が感じられます。

全体が4つの章で構成されており、第1章はローラ、第2章はシャーリー、第3章はルウェリン、第4章はローラとルウェリンが出会う話が描かれています。

第1章ローラ

両親の愛情を一身に受けている長男チャールズの死後、自分に愛情がそそがれると思ったのもつかの間、生まれてきた愛らしい妹シャーリーに両親の愛情が向かっているのに気づいたローラ。洗礼式の時、シャーリーを石の上に落としたらこの子は死ぬかも、と妹の死を願っていたが、家が火事になった時、炎の中から無我夢中で妹を助け出し、初めてシャーリーへの愛に目覚めます。

第2章シャーリー

両親の死後、シャーリーの保護者として何かやと世話をやくローラ。ヘンリーと恋に落ち結婚したいというシャーリーに反対するローラですがボールドックに「愛する事を止めることはできない」と諭され2人の結婚を認めます。幸せかと思われたシャーリーですが、ヘンリーの浮気と浪費に悩まされあげくの果てヘンリーは不治の病に犯されます。シャーリーを不憫に思ったローラはヘンリーに悪の手をさしのべます。

第3章ルウェリン

この章で一気に話は人生論、哲学的色彩をおびてきます。俗世に戻ったルウェリンは再婚したリチャードの家を抜け出して1人カフェで酒を飲んでいるシャーリーと出会います。誰からも愛されていたシャーリーですが本当に愛していたヘンリーを失った悲しみから逃れられず不幸だったのです。

逆にシャーリーを愛しすぎてシャーリーに重荷を与えていたローラもやはり不幸だったのです。そんなローラに暖かい眼で「愛しすぎてはいけない。自分に愛を受けることを知らないといけない」と忠告していたボールドックの言葉は正しかったのです。

第4章で出会ったルウェリンとローラ。2人に愛が芽生え、初めてローラは人に愛される喜びを知ります。

この作品は淡々と話が進み読みやすかったですが内容はかなり重いものがありました。親は自分の子供に対して平等に愛情を与えないといけないし、夫婦はお互いを尊重しないといけない。そして愛情は与えるだけではいけないし、受けるばかりでもいけない。

両方のバランスがくずれるとそれは悲劇を生む元凶になるということをつくづく考えさせられました。

クリスティ自身が離婚し、再婚した経験から愛というものの本質をメアリの名で考えてみたかったのではないかと思いました。

ポアロ、マープル物といった探偵小説では味わえない人間の心にあるものを垣間見たような気がしました。去年の春ちょうど一年ほど前に読んだ「春にして君を離れ」を思い出させてくれた味わい深い一冊です。

全く余談ですがあとがきの馬場さんの解釈は無視してよいと私は思いました。(本読むのに顔は関係ない!)

登場人物

ローラ.フランクリン 長女

シャーリー ローラの妹

アーサー ローラの父

アンジェラ ローラの母

チャールズ ローラの兄、長男、死亡

ジョン.ボールドック 学者、アーサーの友人

ヘンリー.グリンエドワーズ シャーリーの夫

エセル メイド

レディ.ミュリエル.フェアバラ ヘンリーの伯母

サー.リチャード.ワイルディング 旅行家

ルウェリン.ノックス 伝道者

2022.4.2記

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満潮に乗って

シェイクスピア「ジュリアス.シーザー」四幕三場

およそ人の行いには潮時というものがある

うまく満潮に乗りさえすれば運はひらけるが

いっぽうそれに乗りそこなったら人の世の船旅は災厄つづき、浅瀬に乗り上げて身動きがとれぬ。

いま、われわれはあたかも満潮の海に浮かんでいる。せっかくの潮時に流れに乗らねば賭荷も何も失うばかりだ。

感想

1948年に発表されたこの作品はポアロ物には珍しく戦争色の濃い作品となっております。

WRNSから故郷に帰ってきたリンが田舎の風景をながめながらくつろぐシーンには松本清張の情景描写が思い出されます。戦争によってゴードンという後ろ楯を失ったクロード一族とゴードンという宝を得てそれを失うまいとするデイビッド兄妹の戦いが見事に描かれています。

知略を巡らせたトリックも見もので、最近読んだポアロ物の中では傑作だと思いました。

ロザリーンはこの中では弱い存在で、あわれな人でした。逆にリンは自分の頭で考え、自分の足で立っていける強い女性で、だからこそデイヴィッドに強くひかれるんですね。そのリンを失うまいとするローリィ。朴とつでちょっとどんくさいイメージですが、こういう普段おとなしい人に限って、キレたら何するかわからないところがあります。直接ではないが人を殺した事に変わりはないのにおとがめなしとは。ポアロちょっと優しすぎたのでは。デイヴィッドだけが捕らえられるのは不平等じゃないでしょうか。

リンが「年月を経ると人間は変わる」と言うのに対し「人間は本質的には変わらない」と言うポアロ。デイヴィッドにひかれながらもローリィに殺されかかってローリィの本質を知り、ローリィを愛していると確信したリンですが、大丈夫かなああの二人結婚して。浮気でもした日には確実に殺されそう、お互い。

最後にこの作品では登場人物たちの人間くさい感情、妬み、恨み愛情といったものがドロ臭いくらいに描かれていて、はまりこんで読んでしまいました。ポアロの人情も感じられ、戦争というものが一夜にして人間の生活を変える恐ろしいものだとつくづく考えさせられました。

登場人物

ゴードン.クロード 百万長者、故人(ファロウ.バンク)

ロザリーン ゴードンの若い未亡人

ジャーミィ.クロード ゴードンの兄、弁護士

フランセス.クロード ジャーミィの妻、息子アントニー、メイドエドナ

エドワード.トレントン卿 フランセスの父

ライオネル.クロード ゴードンの弟、医師

ケイシィ(キャサリン) ライオネルの妻

アデラ.マーチモント ゴードンの姉

リン.マーチモント アデラの娘、WRNS(ホワイトハウス)

ローリィ.クロード ゴードンの甥、モリスの息子(ロングウイロウズ)

ジョニー.ヴァヴァサー ローリィの友人、故人

ロバート,アンダーハイ ロザリーンの前夫、故人

デイヴィッド.ハンター ロザリーンの兄

ビアトリス.リピンコット スタグ(旅館)の主人、リリイ

スペンス警視 オーストシャー警察捜査主任

ポーター少佐 ロバート.アンダーハイの友人(コロネーションクラブ)、メロン少年

イノック.アーデン 死んだ人

ミセス.リードベター スタグの年よりの人

アイリーン.コリガン ゴードンの小間使いだった女

チャールズ.トレントン フランセスのいとこ→アーデンに化けた男

ウォームズリーヒース 都会

ウォームズリーヴェィル 山村、リンたちの住んでいる場所

メイフェア ロンドンの一等地

イノック.アーデン 詩人テニスンの作

久闊を叙する 無沙汰をわびる

2022.3.28記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

死への旅

この作品は1954年に発表されたアガサクリスティのノンシリーズでカテゴリーではスパイスリラー物に属しています。

東西冷戦下のヨーロッパでは有名な科学者が次々と謎の失踪をとげており、ある科学者の妻の足どりをたどって、どこに行っているのかを情報部の人間が探ろうとするお話です。

読んだ感想はずばりSF物を読んだ気分でした。主人公のヒラリーが施設の建物に入って「まるで異次元の世界へ迷い込んだみたい」と言っていますが、私もそっくりそのまま異次元の世界の話を読んでる感じがしました。何にせよ、現実味が全くありません。

夫に浮気され、子供を亡くし、失意のどん底にあるヒラリー。外国に旅行し、異国で自殺するつもりが、その容姿がトーマスの妻オリーブに似ていることからスパイに雇われ、特訓を受け死への旅に出るあたりはどうなるんだろうとわくわく楽しみでした。が、「アガサクリスティ完全攻略」の本にも書いてありましたが、まさしく「有閑婦人の観光旅行」がぴったりするように優雅にすらすら話が進んでいきます。

途中、飛行機事故(見せかけですが)に遭遇した際に真珠のネックレスを引きちぎり、道中パラパラ真珠を落としていったり(まるでヘンデルとグレーテルのお話ですね)夫のトーマスと再会するときに「この人は私の夫じゃない!」と演技するとか、修羅場は少しはありましたが、暴力を受けるでもなく、どこかに監禁されるでもなく「スパイごっこ」が続きます。

そのうち生きる気になっていきますが、これは同行していたアンドルー.ピーターズに恋したせいでしょう。話の中で「女は順応しやすい生き物」とありましたが、本当にそのとおりです。

彼女のニセの夫トーマスは全くいいところなしでした。それに元妻の発明を横領してるわ殺してるわ、最後は逃げようとするわ最低、最悪の男です。

逆に活躍したのは情報部のジェソップ、ルブラン、そしてアンドルーの3人でこの人たちの終盤の活躍するさまは見事で読んでて楽しめました。

アリスタイディーズの言う「パックス,サイエンティフィカ」(科学者が支配する平和な世界)の世界はまるで現代のオウム真理教を思わせます。あと思ったのはイギリス、フランス、ドイツ、北欧といろいろなヨーロッパの国の人が登場しますが同じヨーロッパ人でもよくみわけがつくのですね。私はさっぱりわかりませんが、、、。そして物語の背景のマラケシュ、フェズ、カサブランカ、アトラス山脈といった東洋、アラブの地域の風景をいつか見てみたいです。

登場人物

トーマス.ベタートン 失踪した科学者、前妻エルダ(ZE核分裂)

オリーブ トーマスの妻

ボリス.グリドル少佐 トーマスのいとこ(ポーランド人)

ヒラリー.クレイヴン 自殺を望む女

ジェソップ イギリス情報局員

カルヴィン.ベイカー夫人 アメリカ人(連絡将校)

ミス.ヘザリントン イギリス人

マドモアゼル.ジャンヌ.マリコ 旅行者

アンリ.ローリエ フランス人

アリスタイディーズ 大富豪(ギリシャ人)

アンドルー.ピーターズ アメリカ人、科学者

トルキル.エリクソン 北欧人、物理学者

バロン フランス人、細菌学者

ヘルガ.ニードハイム(修道女) ドイツ人、内分泌学者

ポール.ヴアン.ハイデム オランダ人の大男

ドクター、ニールスン 副所長

サイモン.マーチソン 科学者

ビアンカ サイモンの妻

ルブラン フランス情報部員

オリーブの最後の言葉

ボリスは危険 雪

2022.3.25記