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アガサ・クリスティー 読書感想文

マギンティ夫人は死んだ

おいしい食事を終えて、旧友ヘイステイングズを思い出しながら帰宅したポアロを待っていたのはもうじき退官するスペンス警視。

彼はポアロに死刑の判決が出ている容疑者だが、自分には彼が犯人に思えない、ポアロの腕を見込んで事件を洗い直してほしいと頼まれ、調査に乗り出すポアロ。名探偵と名乗っても誰も信じてもらえず、下宿屋でボロい部屋とまずい食事にへきえきするポアロが愉快。

聞き込みで夫人が買ったインクのビンから新聞への投稿や見た記事からヒントを得て捜査に乗り出したポアロでしたが訪ねる家のとの女性も皆怪しく思われました。

戦争のせいで昔の身元等を調べる書類がないことも一因で、さすがのポアロも手を焼いていて、こっちも成り行きをはらはらしつつ読んでいました。

今回の事件は被害者がつましい庶民の婦人で、まわりの人物も一般人が多く(アップワード夫人とカーペンター氏はブルジョアですが)大富豪の死と相続人たちの争いが多いポアロの殺人事件とは違う新鮮味がありました。

ですが、真犯人はやはり金が目的だったので、その保身のための殺人だったので、犯罪にお金が絡んでるのは世の万人に共通するのですね。

この作品には昔の事件も重要なキイワードになってます。そのため昔の事件のあらすじや名前も理解がいるので、確認しつつ読むのがちょっとめんどくさかったかも(笑)

カーペンター夫人やレンデル夫人が自らの後ろめたい過去をポアロがマギンティ夫人の件にかこつけて調べてると思われ、ポアロが電車に引き殺されそうになったりして危うい時もありました。

犯人像は私の予想と全く外れてて、もしかしたらオリヴァも危なかったかもしれませんね。なんせ犯人と長い時間一緒に仕事してたんですから。

あとモード.ウィリアムズの過去も意外でした。

それにしても風采のあがらないジェイムズ.ベントリーが、モードやテアドリーに好感度高いので、彼はいい人間だったのです。

だからスペンス警視も犯人と思えなかったのですね。

今回はオリヴァのいう女性のカンではなく、ポアロの秩序と理論が的を得ましたが「干し草の山の中から一本の針を探し出す」とポアロのいう通り、サスペンスと意外性に満ちた、犯人探しに骨の折れる事件でした。でも読後感はすっきり。

ベントリーのその後のロマンスを祈ります。

登場人物

マギンティ夫人 掃除婦

スペンス キルチェスター警察の警視

ジェイムズ.ベントリー マギンティ夫人の間借人、ブリーザー&スカットルズに勤務していた

モーリン.サマーヘイズ ロング.メドウズ下宿のおかみ

ジョン モーリンの夫、少佐 父大佐

ベッシー.バーチ マギンティの姪

ジョー ベッシーの夫

モード.ウィリアムズ スカットルズ商会の女事務員

ミセス.スイーティマン 郵便局

ミス.パメラ.ホースフオール 新聞記事書いた女

ドクター.レンデル 医者

シーラ その妻、犯罪小説好き

ローラ.アップワード 未亡人、ラバーナムズ

ロビン.アップワード 劇作家 

ロジャー.ウェザビー テアドリーの継父

エディス ハンターズクロウズ

テアドリィ.ヘンダースン エディスの娘

ガイ.カーペンター 工業会社経営者

イヴ ガイの妻、元ミセス.セルカーク

アルバート.ヘイリング 駐在巡査

11/9(日)日曜の友新聞4つの事件

エヴァ.ケイン クレイグ事件、娘イブリン.ホープ(イブリンは男、女どちらでも使える名前)男1人、女1人(モード)

ジャニス.コートランド

リトル.リリイ.ガンボール

ヴェラ.ブレイク

2022.2.24記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

運命の裏木戸

1973年発表のこの作品は「カーテン」「スリーピングマーダー」が先に執筆されていたことを思うと実質的なアガサクリスティ最後の執筆作品になり、又トミー&タペンスシリーズの最後の作品となります。

登場人物はほとんど70~100才位の老人で、トミーとタペンスも70代の老人になっています。

話はほとんど会話で進み、それも日常生活のやりとりが大部分。話のテンポも「秘密機関」に比べて超スローモードに進むのでちょっと退屈かも。

新居に引っ越した二人。

タペンスが本の整理をしてるとき、たまたま手にした本にアンダーラインが引かれているのを見つけ、それに隠された暗号から謎解きが始まります。相変わらずタペンスの好奇心の強さにはほれぼれしますが、それが政治的背景を持ったスパイ問題にまで発展するのはちょっと話が大きすぎじゃないかとは思いましたが。

トミーが諜報機関で働いていた事もあって懐かしい人物がたくさん登場してるのにはびっくりしました。

「フランクフルトへの乗客」での大ボスのロビンソン氏、ホーシャム氏、たばこの煙とセットで現れるパイクアウェイ氏。あと「NかMか」での思い出話やその時に訳あって彼らの養女となったベティの話も出るので、トミー&タペンスのシリーズはやはり順番に読んだ方が理解が深まります。

ただストーリー的には老人の会話から出た言葉や人物、出来事から昔の事件をたどっていく形なので、まだるっこしく、よくわからないうちに殺人事件が起き、あっという間に殺人犯が捕まってるわ、歴史的な問題は上記のお偉方が解決した、といったあっけなさがあって、物足りない感じがするのはクリスティ最晩年の作品だけに仕方ないかもしれません。

ただそれも老齢にさしかかった者が昔を懐かしがる心境と思って、少し時間をかけてゆったりした気持ちで読んでいただきたいと思います。

愛犬ハンニバルとのやりとりや子供たちとの会話はとてもほのぼのとしていて心暖まるものでした。

さようならトミー&タペンス。1つのシリーズ物を読み終えた喜びよりはもう話の続きがないと思うと寂しい感じがします。

あとがきを書かれた大倉先生のいう「記憶消去装置」なるものがあればいつでも未知の話にドキドキできるのにね。

これからトミー&タペンス物を読まれる方、どうぞ二人のワクワク大冒険の世界にお越し下さいませ。波乱とウイットに富んだ楽しい世界が待ってますよ❗

登場人物

ハンニバル 愛犬(マンチェスター.テリア)

アイザック.ボドリコット 庭師

アルバート 召使 妻エミー

アレグザンダー.リチャード.パーキンソン 14才で死月桂樹荘元住人

ミセス.グリフィン 最年長の女性 昔は大物

ベアトリス 通いの手伝い

グエンダ 店員

メアリ.ジョーダン パーキンソン家の育児係

アトキンソン大佐 トミーの友人

ヘンリー アイザックの孫

クラレンス ヘンリーの友人

ノリス 警部

アンドルー、ジャネット、ロザリー 二人の孫

デボラ、デリク、ベティ 息子 娘 養女

ロビンソン 諜報員 黄色い大男

パイクアウェイ、クリスピン氏(ホーシャム)、 諜報員

ミス.コロドン 調査員

ヘンダースン夫人 パーキンソン一家を知っている

ジョナサン.ケイン 反政府のリーダー

一言メモ

ゼンダ城の虜

1894年出版アンソニー.ホープ作ルリタニア王国 ルドルフ.ラッセンディル男爵 フラビア姫 次作ヘンツォ伯爵 米英で冒険とロマンの王国の代名詞

キツネノテブクロ 毒草

トルーラブ 木馬

マチルド 揺り木馬

燕の巣荘 昔の月桂樹荘

オックスフォード、ケンブリッジ ボートレースの賭け

grin hen Lo ローエングリン ワグナーのオペラ

2022.2.16記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

象は忘れない 

この作品は1972年発表の実質的にアガサクリスティが執筆したポアロシリーズ最後の作品です。

年老いたポアロとアリアドニ.オリヴァとの会話から話が進行します。

オリヴァは出席したパーティーで、ある婦人からある事を依頼されます。自分の息子と婚約中のオリヴァの名付け子シリアの両親は彼女が幼い頃に心中自殺を遂げているが、どちらがどちらをピストルで殺したのかを調べてほしいと言います。

困ったオリヴァが友人のポアロに相談。ポアロも引き受け、真相を探るべく昔の仲間に情報を集めていきます。

オリヴァの方は昔の友人たちに話を覚えていないか訪ねてまわりますが、皆何かは覚えていても忘れていることも当然多く(特に名前に至っては)なかなか全容がつかめません。

ポアロも昔の警察仲間に相談します。その時の会話で過去にあった事件の回想シーンは次のようなものでした。

「メニューのなかでほかのところを探すようにそこにあるものを探す」

「その人たちは知らないが、その場にいた他の人からその人たちのことを聞く」(五匹の子豚)

「パーティーで女の子が殺人の現場を見たといった」(ハロウィーン.パーティ)

「あらゆる証拠が明白な事実を示している。すべて順調に片づいた。なのにあの事件はどこから見てもおかしい」(マギンティ夫人は死んだ)

昔の事件ながら、どうもすっきりしないまま過ぎ去った事件を解明する話はクリスティの他の作品にも多く出てきます。

二人の協力でようやく真相が明らかになりましたが、それはとても悲しい切ないものでした。双子とその双子両方に愛された男性との愛情物語。これも確かに一種の心中だと思います。

オリヴァとポアロの探し方の違いもありましたが、「犯罪には必ずお金がからむ」というポアロの鋭い意見は確かでした。

この作品は年代も1970年代と新しく、二人の円熟した会話から、ポアロ作品も終盤にさしかかったことが意識されました。

オリヴァの最後のセリフが何とも切なくてポアロ作品で初めて涙が出ました。

「象は忘れない。でも私たち人間は忘れることができるんですよ」

スペンス警視の母

「過去の罪は長い影をひく」

わが終わりにこそ初めはあり。わが始めにこそわが悲しき終わりはあり

登場人物

アリアドニ.オリヴァ 探偵作家

ミセス.バートン.コックス 未亡人

デズモンド バートン.コックスの養子

シリア.レイヴンズクロフト オリヴァの名付け子

ミス.リヴィングストン オリヴァの秘書

アリステア.レイヴンズクロフト シリアの父、元将軍

マーガレット シリアの母(モリー)

ドロシア.プレストングレイ マーガレットの双子の姉

スペンス 元警視

ギャロウェイ 元主任警視(当時捜査に当たってた)

ジュリア.カーステアズ オリヴァの友人

ミセス,マッチャム オリヴァの友人

ミセス.マーリーン オリヴァの友人

マディ.ルーセル(フランス人) シリアの家庭教師

ゼリー.モーウラ シリアの家庭教師

ローズンテル 美容師

ウィロビー 医師

ミスター.ゴビー 情報屋

エドワード シリアの弟

2022.2.17記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

エッジウェア卿の死

この作品は1933年に発表されたエルキュール.ポアロの活躍する推理小説のうちヘイステイングズのクールな語り口で語られる作品の1つです。

ヘイステイングズの語り口で進行される作品にはどことなくクールなイメージがただようものが多いですが、これもその例にもれず、シーンとした少し邪悪な雰囲気が冒頭から感じられます。

読み始めからなぜかとても嫌な感情がわき起こりました。

内容はとても気になるけど早く読み終えてしまいたい嫌悪感というか、いっそ読むのをやめようかと思ってしまう拒否感というものが出てきたのです。

私にとって苦手なものだと本能が告げていました。

なんとなく気乗りしないながらも読んでいくうちにその理由がわかりました。

この作品には究極のサイコパス人間が登場しているからです。

その人物は女優でありエッジウェア卿夫人であるジェーン.ウィルキンスン。ポアロが一目見て、この女性は危険な人生をわたる人だと見抜いていますがまさにその通りの人生を歩みます。

ポアロと会っていきなり「夫と離婚させて」とか頼むやら、ポアロのことを「猫のお髭さん」なんて呼ぶやら、夫が死んだのに衣装のことしか頭にない、そばにいて一番嫌なタイプの女性です。

ポアロが自分で失敗作だというこの事件、一番怪しいジェーンには鉄壁のアリバイがあって、犯人探しも難航を極め、詠んでいても捜査が空回りしている感が強かったですが、そこはポアロ。

たまたま通りがかりの通行人の一言の「エリスに聞いてみるべきだ」でヒントがひらめき、事件が一気に解決に向かったときは私もホッとしました。

ジェーンの最後の手紙を読んだ時には憎むべき人間ながら、正常な人間の心を持たないのはある意味悲しい人だと思いました。

PSの一行には彼女の全てが表されていますね。

ポアロも手を焼いたこの事件、サイコパスの恐ろしさと、それと反してポアロのヘイステイングズ大尉に対する深い信頼が感じられるセリフが印象に残ります。

「君には犯罪者の気持ちを見抜く洞察力があります。正常な均整のとれた精神の持ち主だ」

愛すべきヘイステイングズ大尉。

私の一番好きなキャラクターです❤️

登場人物

ジョージ.アルフレッド.セント.ヴィンセント.マーシュ エッジウェア男爵4代目

ジェーン.ウィルキンスン エッジウェア卿妻、女優、アメリカ人

カーロッタ.アダムズ 女優、アメリカ人、アメリカに妹

ブライアン.マーティン 映画俳優

マートン公爵 若い大貴族、ジェーンが再婚したがってる

ウィドバーン夫妻 ジェーンと同じテーブルにいた人たち

ロナルド.マーシュ エッジウェア卿の甥(丸顔の男)

エリス ジェーンのメイド

キャロル エッジウェア卿の秘書

アルトン 卿の執事、美男子

ジェラルディン.マーシュ 卿の先妻の娘

ヒース 医者

アリス.ベネット カーロッタ.アダムズの世話人

ジェニファー.ドライヴァー カーロッタの親友、帽子

サー.モンタギュー.コーナー 晩餐会主催者

ドナルド,ロス 晩餐会にいた男

雑学

エキセントリック 個性的な普通でない性格、変人のプラスの言い方

猫のお髭さん すばらしい方という古風な言い方

ヴェロナール 麻薬

シンメトリー 左右対称であり、バランスがとれている状態のこと 反対の言葉アシンメトリー

モノローグ 舞台、演劇において登場人物が自らの心境を吐露すること、心のつぶやき

半畳を入れる 芝居で見物人が役者の芸に不満なとき敷いている半畳を舞台に投げ入れる、他人の言動に非難やからかいの言葉をかける

2022.2.16記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

鳩のなかの猫

この作品は1959年発表、アガサクリスティ69才の時に描かれた、有名女学校を舞台にした学園もののサスペンス物語です。

女学校とエルキュール.ポアロとはちょっと結びつかないと思いましたが、読んでみるとなかなか面白い作品でした。

まず、登場人物が数人除いてみな女性だという事。教師、生徒、保護者とたくさん登場しますが、それぞれの個性や容貌が詳しく描かれていて、又個性豊かな人が多いので、会話のやりとりだけでもわくわくしてくる事。そのへんは女性の心理を描くのが得意なアガサクリスティの腕が光っています。

そして学校生活の中でのやりとりが主なので学園ドラマみたいな親近感があるので抵抗なくすらすら読み進めます。

あと、中東のお国の革命、殺人事件、誘拐事件、宝石探しと内容が盛りだくさんなので、学園サスペンス中心とはいえ、謎ときにスリルがあって最後まで飽きさせなかったです。

今回はポアロの登場がページ数で3/4程進んだところでやっと始まるのと、その出番もオブザーバーというかドラマでいう友情出演みたいな感じで、ポアロファンには物足りない感じがあったかもしれませんね。

それでもポアロの登場で、それまでの謎が一気に解けていく感があるのはさすがです。

話の中にありましたが、もつれた毛糸のかたまりから求めている一色の糸を抜き出すような作業、いいたとえです。

そして会話の中にはいくつかの伏線があります。軽く読んでいると後で重要だった事が出てきますので注意がいります。

例えば最初の方のボブが姉の部屋に入ってある事をしているシーンを隣室から覗く女の存在、校長先生と話をしているアップジョン夫人が誰かを見てびっくりしているシーンとか。私もあとで見直したくらいです。

そしてアンジェリカ、バイクアウェイ大佐、ロビンスン、アダム.グッドマンたちの存在でスパイ物のスリルも充分味わえます。

中東のラマット王国の革命話は昔話みたいな感情しました。血なまぐささがなくて、もしかして国王とボブがどこからか出てきそうで。

先に読んだ「フランクフルトへの乗客」が世紀末感ありすぎだったので余計にそう感じたのかもしれません。

女性同士の嫉妬、妬みや愛情といったものがよく描かれていて、最後は国王の

落とし種まで現れて、最後までほんわか感あふれる作品だったと思います。

メドウバンク校に明るい未来が来ることを祈っています。

謎が1つ。国際紛争を回避すべく活躍するロビンスン氏は何者?

鳩の群れの中の猫

騒ぎ、面倒を起こすという意味の英国流の言いまわし

登場人物

エレノア.ヴァンシッタート ドイツ語と歴史の先生

オノリア.バルストロード メドウバンク校の校長

チャドウィック 数学の先生 メガネ、猫背

アン.シャプランド 校長の秘書、35才、彼氏デニス

エルスペス.ジョンソン 寮母

アンジュール.ブランシュ フランス語の先生、新任

アイリーン.リッチ 英語と地理の先生

ローワン 経済、心理学、やせ浅黒

ブレイク 物理、植物学、ぽっちゃり、色白

グレイス.スプリンガー 体育の先生、新任(前任ジョーンズ先生)

シャイスタ 王女(イブラヒム大公の姪)

ジュリア.アップジョン 生徒

レディ.ヴェロニカ.カールトン.サンドウェイズ 酒飲み

アリ.ユースフ ラマット国国王

ボブ.ローリンスン 国王のお抱えパイロット

ジェニファー.サットクリフ ボブの姉、

ジョン.エドマンドスン 外務省、ボブの友人

ロニイ(アダム.グッドマン) 園丁

バイクアウェイ 公安課大佐

ロビンスン 謎の男

アンジェリカ.デ.トレド ジュアン.サットクリフ隣室の女

ケルシー 警部

ヘンリー,ハンクス 理事長

ブリッグズ 年長の園丁

ギボンズ コック

2022.2.8記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

ホロー荘の殺人

1946年発表のこの作品、ポアロが登場する他の推理小説とは違って、主要な登場人物のキャラクターや心の動き、感情といったものがとてもきめ細かに描かれています。

まず冒頭に登場するルーシーですが、やかんはかけっぱなし、人の寝室に早朝から勝手に入ってくる、話は次々目まぐるしく変わっていくといった、人の気持ちやあとの事を全く考えていない等々、中頃では殺人事件を面白がっているようなセリフを平気で言ってたりして、この人は究極のお嬢様か、はたまたサイコパスかと思いました。(お嬢様は確かにそうですが)

次にヘンリエッタ。

真理を追求する芸術家であって、ポアロですら一目置く冷静さと判断力に富む女性。美貌の持ち主で男性にはモテまくり。「私はジョンの愛人だったわ」なんて自分から白状する正直な人。

そしてガーダですが、容姿は冴えず平凡で知性はなく、全てジョンの言いなりになっているダメ妻と周囲の者からはバカにされながらも、ジョンには深い愛情を持っています。

そして内心では自分はそんなにバカじゃないのよ、と思っていて意外に賢い女性。人を自分に都合よく使える人でもあります。

この話は全体的にオブラートに包まれているような、殺人事件は発生はしますが、血なまぐさくなく、舞台の一場面のような現実離れしたイメージがあります。

それというのも殺人のトリックとか証拠品といったものよりも人の心の情景を描くのに重点がおかれているのかと思います。

そういう意味ではこの物語にあえてポアロが出る必要なかったんじゃないかと私は思いますし、ポアロ自身も傍観者としての立ち位置に徹しています。

ついでにヴェロニカもいつの間にか話から消えてるので、ジョン殺害のきっかけを作っただけで、本筋から見たらいらない人かも。

この話で一番幸せになったのはミッジですね。エドワードがミッジを彼女が働く店から連れ出すシーンが一番印象に残りました。二人の考え方の相違が貴族と労働者階級との違いとなって表れています。

この話の主役としてヘンリエッタの心の描写が多く描かれています。が同時にガーダに対する作者の純粋な愛に添い遂げさせたいという深い優しい愛情が感じられます。

陽のヘンリエッタが明るく輝けば輝くほど、陰としてのガーダの存在がはっきり浮かび上がってくるような二人の関係。

この話は「春にして君を離れ」を思わせる心理描写が長く、読むあいだ中、うっ屈とした気持ちが常にあって、その気持ちから逃れたくてほぼ一気読みした一冊です。

今回は少し影が薄かったポアロですが、名セリフがいくつかあります。

さすがポアロ

ポアロ名セリフ

「ほんとの手がかりは関係者の人間関係の中にあるものですよ」

ポアロがヘンリエッタに言った言葉

「人間の真の悲劇は求めるものを手に入れることである」

これはまさしくジョンに当てはまります

総論

灰色の脳細胞より嗅覚

(さなぎ感想)

登場人物

ヘンリー.アンカテル卿 行政官

ルーシー ジョフリーおじさまの一人娘

ミッジ.ハードカースル

ヘンリエッタ.サヴァナク 彫刻家

ジョン.クリストウ 医者

その秘書 ベリル.コリンズ

ガーダ ジョンの妻

二人の息子 テレンス12才

   娘 ジーナ9才

メイド ベリル、コリンズ

ディヴィッド.アンカテル

エドワード.アンカテル(エインズウィック相続人)ルーシーのいとこ

ガション 執事

シモンズ メイド

ヴェロニカ.クレイ 映画女優

エルシー.バターソン ガーダの姉

イグドラシル 樫の木

四阿 あずまや

2022.1.25記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

チムニーズ館の秘密

登場人物も次のとおりびっしりで、アンソニーの冒険物語、バトル警視の殺人捜査、宝石泥棒を探せ、ヘルツォスロヴァキアの王政復古、革命の歴史、等をごっちゃにまぜたようなこの作品は1925年発表のバトル警視が初登場する一大スペクタクル超大型作品に仕上がっています。

何せ話題が豊富すぎて、人物名、出来事をメモっておかないと何が何だかわからなくなってしまいそうで、読み進めるのも大変でした。その分読後感はまとめて2冊分読んだくらいの達成感がありました。

主要人物のキャラクターがジェームズ.ボンド顔負けの個性派ぞろいです。バトル警視は頼もしくて冷静沈着、愛嬌たっぷりの行動派アンソニー、楽天家でユーモアたっぷりの才色兼備ヴァージニア。

この3人で別の物語がいくつも造れそうです。それとケイタラム卿の生まれながらの貴族的、優雅な快楽主義者。何事もよきにはからえ、のユーモラスなキャラも憎めないです。

逆に大泥棒キング.ヴィクター。最後捕まりましたが、あまり印象に残らなかったですね(他のキャラが個性的すぎて)

アンソニーがニコラス王子というのもびっくりでしたね。ファンタジーとしても楽しめました、この作品。

夜中の検討会のシーンが印象に残りました。この時の会話で話の内容がつかめましたし。

ところどころのバトル警視のセリフがこの作品の見どころをつかんでいて味わい深いです。

「アマとプロが協力しあい、互いの持ち味を生かした仕事をする。一方は知識、一方には経験がある」

「上流階級の人間は恐れることを知らず、ウソをつかず、時々まったくばかげたことをする」

アンソニーの生まれ持った高貴な血は争えないのです。皆が彼に対して好感を持つし、ポリスは自分の主人として仕えるし。

この話の続編「七つの時計」には、バンドルやビル、ケイタラム卿が活躍するそうで、そっちも楽しみです。バトルとポアロが登場する「開いたトランプ」も気になります。

てんこ盛りの登場人物

アンソニー.ケイド キャッスル旅行者案内役、ニコラス王子(ミカエル王子のいとこ)

ジェイムズ,マグラス ケイドの友人

ヘルツォスロヴァキア(オボロヴィッチ王家)

前国王 ニコラス四世 7年前暗殺

女王 パリの芸人、ポポフスキ女伯、ヴァラガ女王、アンジュール.モリ

ミカエル.オボロヴィッチ王子(スタニスラウス伯)

従者 ポリス.アンチューコフ

侍従武官 アンドラーシ大尉

スティルプティッチ伯 ヘルツォスロヴァキアの元首相、パリで死亡

ケイタラム卿 チムニーズ館所有者、9代目クレメント.エドワード.アリステア.ブレッド

8代目 兄ヘンリー、細君アルミア

娘 バンドル(アイリーン)

執事 トレドウェル

ジョージ.ロマックス(コターズ) イギリス外務省高官(ワイヴァーニー.アビー)

秘書 ビル.エヴァズレー

ヴァージニア.レヴィル ロマックスのいとこ(元夫ティム)

その妹 ダルシー、ティジー(ガーグル、ウィンクル)

ハーマン.アイザックスタイン 全英シンジケートの代表

ロロプレッティジル男爵 ヘルツォスロヴァキア王政擁護者(ロロポップ)

ジュゼッペ.マネリ ロンドンのホテルのウェィター

ハイラム.P.フィッシュ チムニーズ館の客、アメリカ人(実はアメリカの探偵)

バトル警視 ロンドン警視庁刑事

メルローズ大佐 州本部長

バジャリ警部、ジョンソン巡査、州の警察

ルモワール パリ警視庁刑事

ブラン ケイタラムの仏家庭教師、ジュヌヴィエーヴ、ブルテイユ伯夫人の紹介

ウインウッド教授 暗号のプロ

キング.ヴィクター フランスの宝石泥棒(キャプテンオニール)

レッドハンド党 王政反対派

ジョリー.クリケッターズ アンソニーの泊まった宿屋

ボールダーソンアンドホジキンズ社 回顧録を渡す新聞社

グラナーズキャッスル号 アンソニーがイギリスへ渡った船

ブラワーヨ アフリカジンバブエの市

ヘルツォスロヴァキア バルカン諸国の一つ 首都エカレスト

コーイヌール 世界最大のダイヤモンド

2022.1.21記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

ゴルフ場殺人事件

この作品は、1923年に発表されたポアロが登場する長編2作目で、彼の相棒アーサー.ヘイスティングズ大尉のロマンスが描かれてます。プロローグからいきなりヘイスティングズと運命の女性シンデレラとの出会いがほほえましく描かれていて、いったんはイギリスへ戻りますが、フランスが舞台となるこの作品、フランス的なロマンチック感と悩ましい香水が匂いたつ、ミステリアスな雰囲気に包まれています。

ただ、初期の作品なため、後期の作品に比べると人物像が大ざっぱだったり、会話がぎくしゃくしてたりとか思わないでもないですけど。

例えば、落とし物の鉛管一つでも、ジロー警部が「こんなもの」と言ったものが、ポアロが「非常に大切な物」と言ってたけど、後で思ってもそんな重要な物だったの?と、いまいわからなかったり。

ストーナー秘書がもしやルノーの夫人と愛人関係か?と疑ったりしても、この秘書のキャラクターの描写がほとんど書かれてなかったり、第2の殺人被害者の男にしても、そんなにうまく急死するの?都合良すぎだわ、とか疑問に残ったのはいくつかあります。

ただポアロに敵対する(?)ジロー警部のキャラクターは単調になりがちな捜査にいいスパイスになっていましたね。

ガチガチのおれ様的な自意識過剰男で、ポアロも自意識高いですが、しょせんポアロの頭脳にはかなわなかったのが愉快。TVドラマでは最後は握手交わして友好的になっていました。

あと、女性のキャラクターは際立っていますね。

マダム.ドーブルーユはフランス悪女の典型的キャラで、その娘マルトに至ってはヘイスティングズに一目惚れさせるほどの美の持ち主。

この後シンデレラと再会しなかったら話が変わったかもしれません。

心の声

話にもありましたが、美しい女性に対する審判の目は甘いというのは現代人からするといかがなものでしょう。

女性の方がいざとなったら(恋人の為、子供の為)強いと私はおもいますが。

本題戻る

今回のヘイスティングズはポアロの邪魔はするわ、捜査の秘密をもらすわ、いいとこなしでしたが、最後には生涯の伴侶を手にして、めでたしめでたし。

邪魔だてされても笑って許せる愛すべきポアロの相棒ヘイスティングズ大尉のキャラクターが味わえた一作でした。あまりゴルフ場は関係なかったですね。

TVドラマではポアロたちの泊まるホテル名がゴルフホテルで、ゴルフ三昧のヘイスティングズがバンカーで死体を見つける設定になっているのでこっちの方がゴルフ場殺人ぼいかも。

TVドラマのエンドシーンでは先に別れたポアロが、シンデレラ(ドラマでは別の名前)を連れてきて、傷心のヘイスティングズと海岸で再会するのが何ともほほえましい。パパポアロのヘイスティングズに対する愛情あふれるプレゼントでした。

登場人物

ポール.ルノー ジュヌヴィエール荘主人

エロイーズ 妻

ジャック 息子

ゲイブリエル,ストーナー ポールの秘書

マスターズ 運転手

フランソワーズ 家政婦

オーギュスト 庭師

レオニー、ドニーズ.ウラール 姉妹のメイド

マダム.ドーブルーユ マルグリット荘主人(ジャンヌ.ベロルディ)

マルト 娘

シンデレラ ダルシー.デュヴィーン ベラの妹

デュラン 医師

マルショー 巡査

べー 署長

オート 予審判事

ジロー パリ警視庁の刑事

ジョルジュ.コンノー 弁護士

名セリフ

偉大な犯罪者は時として偉大な名優でもある

2022.1.13記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

死との約束

「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」というセリフで始まるこの作品、1938年に発表された中近東シリーズの第3作で、エルサレムを旅行中のポアロがヨルダンの古都ペトラで起きた殺人事件を追います。

今回は登場人物が比較的少ないのですらすら読めるかと思いましたが、医学用語や心理学を扱う医師同士の会話のやりとりが多いので理解するのがやや難解だったのと、犯行時の人々の動きがこと細かいため、しっかり時系列をメモしないと途中で訳がわからなくなるので、ぼんやり読み進められなかったです。

ですが、その分読みごたえは充分。

冒頭で先ほどの意味深なセリフを聞いたポアロはいったん退場しますが、第1部の事件が起きるまでのボイントン一家の子供たちのやりとりですっかり感情移入してしまいました。

昨年の日本版ドラマでは夫人役の女優、松坂慶子さんの暴君ぶりが見ものでした。

サラ.キングとジェラール博士の心理学に関するやりとりも難解でしたが、なるほどと納得できましたし、エルサレムの観光名所の描写がかなり延々と続きますが、これも興味深いものでした。砂漠の風景とかはTVドラマの方で映像でも楽しめました(話の内容は原作とかなり変わっていますが)

第2部でポアロは再び登場し、一人一人に話を聞いていくといういつもの展開です。が、皆夫人に対しては恨みを持っており、ポアロの推論ではどの人物にも犯人になり得るという。

もしかしてオリエント急行の殺人と同じパターンかな?とも思えました。

日本のテレビドラマを先に観てたので犯人は誰か知ってはいましたが、これはちょっとしたセリフや人物の行動をよく吟味しないとなかなか当てるのは難しいです。

「私は決して忘れませんよ、私は何一つ忘れていませんよ」恐ろしいセリフですが、この話の鍵は全てこのセリフに尽きると思います。

ポアロのセリフの「人間は真実を話すものです」だからこそポアロは人との対話を大事にするのですね。

この事件のあと、5年経って一族とポアロは再開しますが、一族は皆幸せになっていて読後感が清々しいです。

今はコロナ渦で行くこともかなわないですが、ナイル、メソポタミア、今またエルサレムと日本人にとって遠い、怖いイメージのある中近東の旅へ、いつか私も行くことができたら、と思いをはせるこの頃です。

登場人物

ボイントン夫人

レノックス 長男

ネイディーン その妻

レイモンド 次男

キャロル 長女

ジネヴラ 次女

ジェファーソン.コープ ネイディーンの友人

サラ.キング 女医

テオドール.ジェラール 医学博士

ウェストホルム卿夫人 婦人代議士

ミス.アマベル.ピアス 保育士

マ.モード 通訳

カーバリ大佐 アンマンの警察書著

犯行時の時系列

3:05 ボイントン一族、ジェファーソン 散歩に出る

3:15 サラ ジェラール博士散歩に出る

4:15 ウェストホルム夫人 ミス.ピアス 散歩に出る、夫人に声かける

4:20 ジェラール博士キャンプに帰る

4:35 レノックスキャンプに帰る、母の時計合わせる

4:40 ネイディーンキャンプに帰る、ボイントン夫人と話す

4:50 ネイディーン 夫人と別れて大天幕に行く

5:10 キャロル キャンプに帰る

5:40 ウェストホルム夫人、ミス.ピアス、コープ氏 キャンプに帰る

5:50 レイモンド キャンプに帰る

6:00 サラ.キング キャンプに帰る

6:30 死体発見 召し使いが見つける

2022.1.10記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

蒼ざめた馬

この作品は1961年発表のノンシリーズもので、アリアドニ.オリヴァ夫人が主人公の友人役で登場します。降霊会の細部にわたる詳しい描写や、呪いで人が死ぬ言い伝えの話等オカルト色の濃い作品となっていて、おどろおぞましいイメージがありますが、意外と軽妙なタッチで主人公の男性の一人称で淡々と述べられるアットホームな内容となっています。

これは多分主人公の性格によるものでしょう。

彼は友人が多く社交的で学者さんながら優雅というか暇というか独身生活を満喫している男性です。

ある殺人事件にひょんなことで関わるはめになって、事件を解明しようと(部外者なのに)乗り出します(おいおい仕事しろよ!)

その他の登場人物たちも個性的で楽しい人たちなので余計に話に彩りを与えています。

オリヴァ夫人はその場その場でいい塩加減を与えてくれるスパイス役。

パピーは一見お馬鹿キャラながらピンポイントで重要な意見を出していて、イケメン(きっと)ルジューン警部はさすがに鋭く、早い段階で犯人の目星をつけていましたね。

マークと一緒に行動するジンジャーは頭の回転が早く、おしどり探偵のタペンスを思い出させる行動派。病気にかかったときは姓名もコリガンなので死ぬんじゃないかと心配しました。

話がどんどんふくれ上がったわりに結末があっけなかったような気がするのが残念です。あの3人の魔女たちは最後どうなったのか、ヴェナブルズは本当にシロだったのか、国税局がマークする位だから何か悪いこと1つぐらいはあるんじゃないかとか思うところはありますが、まあ最後はハッピーエンドだったのでよしとしましょう。

蒼ざめた馬(Pale Horse)とは、死神がやっている時に乗っている馬の事で、マークのいとこローダの夫デスパード大佐は「ひらいたトランプ」に登場されるそうで後日再会できるのを楽しみにしています。「親指のうずき」の話をうわさ話で話す人が出てたり、「死者のあやまち」の話をオリヴァ夫人が語っているらしく、こういった話が随所に出てくるのは、ファンにとって嬉しいですね。

登場人物

マーク.イースターブルック 学者

アリアドニ.オリヴァ 推理作家

ゴーマン神父 司祭

ディヴィス夫人 ゴーマン神父が看取った女

ローダ.デスパード マークのいとこ

ヒュー.デスパード大佐 ローダのいとこ

ジム.コリガン 警察医

ルジューン 警部

ハーシャ.レッドクリフ マークの女友達

ディヴィッド.アーディングリー

 マークの友人

ポピー(パメラ.スターリング)

 ディヴィッドの女友達

ザカライア.オズボーン氏

 薬局の主人

ジンジャー(キャサリン.コリガン)

 マークの女友達

ケイレブ.デイン.キャルスロップ

 マッチ.ディーピング村の牧師

サーザ.グレイ 蒼ざめた村住人

シビル.スタンフォーディス 霊媒

ベラ.ウェップ 料理人

ヴェナブルズ プライアーズ.コートの持ち主

ブラッドリー 元弁護士

司祭と牧師の違い

牧師 プロテスタント、職名、教職者

神父 カトリック、正教会、呼び名、聖職者

子供からみると神父は学校の先生、牧師は塾の先生かな?

タリウム中毒

殺鼠剤として使われる 無味無臭の為殺人薬として使われる

淋病、梅毒、結核の治療薬

毛髪のケラチン生成が阻害され脱毛を起こす 白癬の治療薬

2022.1.6記