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アガサ・クリスティー 読書感想文

ヒッコリー.ロードの殺人

この作品の読みどころは大きく分けて3点あると思います。

まず登場人物がめちゃくちゃ多いです。

話の舞台が学生寮なので人物が多いのはいた仕方ないですが、後述の人物相関図を登場人物が出るごとにメモしておかないと後で確実に混乱します。アガサクリスティの話は概して登場人物が多いので有名ですが、この作品は九割が寮生なので、医者や弁護士、警察、司教、夫婦等の肩書きがありません。

それと、この事件の発端は寮内の盗難事件と物をズタズタにされた件なので、それもメモしとかないとこれも混乱します。

あと、どこの国の出身か、容姿、性格も話を理解するのに必要かも。

最初はミス.レモンのミスから始まります。完璧な仕事をするレモンがミスをするのでポアロがそれに疑問を感じ、その原因を探ろうとするストーリーが、他の作品にはないのがもう1つの読みどころです。ミス.レモンの姉が登場するのも意外な点です。

もう1つの読みどころとしては、学生寮内での犯罪なのでたいした事件じゃないだろうと軽く考えられそうですが、どうしてなかなか根の深い事件だという点です。

それからずばり言ってサイコパスの犯人が登場します。

ミス.レモンの姉、ハバード夫人は最初は学生の軽いいたずらだと思っていたようですが「これは警察を呼ぶべきです」と公言したことから話が進んでいきます。

学生たちの会話と警部、ポアロのやりとりが軽妙でテンポも早く話が進みます。

ただ実体は麻薬、宝石の密輸にからんだ根の深い犯罪で死者も3人も出てるので、このギャップにどうしても私は違和感を覚えてしまいます。

又サイコパスの息子を野放しにしていた父親も無責任ですね。

こんな状況下でも最後は1つのカップルが誕生するのはクリスティならではですね。

自分たちが遭遇した事件にくじけず明るい未来を切り開いてほしいものです。

この作品は1955年に発表され、ポアロがマザーグースの童謡を口ずさむシーンがあります。

時計が1つなり ねずみが駆けおりる

ヒッコリー ディッコリードック

軽快なリズムながらダークなサスペンスをどうぞ味わい下さいませ。あと、この作品にはマギンテイ夫人は死んだ」「ネメアのライオン」(ヘラクレスの冒険に収録)「葬儀を終えて」にからんでいるものがあるらしいのでそれも楽しみにしようと思います。

(大変な)登場人物たち

ミス.レモン(クリスチャンネーム フェリシティ) ポアロの秘書

ハバード夫人 レモンの姉、寮母

ニコレティス夫人 寮の経営者

寮生

パトリシア.レイン 考古学、眼鏡、指輪盗られる、良家の娘 30才位

ナイジェル.チャップマン 歴史学、やせ形、緑のインキ、ぼうぼうの髪

ヴァレイ.ホップハウス 服飾のバイヤー、美容院、スープの中に指輪、スカーフズタズタ ニコレティス夫人の娘

レナード.ベイトマン 医学部、大男、赤毛、父精神病、聴診器

サリ.フィンチ アメリカ人留学生、赤毛、夜会靴片方

アキボンボ 西アフリカ人留学生、呪術に興味

エリザベス.ジョンストン ジャマイカ留学生、法律、共産党、優秀、ノートに緑のインキ

ジュヌヴィエーヴ.マリュード フランス人、コンパクト他アクセサリー

ルネ.イレ

ジーン.トムリンソン 物理療法研究生

コリン.マックナブ 心理学、フランネルのズボン

シーリア.オースティン 薬剤師、ずんぐり、金髪、頭弱い、怯えている

ビグズ夫人 上の階の掃除婦

ジェロニモ コックの夫

マリア コック

チャンドラ.ラル、アハメッド.アリ トルコ留学生、ポルノ、エロ本好き

シャープ警部 

コッブ その部下

エンディコット弁護士 アバーネシー事件でポアロに借りがあるらしい

2021.12.17記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

マン島の黄金

①夢の家

②名演技

③崖っぷち

④クリスマスの冒険

⑤孤独な神さま

⑥マン島の黄金

⑦壁の中

⑧バグダッドの大櫃の謎

⑨光が消えぬ限り

⑩クイン氏のティーセット

⑪白木蓮の花

⑫愛犬の死

これは1997年に刊行されたアガサクリスティの短編集で、生前には収録されなかった初期の頃の新聞や懸賞小説全12編が収録されています。

①夢の中に出てくる家へのあこがれと恐怖を描いた幻想的な話

②有名女優の過去を知って脅しをかける男に対し、女優が機転をきかせて逆に男を退散させた、文字どおりの名演技が光るお話

③幼なじみの男性の妻の秘密を偶然知ってしまった女が、彼に言うかどうかで悩み、最後は自分も精神に異常をきたしてしまう

話に登場する牧師のセリフが鋭いナイフのように心を刺す

「誘惑を感じることなしに暮らしてきた人にもそれなりの瞬間は訪れます」

④ポアロの中編クリスマスプディングの冒険の原型で細かい描写は省略されているものの、子供たちに親しまれているポアロが新鮮

⑤小さな神様のご加護によって恋めばえる二人の姿が微笑ましい、クリスティの小説には珍しいハッピーエンドのラブストーリー

⑥マン島への観光誘致の目的で宝探しをする素人探偵の話

宝探しの解決法は私には読んでもよくわからなかったです(笑)

でもこういう小説があったとは意外でしたし、二人の探偵がトミーとタペンスを思わせてほほえましい

⑦天才画家といわれるアランには美しい妻がいるが、彼には気になる女性ジェインがいる。ジェインといると彼は無性にイライラし腹立たしくなる。その姿を見てジェインに激しい憎しみを覚える妻イザベル。男女の三角関係の心の中の葛藤を描く心理ミステリー

ホロー荘の殺人の原型

⑧省略

⑨西アフリカの蒸し暑いたばこ農園で死んだと思ってた先の夫に再会する幼妻の心の葛藤を描く

「春にして君を離れ」を思い出される舞台。でも彼女は今の夫ともう別れる気にはなれない。その彼女のセリフが切ない「光が消えぬ限り、私は忘れない。暗闇の中でも忘れない」

⑩クインとサタースウェィトが「恋人の小径」を歩いて別れた時から時を経て再会する。

クインの最後のお話、ありがとうとクインに呼びかけるサタースウェィト。感動のラストが切なさにじみ出る。

⑪逃避行の寸前で破産した夫のもとへ妻は戻るが夫は自分の保身の為その妻を道具に使う。夫の本心を知った妻は寂しく夫の元を去る。その跡にひらひらと舞い落ちた白木蓮の花びら。ファムファタール

⑫愛犬家には涙を誘う物語。でも読後感は悲しいが悲壮感がなく、むしろ晴れ晴れ。主人公ジョイスは新しい人生を歩んでいく希望に満ちたお話

物語のジャンルが多様で、初期の頃の作品ながら充分楽しめました。推理小説というよりはロマンスもの、サスペンス色が濃い感じで、これは当時のイギリスの女流作家パトリシア.ハイスミス、ダフネ.デュ.モーリアの作風を思わせます。

私のイチオシは③⑨⑩で女性の心理描写が鋭く描かれていて、ほとんど一気読みしてしまいました。

2021.12.22記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

ポアロのクリスマス

この作品は1938年に発表されたエルキユール.ポアロの長編小説で唯一の密室殺人がトリックに使用されています。

題名のとおりクリスマス期間に起こった殺人事件がテーマになっているので「これは是非ともクリスマスに読もう!」と心に決めていました。話の経過が12月23日~28日の期間なので、この日付のとおりに読み進めようと思い23日から読み始めましたが24日位からがぜん話が面白くなって、結局最後は3日位で一気に読み終えてしまいましたが(笑)

クリスティの小説の殺害方法は毒殺や自殺に見せかけたピストルでの殺害が多いですが、今回はおびただしいほどのなぶり殺し。阿鼻叫喚の叫び声やら、クリスマスを彩るのにふさわしい、血なまぐさい殺害方法がなされています。

物語の出だしは列車での旅行途中のシーンで始まります。そして大きな屋敷へ皆が集まるという、お決まりのシーンです。列車で出会った男女に早くも恋の予感が感じられます。

向かった屋敷はゴーストン館。名前もクリスマス感満載。

大富豪のリー氏がクリスマスを家族で祝うべく、子供たちを呼び寄せたのですが、このじいさん、子供たちに逆にいじわるを言ってクリスマスを待たずに殺害されてしまいます。

そして当然の成り行きとして遺産争いが起こりますがこの兄弟げんかなかなか壮絶で、他人事ながら面白い。リー氏の殺害後のひと幕に使われているセリフがマクベスの

「神の挽き臼はまわるのがのろいが、どんな粒も引き逃さない(デヴィッド)」「あの年寄りがあんなにたくさんの血を持っていたと誰が考えただろう(リディア)」

このセリフが印象的です。

マクベスの劇を観た事がないので、一度観てみたいですがクリスティの作品にはたびたび演劇のセリフが出きますね(シェークスピアを生んだ国だからでしょうか。

兄弟のしっかりしていそうな二人の妻たちもポアロに言わせれば犯罪を起こす可能性はあり得るらしく、誰もが犯人でもおかしくない状況で、解決のヒントとなったのが老執事のれ言だったのが小憎らしいですし、又意外でした。

ピラールの拾った落とし物もどういう意味があるのか全くわからなかったですが、後で意味がわかってこれにもビックリでした。

ポアロはもしかした男前の警視に焼きもちやいてたんでしょうか。それもヒントになったのかな、と後で思いました。

最後は兄弟たちもそれなりに仲直りし、若い二人は新天地に向かいます。どんなに血なまぐさい事件でも、後はさわやかな気分にさせてくれるクリスティからのクリスマスプレゼントにふさわしい色どりも鮮やかな1作品です。

登場人物

場所 ゴーストン屋敷

大富豪 シメオン.リー

亡き妻アレディド

長男 アルフレッド

その妻 リディア

次男 ジョージ 国会議員41才

その妻 マグダリーン20年下

三男 デヴィッド 画家

その妻 ヒルダ

他の兄弟 ハリー

娘 ジェニファー

その夫スペイン人との子

ピラール.エストラバドス

シメオンの従僕 シドニー.オーベリー

執事 エドワード.トレッシリアン

給仕 ウォルター

シメオンの旧友エピニザー.ファー

その息子 スティーヴン.ファー

警視 ザクデン

警察部長 ジョースン大佐

2021.12.31記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

謎のクイン氏

①クイン氏登場

②窓ガラスに映る影

③〈鈴と道化服〉亭奇聞

④空のしるし

⑤クルピエの真情

⑥海から来た男

⑦闇の声

⑧ヘレンの顔

⑨死んだ道化役者

⑩翼の折れた鳥

⑪世界の果て

⑫道化師の小路

あらすじ

①大みそか、招待された家に嵐と共に黒髪の男性が訪問する

(元旦に黒髪の男が最初に訪れると幸運が舞い込むといういい伝えがあるらしい)

彼の名はハーレ.クイン氏。

その家の元の持ち主の自殺した謎をとくヒントをサタースウェィト氏に能える。

この時からサタースウェィト氏は道化師役をクインから進められる。

同時代の歴史家より後世の歴史家の方がかえって正しい物の見方、釣り合いのとれた物の見方ができる為、真実の歴史が見えるという。

②幼妻の情事に嫉妬した夫が女性の帽子をかぶり窓ガラスからのぞき見しているのを幽霊が映っていると思わせ、二人を殺害する。

③車が故障して入った料理屋でクイン氏と再会。街で失踪した大尉とその新妻の秘密を探る。

④裁判に出席していたサタースウェィト氏がひいきにしている店アルレッキーノ(美食の店)でクインと再会、彼は言う「普段は傍観者の自分が、クイン氏と一緒にいる時だけは主役になった幻想を抱くことができる」

元メイドを探しにカナダまで行くサタースウェィト。彼女は空に巨大な白い手を見たときに事件が起こったと証言する。

⑤カジノで落ち目になった伯爵夫人が全財産かけて勝負する。勝ったのはサタースウェィト氏だがクルピエは伯爵夫人にかけ金を回す。そのクルピエは昔、伯爵夫人に振られた恋人だった。

(その一方)若いカップルが誕生

⑥冒頭の犬のシーンが印象的

ひなびた海沿いの一本道、ゴミの山を喜び転げ回った犬が車にひかれて即死。死にぎわの犬の目にあった人生の悲哀、残酷さ。

ああ、私が信じていた素晴らしい世界よ、どうして私にこんな仕打ちをするのか

崖のてっぺんの家で昔のなじみの男女が再会する。そこに女の元夫(死者)の代弁者としてクインが現れる。

⑦メイドと入れ替わった姉ビアトリスの霊が交霊で出現、鈴と道化服亭でクインと会う。

⑧オペラハウスで出会った男女3人の三角関係の物語〈アルレッキーノ〉の店でもう一人の男と会い、彼の犯罪を未然に防ぐ。美しすぎる顔を持つ女の悲劇

⑨死んだ道化役者という名の1枚の絵が暗示する事件を解決する、銀の水差しを持った泣き女の名演技が光る。

⑩降霊術でクインから暗示を受けたサタースウェィトはライデル荘に向かう。そこにはこの世の者とは思えないニンフのような女性がいた。

⑪公爵夫人とコルシカの世界の果てと呼ばれる地に向かう。恋人の無実を知った女性が深い絶望から立ち上がる。

⑫みんなで踊るショータイムの後にサタースウェィトがクインと別れる。それと共に彼の道化師の役も終わりを告げ、現実世界に戻ってしまう。

感想

1930年に刊行されたアガサクリスティ3作目の短編集です。

1度読んだものの、それからしばらく空いてしまい、細かい内容を忘れたのでざっと読み直し、各編の

要点をまとめました。

どの話も幻想的で神秘に満ちあふれています。

夜寝る前に一杯のお酒を飲みつつじっくり味わってほしい、そんな一冊です。

大みそかの日には是非①を、嵐の日は③、ひとりでいたい時には③、④、⑤、⑦を鈴と道化服亭でステーキを味わいたいです。

⑥これは夜よりも明るい日ざしが似合う希望に満ちた作品

⑫悲しい別れが切ない。この後時を経てふたりは再会します。その話は「マン島の黄金」に掲載されてます、。その作品も是非どうぞ❗

2021.12.24記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

ヘラクレスの冒険

①ネメアのライオン

  ジョージ登場

②レルネーのヒドラ

  嫉妬というものはたいていは真    実に根ざしている

③アルカディアの鹿

④エルマントスのイノシシ

  人には何かしらピンとくるものがあるのです

⑤アウゲイアス王の大牛舎

⑥スチュムパロスの鳥

  湖のほとりに住み人間の肉を常食する鉄のくちばしをもつ鳥

⑦クレタ島の雄牛

  ポセイドンに捧げられた雄牛

⑧ディオメーデスの馬

人の肉を食べる荒馬

⑨ヒッポリュテの帯

  ジャップ警部登場

⑩ゲリュオンの牛たち

  ジャップ警部登場

⑪ヘルペリスたちのリンゴ

  助手ジョージ登場

  スペインのことわざ

  欲しいものをとるがいい

  そしてその代償を払え

⑫ケルベロスの捕獲

  ロサコフ夫人、ミス.レモン登場

1947年発表の全作ポアロの短編集。

事のおこりでバートン博士と会話していたポアロは、引退してカボチャの栽培をする前にギリシャ神話のみずからのクリスチャン.ネームであるヘラクレスの難行にちなんだ象徴的な12の事件を解決することを誓います。

①掛け持ちの家の夫人の飼い犬ペキニーズの誘拐犯を独自の推理で解決するポアロ。コンパニオン役で登場するミス.カーナビー(この事件の犯人でもある)は⑩ではポアロのスパイ役を見事に演じている。

②九つの首を持っていて、一つの首を切っても首が二つはえてくる怪物

。妻を殺害したうわさを流されたオールドフィールド医師が真相をポアロに相談。若く美しい薬剤師に医師を奪われた看護婦がひ素で医師の妻を殺し、うわさを流していた。

③愛車が故障して宿に泊まるはめになったポアロはアルカディアの若い羊飼いのように美しい若者からある女性を探してほしいと頼まれる。苦労の末探しだした娘は元バレリーナで病に冒されていたが、若者と一緒になって美しい脚を持つ子供たちを作るようポアロに未来を託される。

④スイスの峡谷に来たポアロはあるホテルに凶悪殺人犯が潜伏していることをスイスの警察から知らされる。ホテルの給仕係から自分は先に潜入している刑事だと伝えられるが、彼こそが殺人犯だった。ポアロ絶対絶命のピンチを同じ観光客のアメリカ人に救われる。

⑤首相から義理の父でもある前首相の不正の後始末を頼まれたポアロ。大掃除の神話でヘラクレスが利用した川(自然の偉大な力=セックス)を利用して、マリー.アントワネットの首飾り事件をまねて夫人とそっくりの女性を使い、見事国民の同情をかうことに成功する。

⑥若い次官の男はバルカンの国で二人の美しい母娘に出会い、ひょんなことから夫殺しをもみ消す母親に加担して金を巻き上げられる。語学ができない弱みにつけこまれた世間知らずの彼は二度と騙されないよう猛勉強することを決意する。

⑦自分に狂気の血が混じっていると婚約破棄された娘がポアロを訪ねる。娘の彼は実は不義の子でそれに気づいた父が薬を使って彼を自殺させようとしていたのだった。

⑧美人4姉妹というのは嘘で、麻薬密売人が不良娘たちを自分の娘に仕立てて麻薬を売りさばいていた。彼女に恋をした医師が愛の力で救おうとする。

⑨盗まれたルーベンスの絵を取り返す依頼を受けたポアロ。

と同時期にフランスの学校に入学する途中の女学生の失踪事件が起きる。

この二つは関係あると目をつけたポアロ。女学生がみやげに持っていった絵をはがすとヒュポリュテが自分の帯をヘラクレスに渡すのを描いたルーベンスの絵が出てきた。

⑩退屈な毎日に飽き飽きしていたミス.カーナビィ。友人の入信している宗教団体に不審を抱き、ポアロのスパイとして自ら入信。ポアロと共に組織の悪をあばく。

⑪ボルジア家由来の貴重な聖杯を盗まれた美術品蒐集家が聖杯を取り戻すようポアロに依頼する。

盗んだと思われる盗賊団の由来からポアロはある人物に目星をつける。それは盗賊の娘で彼女が尼僧として入った修道院で、そこで聖杯として拝められていた。一度は取り返したが、ポアロは蒐集家にその杯を修道院に戻すよう求められる。

⑫地下鉄でヴェラ.ロサコフ伯爵夫人と20年来の再会を果たすポアロ。ロサコフ夫人は「地獄」という名のバーを経営していて、そこは麻薬の常用者のやりとりの巣となっていた。そこには冥府の番犬ケルベロスがいた。ロサコフ夫人の嫌疑をはらすポアロ。夫人の息子のフィアンセが黒幕だった。

ヘラクレス感想

物語の舞台もスイス、バルカン半島、フランスとさまざまで、内容も犬誘拐、毒殺、行方不明者探し、詐欺事件とバラエティに富んでいて飽きさせない。

ヘイスティングズ大尉が登場しない分、ポアロの魅力を充分味わえる一冊です。

ジャップ警部、ミス.レモン、助手のジョージ、そしてヴェラ.ロサコフ伯爵夫人と懐かしい人物も登場します。

殺人事件が起こらない話もあり、ポアロのロマンスも味わえて、心暖まる気分になれました。

私のイチオシは⑩

ミス.カーナビーの名演技が光ります。

あと、⑥もいいですね。人を外見だけで判断してはいけない。もっと世間(語学)を知らないと騙されるというブラックユーモアが愉快でした。

余談ですがポアロの幻の双子の兄弟アシール.ポアロの名はヘラクレスことエルキユール.ポアロにとってはほろ苦い存在だったのでしょうか。

名言(バートン博士)

人間にとって大事なのは仕事の時間じゃなくて暇な時間なんだよ、、納得

2022.1.15.記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

ビッグ4

この作品は1927年に発表されたアガサ・クリスティー7作目、ポアロ長編4作目、全世界を征服しようともくろむ国際犯罪組織とポアロの対決が描かれています。

解説やあとがきを見る限り、この作品の評判は決して良くないです。

中には読む価値すらない!なんて言いきっている解説者もあったりします。

私はここしばらくヘイスティングズ大尉の登場する作品を読んでなく、手元にあった本で彼の登場する作品がこのビッグ4しかなかったので、とりあえず読み進めていきました。

冒頭でヘイスティングズとポアロの再会があって、いきなり半死の男が二人の前に姿を現わし、あっという間に国際組織と対決する事態に発展し「ふんふん、なるほど」と読んでいましたが、読み進めるうちに、なんとなく違和感を覚えました。

あとで知りましたが、この作品はもともと雑誌に掲載されていた短編集を集めて一つの作品にしたらしく、二人の状況の変化が激しく、フレーズごとに登場人物も変わる為(やたら登場人物が多い訳がわかった)話にまとまりがないような感じがしました。

犯罪組織と戦っているので当然人はたくさん死にますが、ポアロとヘイスティングズも何度も命の危険にさらされます。

それどころかポアロが本当に死んでしまったので、これにはビックリ。

主人公死んだら話ここで終わるやん!

と頭のどこかで思ってはいてもスリルに走りすぎた感は否めません。

ヨーロッパ各国の首脳陣まで動員して犯人のアジトを追いつめたにしては結末があまりにあっけないし、ギリギリの瀬戸際で助けてもらった相手がロサコフ伯爵夫人とは。

最後の場面のセリフで、「引退して結婚も悪くない、、、」なんて言って、、、。

さすがにこれは、、とまあ、つっこみどころ満載の作品ですが。

全ページ通して、ポアロとヘイスティングズの厚い友情にあふれています。

そして意外な人物が2人登場します。

一人はポアロの兄アシール。もう一人がロサコフ伯爵夫人。

兄アシールの存在は「ヘラクレスの冒険」でポアロが彼の存在を明らかにしていますし、ロサコフ伯爵夫人は短編集で登場しますが、ポアロが気になる女性みたいですね。

全体的に内容は支離滅裂で、本格的推理小説ファンにはどうかと思いますが、クリスティーファンとしては初期で、家庭的に不安定な時期の作品としてこんなのもあるんだと知って損はない(多分)

あとチェスの場面が出てきますが、これはチェスの知識がないと書けないし、読んでもわからないので、その知識があるクリスティーってちょっとすごい、尊敬します。

登場人物

№1 リー・チャン・イエン(中国人)

№2 エイブ・ライランド(アメリカ人、石鹸王)

№3 マダム・オリヴィエ(フランス人、科学者)

 その秘書 イエズ・ヴェロノー(実はロサコフ伯爵夫人、宝石泥棒)

№4 クロード・ダレル(元俳優)

 その元恋人ミス・フロッシー・モンロー

ジョン・イングルズ 元公務員、中国通

シドニ・クラウザー イギリス内務大臣

デジカルドー フランス首相

アシール・ポアロ エルキュール・ポアロの双子の兄

ジョナサン・ホエィリー 元船乗り

 その使用人 ロバート・ブラント

ジョン・ハリデー イギリス人科学者

マドモアゼル・クロード、ムッシュ・アンリ №3の助手

ピエール・コンボウ ポアロの友人

メイアリング 逃げてきた男(イギリス情報部)

アーサー・ネヴィル(ヘイスティングズの変装、№2の秘書)

アップルビー アメリカ人秘書

ミス・マーティン 速記者 

ジェイムズ 従僕

ディーヴズ 従僕

ペインター 旅行家

 その甥 ジェラルド  アー・リン 従僕

クエンティン 医者

サヴァロノフ チェスの名人

 その姪 ソーニャ・ダヴィロフ

キルモア・ウイルソン 挑戦者

2021.12.4記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

復讐の女神

この作品は1971年に発表された、前作「カリブ海の秘密」の続編でアガサクリスティが書いた最後のミス.マープル物です。

年老いたマープルが前作で協力して事件を解決した盟友ともいうべきラフィール氏の死後に彼の弁護士を通じて依頼された任務を果たすべく大活躍します。

マープルの鋭い勘と人物の本質を見極める深い観察力が発揮される集大成というべき作品に仕上がっていると思います。

今回はマープルは冒頭から最後までずっと出ずっぱり。

人の話を揺り椅子に座って編み物をしながら、ふんふんと世間話でもするように犯人を言い当てる、なんてお気楽なおばあさんではありません。

バスツアーに元気に参加して歩きまわり、後半には「私の名はネメシス(復讐の女神)よ!」なんてたんかをきるシーンもあってマープルがかっこよすぎてマープルファンにはたまりません(笑)

ただ、今回の任務はマープルは最初から全くの白紙の状態で、一体何をラフィールがマープルに解決してほしいのか、誰が犯人かわからない状態で、乗客の一人一人、招待してくれた三姉妹他(それもツアー客の名前覚えるのも大変)から糸口を見いだす過程が長いため、話が進むのが冗長に感じられます。

ツアーの途中、三姉妹の家に招待され、屋敷を案内される場面でマープルはえたいのしれない恐怖を感じとります。

その時のえたいのしれなさが本題解決の糸口になる訳ですが、後から思うとこのシーンはとても恐ろしい場面なわけで。何と言っても死体のすぐそばにいるわけですから。

本来この作品は三部作となる予定で、この次の作品はクリスティが死去した為描かれることがなくなったらしいです。

更なるマープルの活躍を見ることがかなわなかったのは残念です。

事件を見事解決し、大金を手にしたマープルは何をしようとしていたかは想像するしかないですが、私は不幸な人たち、老齢の人たちが安心して暮らせるような施設みたいなのを作りたかったんじゃないかと思います。

登場人物

ジェースン.ラフィール 故人

 その息子 マイクル

 息子のフィアンセ ヴェリティ.ハント

ノラ.ブロード 行方不明の娘

エスター.ウォルターズ ラフィールの秘書

旧領主邸の三姉妹

クロチルド.ブラッドベリースコット

ラヴィニア.グリン

アンシア.ブラッドベリースコット

ジャネット お手伝い

バスの乗客

サンボーン夫人 付き添い役

ミス.ラムリー 二人連れ老婦人

ミス,ベンサム

(ボス役)

ライズリー.ポーター夫人

その姪 ジョアナ.クロフォード

ワニステッド教授

キャスパー氏 外国人

ウォーカー大佐夫妻

エムリン.プライス 青年

ミス.クック(金髪) 中年婦人二人連れ

ミス,バロー(黒髪)

ミス.エリザベス.テンプル 元女学校長

リチャード.ジエームスン 建築家

バトラー夫妻(アメリカ人)

ブラバゾン副司教

ラフィールの顧問弁護士

 Jr.ブロードリブ

 シュスター

2021.12.18記

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ねじれた家

この作品は、1949年に発表された原作名(Crocked House)
これはマザーグースの童謡から採られています。

その童謡はこれです。

ねじれた男がいてねじれた道をあるいていた

ねじれた男がいてねじれた道を歩いていた

ねじれた垣根で、ねじれた銀貨を拾った

男がねじれた鼠をつかまえるねじれた猫をもっていた

そしてみんな一緒に小さなねじれた家に住んでたよ。

読むかぎりで頭がねじりまくりになりそうなフレーズですが、

結婚を決意するカップルの女性宅で家主が殺害される事件が起こります。

副総官を父に持つヘイワードが父の権威を武器に犯人捜しを始めますが、彼女の家族は皆変わり者だらけです。

アリスタイドの後妻は夫よりずっと年下の猫のような女性で、長男は人柄は良いが経営能力はゼロのダメ男で、その妻は冷酷な科学者、そして今でいうミニマリスト。

次男は物静かだが感情に乏しく本の世界に浸りこんでいる世間知らずの学者で、その妻は売れない女優。。ソフィアの弟は障害があり、妹はみにくく、友達もなく、大人の世界をのぞき見して喜んでる変わり者という有様。

ソフィアは才色兼備の女性ですが、そりゃこんな家族、婚約相手に紹介したくないわって私も同感です。

一番立場の弱い後妻のブレンダが不倫相手の家庭教師と手を組んで祖父を殺害したって線でこの2人に疑惑の目が向けられます。

さらに第2,第3の事件が起きて別の犯人像が浮かびますが、父の遺産を相続したのはソフィアだったので、(犯人はソフィアか?)と私は思いましたが、真犯人は何と、、、

いやあ、意外でした。そして恐ろしい、、、

でも真犯人を知ってしまえば、誰もが怪しく思われて、かつ犯人たりえなかったのかが納得できます。

(ネタバレになりますが)

子供ゆえに単純で無邪気な殺人であるため一層不気味で恐ろしい殺人になるのですね。

童謡からイメージするとアリスタイド老人がねじれた人物と思われましたが、彼が一番まともな人間であとはソフィア、前妻の姉エディス.デ.ハヴィランドなのです。

だからアリスタイド老人はソフィアに跡を継がせて家族を守ろうとし、エディスはジョゼフインを連れていったのです。

この作品は映画化されているので映画も観られると、映像でも味わえるのでおすすめです。

ただどちらも後でのおどろおどろしい感じはぬぐえません(笑)

小説は最後が軽く、明るいのでその分ましかも、、、

映画は車が崖に突っ込んでドッカーン、、、ちょっとあっけない

この作品はアガサ・クリスティーが選んだべすと10の中の一つです。

犯人が意外な人物なので本格的推理小説を好む人には評価が分かれるかもしれませんが。

実際、子供の殺人事件って昔でもあったと思います(言わないだけで)

雨の週末、どこにも出かける予定がない時、一人で家にこもりたい時、じっくり読むとはまってしまいそうな、少しねじれた!?アガサ・クリスティーの世界をどうぞ堪能して下さい。

チャールズの父の名言

殺人犯というのは根っからいい人も悪くない。人殺しは必要なことなんだ。何か隠してる人間というものは思う存分しゃべれない。

登場人物

主人公 チャールズ.ヘイワード 外交官

その父 ロンドン副総官

父の部下  タヴァナー 主任警部

      ラム   部長刑事

富豪 アリスタイド.レオニデス (糖尿病)

後妻 ブレンダ

亡前妻の姉 エディス.ハヴィランド(残忍)

長男 ロジャー(かんしゃくもち)

長男の妻 クレメンシイ (科学者)

次男 フィリップ 

次男の妻 マグダ(女優)

次男の子供たち

 長女 ソフィア(チャールズの恋人)

 その弟 ユースティス (障害者)

  妹 ジョゼフイン(ぶさいく)

家庭教師 ローレンス.ブラウン (後妻と恋仲?)

弁護士 ゲイツキル

メイド ジャネット

毒物エゼリン 目薬の成分 アリスタイドの薬に入れて殺害

2021.12.10記

 

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アガサ・クリスティー 読書感想文

秘密機関

1922年に発表されたこの手紙は、アガサクリスティの長編第2作目でトミーとタペンスが「青年冒険家商会」たるものを作って、沈没寸前のルシタリア号に乗っていた、政府の極秘文書を持っていたと思われる「ジェーン.フィン」という女性とその文書を探す冒険サスペンス。

とにかくタペンスのエネルギー全開感がすごいです。

戦後の仕事がない、お金がない、希望がないのないないづくしの時代だからでしょうが「私はお金が欲しいのよ!」と言いきるタペンス。真っ正直で、ためらいも全くない、ぶっちゃけな欲望が嫌みなしにすがすがしいです。

そんなタペンスに戸惑いながらも卑屈にならず、状況をクールに分析するトミー。物語のラストで実は彼にスパイの地が流れていることがわかります。

謎の男「ブラウン氏」の正体、途中でもしやジュリアスでは、と思いましたが、これは見事にはずれましたね。

逆にジェーン.フィンの正体はわかりやすかったです。

このジュリアスの常識はずれの金持ちぶりも豪快で、急にロールスロイス買ってきてるし、あまりに性格があけっぴろげだし。

そもそもツッコミどころ満載です、このお話。

素人の20才そこそこの子供たちに政府の機密文書を探させるなんてあり得ないし、急に車買って乗れるわけないやん!!

敵のアジトにトミー一人でそうやすやすと入りこめるのもあり得んやろ(もっとも中で捕まってえらい目にあったけど)

若い頃のアガサクリスティだからこそ書けたであろう波乱万丈の

このお話は、世間の常識とかを忘れてひたすら物語を楽しむのが一番です。

私は先に「NかMか」を読んだので、若かりし頃の2人の姿を知りたく、興味津々でこの作品を読んだのですが、想像どおり、いやそれ以上にお転婆で頭の回転の早いタペンスと、冷静沈着なトミーを知ることができました。

あと、残るは「運命の裏木戸」でふたりがどんなおじいさん、おばあさんになってるのかがとても楽しみです。

登場人物

トミー(トマス.ベレズフォード)

タペンス(プルーデンス.カウリー)

エドワード.ウィッテントン

 エストニア.グラスウェア社長

ボリス.ステファノス ロシア人

ジェーン.フィン

 行方不明の女

ジュリアス.P.ハーシャイマー

 ジェーンのいとこ

リタ.ヴァンデマイヤー夫人

ジェームズ.ビール.エジャートン

 弁護士

A.カーター 情報局員

ソーホーの召使い

アネット、コンラッド、アルバート

2022.1.21記

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アガサ・クリスティー 読書感想文

三幕の殺人

一回目のパーティーの出席者(計14名)

エルキュール.ポアロ

チャールズ.カートライト(元俳優)

 彼のメイド テンプル

 彼の秘書 ミルレー

サタースウェイト(パトロン)

バーソルミュー.ストレンジ(神経医)

 彼の秘書 ミス.リンドン

メアリー.リットン.ゴア

  娘 エッグ(ハーマイオニー)

オリヴァ.マンダーズ(エッグの友人)

スティーブ.バビントン(牧師)

その妻 マーガレット

アンジェラ.サトクリック(女優)

フレディ.デイカズ(大尉、競馬狂)

シンシア(アンブロジン商会の経営者、妻)

アンソニー.アスター(ウィルズが本名、女脚本家)

執事 ジョン.エリス

警視 クロスフィールド

大佐 ジョンソン

ミセス.ドラッシュブリッジャー

この作品は1934年刊行、「ポアロのクリスマス」で犯人の名が証されているらしいですが、私はまだ読んでないので読むのが楽しみですが、題名のとおり話の構成も第1幕「疑惑」第2幕「確信」第3幕「真相」と三部作に分かれています。

第1幕、第2幕では話が淡々と進むので、少し退屈に感じました。

ポアロが出席したパーティーで老齢の牧師が急死し、しばらく後にもほぼ同様の演出で同じく老齢の医師が

急死します。その2つの事件に関連性を信じたチャールズ、サタースウェイト、ミス.エッグの3人組が犯人を追及していくのですが、真犯人が判明してしまえば「なあんだ」と思ってしまいました。

犯人の真の目的を知ってしまうと、その為にこんな回りくどい演出をして無関係な人間を何人も殺すなんて!と私は怒りを覚えました。

こういう人のことをサイコパスと言うのでしょうか。

第3幕に入ってポアロが犯人追及に参加しだすと、がぜん話が活気づいてわくわくします。

やはりポアロの存在感はすごいです。

それとサタースウェイトがこの作品に登場します。

彼の人物像の評価に鋭い眼が光ります。

サタースウェイトとポアロのコンビのやりとりが見ものです。

それに比べると、若い女と下心みえみえの中年男のコンビのやりとりは見ててあさましいですね。

あと、この作品には読んでて「おっ」と思うようなセリフがいくつかありました。

バーソルミュー氏の持論の「事件が人に近寄ってくる。人が事件に近寄るのではない」

確かに!

ポアロの行くところには常に事件が起こりますよね。主人公だから当然といえば当然ですが。

あと、誰が言ったか忘れましたが「55才の男性は若い女に走る年なんだよ」って、ああなるほどね。

男としての最後の本能が、若い無邪気な女に向かうから、現代でもその取り合わせの不倫カップルが多いのですね、納得。

最後にポアロのセリフがチャールズ、サタースウェイト、ポアロの組み合わせを見事に表していました。

「人の頭脳は3つの種類に大別できます。まず演劇的頭脳、次にその効果に反応する頭脳、そして最後に実際的な頭脳があるのです」

この作品は特に演出を意識した作品で、劇を観ているようでした。

でも無差別殺人を「通し稽古」にするのは私は許せないです。

この犯人嫌いです。

2021.11.25記